昔の川柳の書物「柳多留」(やなぎだる)
その中に出てくる川柳で
『四、五両の おこわを息子 ゆうべ食い』
というものがございます。
おこわというのは強飯(こわめし)のことです。
お赤飯が分かりやすいですかね。
ごま塩のかかったりしてるアレです。
江戸時代におこわで5両とはえらく高い🤑
なんだろうなと思っていると、この川柳の『おこわ』という言葉には『おぉ怖っ!』という意味がかかってるんだそうです。
冗談のようですが本当ですよ。笑
語源としてはもともと美人局のことを言いました。
それが転じていって人を騙すことを「おこわにかける」と言うようになったと。
言葉の変化の面白いところですね。
騙し・騙されといえば遊郭です。
騙した方が偉い。
騙された方が負けってのは凄い感覚ですねぇ。
遊郭の遊びには上・中・下があります。
まず行かないのが上。上は『来ず』
中は昼に来て昼に帰る。
下は夜に来て朝帰り。
さらに下下(ゲゲ)が『居続け』
そのまた下下が『居残りをする』
どうやらこれは遊郭の女性側が決めた上中下だそうですが、上はまず『来ない』。
つまり『来ると面倒だからお金だけ届けてくれりゃいい』というのが上❗️
で昼間来てすぐ帰ってくれるのはまだマシってのが中。
夜に来て一晩中いやがったよ〜なんて言われるのは下に分類されてしまう😅
このお客が1番多かったんじゃないかなと思いますがね。
さらに『居続け』となると男側からは一見響きはいいんです。
「女が離さねぇから居続けしちゃったよ〜」

ってなもんですが、女性からすると全く粋でも何でもなく迷惑がられていたと…。
(いつまでいる気…?早く帰りなよ…😒)
ってなもんでしょうかね?

そしてそのまた下がタイトルにもあります『居残り』。
こうなると女性だけでなくみんなから嫌がられたと言われております。
〜ストーリー〜
ある男。
友達を集めて品川にある遊郭へ遊びに行こうと言いました。
「金なんだが、みんなは1両ずつ出してくれ。
あとはオレが持つよ」
仲間はそんなお金で騒いで遊べるということで喜んで賛同します。
芸者も呼び、呑めや歌え、直してまた直して(芸者の時間の延長のこと)と散々に遊んで、そろそろおしけ(終わりにする)にしようかという頃に男が仲間を隣の部屋に呼びました。
「いやぁ、よく遊んだな。
じゃあみんな約束通り1両ずつ割り前を出してくれ」
「それなんだけどさぁ。
ここはただ一晩遊んでも1両かどうかってところだ。
さすがにあれだけ呑んで騒いで1両ってのは気が引けるよ。
本当にいいのかい?」
「気にされちゃ困るんだ。
みんなが出した1両にオレの手持ちの金を足してここに5両ある。
これでしばらくはつなげるだろうから、オレのおっかさんに渡してくれ。」
「えっ?なんだよ。
一緒に帰らないのかい?」
「オレはここに居残りするよ」
「そんなこったろうと思ったよ…。
1両ずつでいいからなんて無茶な話だ。
いやぁ、そんなことせずに帰ろうよ。
居残りなんか何されるかわからねぇよ?」
「心配はいらねぇよ。
実は…オレは医者から転地療養をしろって言われてな。
空気のいいところに行けって言われててね。
東海道で潮風に当たるところならどこでもいいって言われたんだ。
品川も東海道だし、潮風もある。
しばらく経ったらきっと帰るから大丈夫だよ。
お前達は明日の朝早く先に帰ってくれ」
そう言って友達を帰してしまいます。
そして各々部屋へ戻ってゴロッと寝てしまう。
翌朝☀️
「おはようございます」
「おお、おはよう。起きてるよ。」
「失礼致します。
昨晩はありがとうございます」
「いやぁ礼を言いたいのはこっちだよ。
なるほど、評判通りだねぇ〜!
思ってたよりもはるかに面白いよ。
遊びってのは同じおあし(お金)を使っても面白くねぇことだってあるんだけど、面白かった!
ありがとう。
いや〜みんな気に入ってたよ。うん。
オレの友達はどうした?」
「あぁ、今朝早くにお帰りになりました。」
「ああ、そう。
あいつらは商売があるから。
豪気な商売してるやつらでね。
ちょいと顔を出して話をすりゃガバッと銭が儲かるって人達だ。
でも年は若いから遊びは好きでね。
若くて金があるんだから使うったってどこ行っても凄いよ。
ハタから見ててハラハラするぐらいだ。うん。
そんな連中がこれからも贔屓にするって言ってたから、お前さんも祝儀いくらもらえるかわかったもんじゃねぇ。
今のうちに大きながま口でも買ってきな」
「ありがとうございます。
旦那はどうなさいますか?」
「オレはまだ酒が残ってるからね。
頭がちょいと痛い。
いや、いい酒だったけどやり過ぎたな。
もう少し療治して帰るよ」
「あ、じゃあ按摩でも呼びますか?」
「バカ言っちゃいけない。
酒でやったんだから、酒で治すのがいいんだ。
熱いのを1本…」
「えっ?ちょっと待ってください。
旦那はまだお帰りにならないんで?」
「いや、帰るよ。
遊びに来ただけで引っ越してきたんじゃないんだから、そりゃいつかは帰る。
でもすぐには帰らないよ。
このかんかん照りだ。
お天道様が西寄りになってからだな。」
「あぁ、そうなんですか…。
そうしますと私代わり番で他の者が来ることになるんです」
「おう。構わねえよ。代わんな。」
「は、はい…。
で〜…え〜そこでここまでのを1つ…あの〜お勘定を…」
「あっ、おーっとっとっとぃ!
ちょいちょいちょい!
なんだ、なんだよ?」
「はいっ?いや、ですから勘定を…」
「わーったったった!
それ、それだよ。
なんだよ、その勘定ってのは?」
「か、勘定は勘定で…」
「わかってるよ!
あのねぇ、そういうことを聞きたくないんだよ、愉快をしてる時に!
いずれ払うもんだよ。払うもんだけどさぁ。
楽しんでる最中にそれ言われると何だかスーッと熱が冷めちゃうだろ?
そんなにいちいち勘定払ってくのかい…?
あたしゃいつだってまとめて払うんだよ。
いや別にいいんだよ、払ったって。
でも勘定払うとそこで事切れになっちゃうんだ。
そしたら何もずっとここにいたってしゃあねぇや、他へ行って使おうかってぇことになるだろ?
それでここを出て向かいのウチへ上がったりしてさ。
ワーっとドンチャン騒いでごらん?
なんか当て付けがましくってイヤなもんだろ?
お前さんだってイヤだろ?
だから同じことならこうして気分良く気持ちをずーっと持ってたいんだよ。
それをお勘定なんてオレは言ってもらいたくないんだ。
どうしてもってんならオレは勘定払ってスッと帰るけど…」
「あぁいやいや、わっ、わかりましたわかりました。
それじゃ〜あの〜どうぞお直し頂いて…いえいえ!
私も代わらずにずっとおりますんで…」
「そうしてくれりゃありがたいね。
顔馴染みの方がいいからね。」
「はい。
で、何か召し上がりますか?」
「それなんだ。
酒とねぇ、朝直しは湯豆腐に限るって言うが、ちょっと生臭みがあるもんが欲しいなぁ。
牡蠣豆腐かなんか持ってきてくれよ。
で、精を付けなきゃいけないから、ウナギを蒲焼きで卵焼きかなんかあしらってもらおうかな♫」

「左様ですか。わかりました。」
そうしてまた一杯やってから、畳んだ座布団を枕にしてゴロッと寝てしまいます。
「あの〜すいません。お客さん。
失礼致します」
「…んっ?うぅ〜ん…よく寝ちゃったね。
昨夜の酒がサーっと飛んじゃって、精も付いた気がするよ。
今何時だい?」
「3時半でございます。」
「そうかい。
風呂は沸いてる?」
「えっ?えぇ…沸いてますが…」
「とりあえずひとっ風呂浴びようかな?
シャボンと手拭い貸してくれ。
…いや〜いい湯だったよ。
ちょっと喉が乾いちゃった。
今度は冷やでキューっといくかな?」
「だいぶお天道様も西へ傾きましたが…まだお帰りにならないんで?」
「うん。まだ帰らないよ?」

「あ、じゃあまたお直しに?」
「そうそう♫」

「そ、そうですか…。
えと〜〜〜…ス〜ハ〜…恐れ入りますが…ここでいっぺん…お勘定を…」
「おーっとっとっと、またまたぁ…。
他に言う言葉を知らねえのかい?
人の顔見りゃオカンジョウ、オカンジョウって。
よしなさいよ、そんなこと言うのは。
カンジョウを害するってぇやつだよ。へへっ。
遊びなんてどんなもんだっていずれは飽きるんだ。
そん時にゃ帰る気持ちになってこっちから勘定をって言うんだから待ちなさいよ。
やたらせっつくんだから。
第一こっちが帰らないのは何のためだと思ってんだよ。
先に帰ったやつらだよ。
あれだけ遊ぶ連中だ。
また2、3日のうちに来ようかって話かと思ったら熱の冷めない今日のうちにまた来ないとダメだって言っててね。
自分達は商売があるから先に帰るけど、オレにそれまでつないでてくれって言うから『おう、いいよ』って話になってるんだい。
だから6時過ぎて日が暮れて、周囲の店の下足札が出たり提灯に灯りがつく頃に坂の上から俥が何台かカラカラーっと走ってきて、この店の前にピタッと着く。
すると昨日の連中がまた降りてくるよ。
みんなが昨日とはまた違った着物だ。
こういう遊びを君に見せたいねぇ!
『おうっ、若い衆!
夕べは世話になったな!
また昨日と同じ芸者また頼むぜっ!』
なーんてまたウワーッと騒いで祝儀がバンバン行き渡ったら酔ったりでもってスーッと気持ちよく引き揚げるんだ。
おあしが落ちるんだが…う〜ん、惜しいなぁ。
じゃあ勘定払おうか。」
「いやいやいやいや、わっ、わかりましたわかりました。
いやそうして頂けるんなら私どもも助かりますんで、はい。
で…何を召し上がります?」
「そうだなぁ。
今度は中トロにしようかな?
あとは柱!貝柱ね。」
そう言ってまた一杯始めてしまう。
この若い衆さんも気にはなるんですが、他にもお客が来るものですからそちらの相手もしないといけません。
そうして忙しくしてる間にまた翌朝☀️
「え〜、おはようございます」
「はいよ。起きてるよ。」
「へい、失礼致しやす。
あ、どうもおはようございます。」
「おうっ、おはよう!
気分はどうだい?」
「え…えぇ、まぁありがとうございます。
おかげさまで…」
「あぁ、そう。
お天気はどうだい?いい?晴れてる?
あぁ〜そうかいそうかい。
雨ってのは陰々滅々としてて嫌いでね。
天気は晴れてなくっちゃぁね!
天気晴朗けっこうだねぇ!ハハハ♫
…なんかぼんやりしてるね?
何かあったの?」
「いえ、ぼんやりというか…あの〜夕べ。
お見えになりませんでしたね。」
「何が?あぁ!友達かい?
来なかったねぇ〜!それたよ。
来ると思ってたんだけどねぇ。
何かよほどのことがあったんだろう。
気になるなぁ。何があったんだろ?
あの連中のことだから、そういうことはちゃんと守るんだよ?
それが来ないってのは何かあったに違いねぇ。
う〜ん、今夜だね。戦は。
今夜だ。今夜来るよ。うん。
辺りが暗くなるだろ?
周りの店の提灯に灯りがつく頃に坂の上から何台か俥が降りてきてこの店の前へピタッと…」
「着かない!着かないよ、あなた。
昨日もそれ伺いましたけど来なかったじゃありませんか。
ですからねぇ…着く・着かないは別として、え〜、1つあの〜…ここでもってお勘じょ…」
「ウワーッとっとっと!」
「いやいや、いえっ、もうお勘定をね。
私もこんなこと言いたくはないんですよ?
ご内所がやかましいもんでございましてね。
1つキリを付けて頂きたいんです。」
「あ、そう…どうしても?
ここでオレがいなくなるとあの連中が来ても
『なんだアニキはいないのかい?
じゃ他行って遊ぼうじゃねぇか』
とここで使うお金を他へ持っていかれちゃうんだよ?
惜しいじゃないか、キミ。」
「いえそれももう仕方がございません。
結構でございます」
「あっそう。
じゃどうしても今勘定をしてもらいたい?
ふーん、そう。わかった。
じゃあ1つオレがここでもってパーっと勘定を…ねっ!
パーっと…!
パーっとぉ…払いてえんだけど無ぇんだ」

「⁉️・・・😳
んっ?へい?無い⁉️」
「無いっ!」
「あなたそりゃ冗談…」
「冗談じゃないよ。本当だよ。
本当に無いっ。
もうサバサバとしてんだ」
✨

「いやっ…さ、サバサバって…

あの…じゃあ今までのお勘定はどうしようと?」
「いやどうしようったってさ…。
どうしようもねぇじゃねぇか。
だからこうしてあっしは待ってんだよ」
「待ってるって何を?」
「何をって…昨日帰ってった友達だよ。
あの友達が懐におあしをたっぷり入れてあっしを身請けしに来るまでこうしてつないでるんだ。」
「はぁ…そうすか…。
じゃそのお友達のところに人をやるとか、手紙を書くとか…」
「いやいや。うちを知らねぇんだ」
「知らないって…お友達でしょ⁉️」
「友達だよ?
友達なんだけど『ごく新しい友達』なんだよ。
いや、一昨日の晩…ね?
新橋で一杯やってたんだけど、隣に座っててさぁ。
女中がちょっとマヌケで酒の替わり目がなかなか出てこなくてイラついてるところをオレが一杯注いだんだよ。
そうしてると次の酒が来て『じゃあお返しに』ってなる。
酒飲みってのはすぐに友達になっちゃうだろ?
それで席もいっしょに飲んでて酔った勢いで品川にでもいきませんかってなことになって『じゃあ行きましょう!』ってワーッとやってきたんだが…どこの人達かな〜???」

「たっ、大変だこりゃあ…⁉️

おっ、おーい!ちょっと!
よっさん!テツどん!松さん!
ちょっと来ておくれ!驚いたよ…。
あいつ…一文無しだった‼️」
「そら見ろ。気をつけなよって言ったろ⁉️
大丈夫かって言ったらあんた何て言った?
『この商売長くやってるんだから人を見る目は確かですよ』
ってなこと言ってたくせにバカだねぇ本当に!
なんでもっと早く勘定催促しないんだよ?」
「い、いやしようと思ったんですよ。
ところがこっちが『勘定』って言うと向こうがパラパラパラパラペラペラペラペラと喋るんだよ!
言い返そうにももうこっちも舌が突っ張らかってさぁ…弱ったよ」
「はぁ…じゃあいいよ。
私が掛け合うから。冗談じゃないよ。
おうっ!お前さんかい?
散々遊んで騒いで金がねえってのは?
おめぇかい⁉️」
「よっ…代わりあいまして。ねぇ。
なかなか強面でよぅござんすよ。
ギロッと決まってますよ。へへっ。」
「…おう。どうすんだい?」
「いや〜それがどうしようかって考えてたんですがねぇ」
「てめぇの事だよ?
どっかで金を工面できねぇのかい?」
「それがあっしは身寄り便りがない天涯孤独なんだ。
どっかで金貸してくれる人がいたら世話してもらいてぇ」
「なっ、何を言ってやがんだ…!
ふざけやがって…!💢
どうすんだって…‼️」
「だーっ!ちょちょっ、ちょっと待った。
大きな声出しちゃいけませんよ。
ちょっ、大きな声出しちゃヤダってんだよ‼️
大きな声出しておあしが出るんならどんどん怒鳴るよあっしは‼️
よしなさいよ、ムダだから!」
「落ち着いてやがるな、この野郎…。
だからどうしようと言うんだ?」
「それだよ。
そう聞いてくださりゃこっちも考えやすいんだ。
あのねぇ、覚悟はしてるんですよ?」
「なんだその覚悟ってのは?」
「こっちの袂にはタバコが四十目入ってて、こっちにも入ってるんですよ。
マッチも持ってますし花魁からもらった古いキセルがあるんです。ねっ。
だからしばらくの間は籠城ができますから、え〜と行灯部屋にでも下がりやしょうか?」
「こんちきしょう、ふざけやがって。
当たり前だ。こんなとこにいられてたまるか!
出てもらおうじゃねぇか❗️」
「へぇへぇ。ではお供致します。
どちらへ参ります?
行灯部屋はどちら?♫」

「今時に行灯部屋なんてもんがあるかよ

何言ってやがるんだ。
さあっ、ここへ入れ‼️」
「へいっ!どうも!
おやっ⁉️結構な部屋でござんすね。
布団部屋💡ねっ!
暖かいですな、ここは♫」
「布団に寄っかかったりするんじゃねぇぞ‼️」
「いやぁ大丈夫ですよ。
そんな野暮な男じゃない。
縁起に障るぐれぇのことは知ってますよ。
あっ、すいません!
そこピタッと閉めてってくださいな!
あの〜あなた方もお退屈になりましたらどうぞここへお遊びにいらっしゃい。
いろんなお話し致しましょう♫
花魁にもよろしく言っといてください!」
なんて調子でこの男は何も感じない。