―学力を伸ばす「偶然の出会い」と「回収」の習慣―
私が約40年,多くの子どもたちを見てきて辿り着いた結論は,とてもシンプルです。
・読書はした方がよい(マンガでも構いません)
・辞書を引く癖をつける(スマホ検索でも可。「知らない言葉」を放置しない)
・スマホより「リビングのテレビ」
「好き」だけに囲まれるリスク
まず読書が有効なのは間違いありません。しかし,読書には弱点があります。人は基本的に,自分が興味を持てる本しか選びません。読書もネット同様,自分の興味がある情報だけに囲まれてしまう「フィルターバブル」から完全には自由ではないのです。
スマホはさらに強力です。AIが好みを分析し,似た情報を提示し続けます。快適ですが,関心外の言葉に触れる機会は確実に減ります。
「好き」に最適化された世界は心地よいのですが,語彙はその外側で広がります。
リビングのテレビは「未知への窓」
一方,リビングのテレビは違います。
家族が選んだ番組が流れ,自分では選ばなかったニュース,討論,ドラマ,時には「低俗」と言われるバラエティまでもが耳に入ります。自分とは異なる年齢,性別の人を対象にした番組には,自分の意志を超えた「語彙との偶然の出会い」があります。
ここに,「テレビ好き」が伸びる可能性があります。
思いがけず出会った言葉に「?」を感じたとき。
その疑問を素通りせず,立ち止まれたとき。
その一瞬が,学力の分岐点になります。
大切なのは,意味を自分で「回収」すること
私自身,幼稚園から高校まで読書習慣はほとんどありませんでしたが,代わりに一日3時間以上(休日は8時間以上!)テレビを観て育ちました。多様な言葉を浴び続けた経験が,今の思考の土台になったと感じています。
ただし,一点だけ欠かさなかったことがあります。
それは,意味を自分で「回収」することです。
流れてきた言葉をそのままにせず,「?」を辞書や地図帳で調べる。その作業を繰り返すことで,語彙は初めて自分の血肉になります。
参考書や問題集で出会う言葉だけでは,思考の幅は広がりません。日常の偶然に立ち止まり,未知の語を自ら取り入れる姿勢こそが,あらゆる学力の土台を築きます。
大切なのは,「教育に良い番組」を選ぶことではありません。
雑多な言葉に囲まれ,出会った疑問を放置しないこと。
偶然を力に変えられる子どもは,どの教科でも伸びます。
【ご家庭でのヒント】
テレビを見ていて「今の言葉どういう意味?」と会話が生まれたら,ぜひその場で一緒に調べてみてください。
保護者の方が「自分も知らなかったな」と笑いながら調べる姿は,
「知らないことは悪いことではない。知ることは楽しい」
という何よりのメッセージになります。
家庭の中に「偶然」と「回収」の習慣が根づけば,それは一生ものの学力になります。