あぁ、またこの音が始まった。

窓を叩く規則的な雨音。
部屋の空気は重く肌にまとわりつき、お気に入りのリネンのシャツはどこか湿っぽくて袖を通す気になれない。

ふと部屋を見渡すと、そこには生活のリアルな現実が転がっている。

まず目に入るのは、リビングの片隅を占領する部屋干しの洗濯物だ。

 

 

乾く気配のないタオルからは、あの嫌な生乾きのニオイが漂い始めている。
コインランドリーに持っていこうかとも思うけれど、この土砂降りのなか、重い洗濯カゴを抱えて外に出るなんて想像しただけで気が滅入る。

ため息をついてクローゼットを開けると、今度は別の不安が頭をよぎる。

奥の方に仕舞い込んだ冬服や革靴。
この尋常じゃない湿気のなかで、静かに忍び寄るカビの影におびえる日々。
ドラッグストアで除湿剤を大量に買い込んできたいけれど、あれはあれで持って帰るのがとにかく重い。

極めつけは、洗面所の鏡に映る自分の姿だ。

朝、あんなに時間をかけてアイロンをあてたはずの髪が、湿気を吸って早くもボワッと広がり、うねり始めている。
一歩も外に出ていないのに、すでに今日のモチベーションは急降下だ。

雨の季節は、いつもこうして私たちの「ご機嫌」を少しずつ、だけど確実に奪っていく。

そんな憂鬱な朝、私はベッドに寝転んだまま、スマホの画面をぼんやりと眺めていた。

 

 


いつもならスルーするはずの、ネットの巨大なセールの文字。でも、なぜかその時は吸い込まれるようにページをめくっていた。

そこで気づいた。

外に出られないこの退屈な時間こそ、自分の暮らしの「バグ」をすべて消し去るための、絶好のタイミングなのだと。

画面をスクロールする指が止まらない。
まずは、部屋干しの絶望を吹き飛ばす強力なサーキュレーターと除湿機。
これを手に入れれば、あの生乾きのニオイから一生解放される。

ついでに、クローゼットをカビから守る業務用レベルの除湿剤をまとめ買いする。
重い荷物を運ぶ苦労は、すべて宅配便のお兄さんが解決してくれる。
最後に、あの湿気に負けないサロン仕様のヘアオイルをカートに入れた。

気づけば、ショップをハシゴするたびに画面のポイント倍率がドン、ドンと跳ね上がっていく。

まるでゲームのボーナスステージだ。
外は土砂降り。でも私の部屋の中だけは、未来の快適な暮らしに向けて、どんどん熱気を帯びていく。

数日後、玄関に届いた箱を開ける瞬間、私はニヤリと笑うだろう。

雨に文句を言うだけの毎日は、もう終わりだ。
スマホ1つで、私はこの憂鬱な季節を完全にハックしたのだから。