一つ前の読書感想文は、岩手県大槌町であの震災の後、孤軍奮闘、獅子奮迅、時には孤立無援に思えるような1人で地域新聞を発行された女性の物語でした。

 

この本は、真逆に思えました。医療っていう細分化されたお仕事の中で、あの緊急時に、自分自身がどう動くか?も大切なのですが、石井氏の場合は、所属する病院だけでなく、行政や消防、警察、自衛隊などの

 

多くの人に「どう(効率的に)動いてもらうか」

 

がすごく大切なのだと、感じさせる内容でした。

 

 

 

 

 

誰もが石井正になれるわけではない。だが、本書はこれからの災害医療にとって確固たる指標となるはずだ――内藤万砂文(長岡赤十字病院救命救急センター長)

たまたまあの時に石井氏が居て、類まれなる能力を発揮されて乗り切られたのですが、この記録を広く伝えようという気持ちが端々に現れているように思えます。

 

 

  危機は迫っているのです

 

出版は2012年の2月20日と震災からわずか12ヶ月後になります。記載されている内容には、9月30日の「石巻圏合同救護チーム」の活動終了も含んでいます。その半年後にはこの本になっているのです。あの未曾有の大惨事の中で、上手く行った点もあれば、そうでなかった所も有ったようです。その全てを後世に伝えなければ、という想いがこのスピードだと思いました。

 

同じような危険性は、関西では南海トラフの危機が迫っています。明日に発生しても不思議ではないのですが、その備えや気構えはあるかな?この本を読んでいて、こうした災害医療や支援の仕組み作りや準備には、行政の外にも警察や自衛隊、支援してくれる民間などの様々な調整や組織作りが必要で、ものすごく時間と労力が必要な作業だということを伝えたい、のだと分かります。

 

その場になってみなければ、の気持ちでいるなら、その力は有効には働かず、無駄な動きや偏った行動につながってしまいます。

 

石巻市は、あの震災で死者と行方不明者の合計が3,181名+651名と行政単位では最大です。(2011年12月調べ)2番目に被害の多かった気仙沼が1,029名+351名に比べても約3倍。外は1,000名以下です。ただし、町村が多くて母数になる人口が少ないので、人口比率でいうと死亡率の高い行政単位は有ります。

 

 

  舞台は「石巻赤十字病院」

 

 

この病院は、名前の通り県立でも市立でもありません。民間の病院です。実は市立の病院は津波で壊滅していて、総合病院として残っていたのが、赤十字病院だったのです。(数年前に移転していた)

 

日本赤十字は、1877年の西南戦争(西郷隆盛だ)の時に「敵味方の区別なく戦傷者を救護する」という精神でスタートされていて、現在94の病院が有ります。歴史があるし、日本赤十字病医院には、この「野戦病院」のDNAが職員の皆さんのどこかに残っているのだなぁ~と感じる瞬間も有りました。

 

 

 

  理想は江口鶴瓶

 

 

日本の災害医療で真っ先に派遣されるのがDMARです。この災害の時にも驚くようなスピードで到着されています。ただ、想定されている支援は、阪神淡路震災の時の瓦礫に閉じ込められら被災者の支援のようで、それは短期間を想定しています。多くは5日ほどで次のチームと交代する仕組みです。

 

逆に日赤病院も支援チームを派遣してくれていて、こちらは長期間の継続的な活動を得意にされているようです。

 

DMATが登場するドラマに「救急病棟24時」があって、主演の江口洋介さんの「助けに来たぞ!」のセリフが有ります。また、映画の「ディア・ドクター」の笑福亭鶴瓶さんの(たしか無資格医者だったような)「何かお役に立てることはおまへんか?」

 

石井さんはこの二人のキャラを取り上げて、これからの災害救護に求められtえいる理想のキャラは江口鶴瓶だと書かれています。

 

迅速に対応する仕組みも必要ですが、直後の衛生状況の改善や、長期間に渡る避難生活に対する支援が必要なのです。

 

 

 

  医療の範囲を超えて

 

 

石巻の当時300ヶ所の避難所に約5万人の避難者がおられたようです。しかし、その実態は行政も把握していませんでした。行政がマヒしていたのです。しかし、伝え聞く状況は衛生面でも健康面でも相当劣悪な様子。

 

石井氏は、本来なら病院で患者さんを待つのが仕事ですが、それを超えて避難所をローラー作戦で回ることを提案します。

 

3月17日の朝の朝礼で

「いまこそ、極寒の中で助けを待つ被災者の方々に”災害救護の日赤”の底力を見せる時です」

と訓示(鼓舞だな)されます。道路も寸断している中、彼らは16チームで3日間で300ヶ所の避難所の衛生状況などの調査をします。

 

基本は衛生面ではトイレ、手洗いの不備が感染病の拡大の危機につながります。狭い避難所でインフルエンザが感染爆発したら?と心配されています。

本来の仕事では有りませんが、食料が不足しているなら、食料の配達や簡易トイレの設置とか、とても本来の医療従事者さんの仕事ではないことも手を出しておられます。

 

僕たち医療に従事する者の至上命題は「救える命を全力で救う」ことに尽きる。救護チームの誰もが自らの活動を「医療」のみに限定せず「被災者が必要とすることならなんでもやる」という姿勢で臨んていた。

 

 

  お役所的な発想は不要である

 

しかし、広範囲です。彼1人がコーディネートできる作業ではありません。また支援してくれる他府県の組織も広範囲です。そこで彼はいくつかのエリア分けをして、そのエリア毎に担当してもらう組織を割り振っています。

 

医療の支援だけでなく、広く行政や消防、警察などの組織、そして支援を受ける側の被災者も、こういう事を知って置けば、支援活動がスムーズになるというノウハウ公開的な記述が有りました。

 

多くの行政組織は、決まった事や前例があることはスムーズですが、そうでないとギクシャクした動きに終始します。これが、石井氏が苦労する点でもあります。

 

一つの例で、避難所で咳をする人がいると、医療的には感染症を疑うようです。しかし、どうも津波の後のヘドロ等が乾いて細かな粒子になって漂っているのが原因だろう~となってマスクを支給しようと考えます。

 

在庫は3,000枚。すぐにでも支給を開始しようとするのですが、保健所の方から

 

数に限りがあるので、むやみやたらに配布すべきではない

 

って言ってくるのです。石井氏は即座に却下。

災害救護の現場では「数が揃ってから配る」という”お役所的な発想”は不要である。実際に3日後に民間企業の興和から25,000枚のN95マスクの提供が有った

コロナの時にはマスクはなくなりましたが、あれは全国規模。東日本大震災は広範囲とは言え、限定的です。全国規模で見れば、物流力と正しい情報伝達があれば、ちゃんと必要なものが必要な所に届くのです。

 

数多くの民間からの支援や協力が有って、その中に「シガドライ·ウィザース」の社名が有りました。ホームクリーニング部門では、当社の委託店のひっくり返しとか、何かと厳しい競争相手でしたが、社風が変わったのか、それともやっぱりあの時は出来る事を手を差し伸べられたのでしょうね。

 

ボランティアのお話も書かれていて、明らかに物見遊山的な団体もあったようです。