本屋さんで縦積みでした

 

 

ほとんど買わないのに本屋さんには行きます。自転車雑誌をパラパラ見たり、文具などですね。それと、新刊とか映像化作品とかを見て、図書館サイトで検索して予約したり、お気に入りリストに入れたりします。

 

この本も本屋さんで見つけました。文庫のコーナーで縦積みになっていました。少し前の芥川賞の候補になっていて、残念ながら次点だったそうです。

魅かれたのは、題名ですね。

「旅する練習」

この題名に、旅の初心者さんが紆余曲折しながら、なにかしら成果を得るお話じゃないかと想像しました。

 

 

 

  やっぱり旅小説でした

 

 

主な登場人物は三名。一人が「私」。小説家さんです。しかし、彼の作品のお話は出てきませんね。代わりに道中で柳田國男の文章とかが登場します。

もう一人が、亜美ちゃん。小学6年生で、この春の中学に進学します。サッカーが大好き。進学先も女子サッカーの名門校です。

この「私」と亜美ちゃんが、コロナで色々と制限が始まった2020年の3月にサッカーのアントラーズの本拠地の鹿嶋まで歩いて行くという「旅」に出ます。

利根川沿いに堤防などを歩くのですが、亜美ちゃんはサッカーボールをドリブルしたりリフティングをしながら進むのです。「私」の方はしばしば立ち止まっては、その場で見える情景を描いていきます。小説やエッセイの題材にするんだろうか?

そして、途中で女学生(内定をもらっている)みどりさんに出会って、なんと彼女も鹿島スタジアムを目指していると言います。この三人が一緒になって鹿島を目指しながら、これから始まる「旅」の練習をするのです。


 

 

 

  旅って頭の中がナチュラルになるよね

 

 

登場人物でも亜美ちゃんの心の動きは私でも分かりやすいよう描いてあると思えました。小学生だからね。以下の引用は帯にもあるのですが、

 

この旅のおかげでわかったの。本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きるのって、すっごく楽しい

小学生から中学生になる亜美ちゃんが「自分」とか「やりたい事」とかを考え、感じて、一つの結論めいたものを導き出している。すごい事ですよね。

 

もう一人の大学生のみどりさん

 

今まで私、自分から逃げ出すことすらなかったんだって気付いたの。家でも学校でも嫌なことは我慢してやり過ごすばっかりだった。逃げるなんて最低だけど、今までそんな大胆ことを考えもしなかったから、一人で歩いている自分にドキドキしてた。すごく勝手だけど、二人のおかげで少しは変れたのかも知れないと思って

 

彼女は亜美ちゃんとサッカーのお話をする中で、初期のアントラーズの最大の功労者のジーコのことを思い出します。ホテルでネットで映像を見たりして、そのすごさを改めて認識します。ジーコの、トレーニングで大切なことは、その過程の忍耐とそれを記憶しておくこと、という言葉が深く刺さります。

 

 

  だから練習っていうのかな?

 

 

「私」にも象徴的な部分がありました。

柳田國男の「ただ大切なのは発願である」の後に

旅の内にわかろうとするには、あまりに多くのことがありすぎて戸惑ってしまうけど、日々の雑事にかまけているよりは、見慣れない景色に頭が澄んでくる気もする。発願なしには、信心も練習も開発も始まらないが、度重なる行いの中に願いは少しずつ溶けていく。

 

旅の最中は頭や心がナチュラルで受け入れやすい状態になるんだけど、また日常にお戻るとすこしづつ溶けていくように、また元に戻ってしまうような状態に陥りやすいですよね。

 

でも、いつまでたっても人生って、ずっと練習を続けている様でもあるように思うのです。そう思うと、この「旅する練習」っていう題は良く考えられているなぁ~。

 

ただ、最後のページの展開は「これが現実」を突き付けられているようでもあり、決して非日常の旅の中だけでは生きていけない、というメッセージでもあるように感じます。