この本を知ったのは、日本テレビ制作の「世界一受けたい授業」に、マライ・メントラインさんが登場されたのです。NHKでドイツ語講座を務めた経験があるそうで、すごく流暢な日本語と、日本人以上に日本文化にも精通されているように見受けました。

 

2023年に名目のGDPで日本を抜いて、世界3位になるドイツの事をいろいろと取り上げられました。この本は、マライ・メントラインさんが主となって、池上彰氏と増田ユリアさんとの対談で勧められています。このお三方は、テレ朝系の「大下容子ワイド!スクランブル」って番組で知り合ったようです。

 

番組は

 

 

 

 

  えぇ~日本ってショボ

 

さて、日本としてはGDP三位の座も、一位と二位が人口も多いアメリカと中国ですから、それはしゃあないなぁ~って思っていたでしょう。しかし、ドイツに抜かれるらしい。しかも、ドイツは日本より人口は少なく(ドイツは8,352万人で日本の約66%程度)、労働者一人当たりの労働時間も短い(日本が1,598時間に対して、ドイツ1,332時間と17%も少ない)のです。更に「本当?」と思えることが、有給休暇でして、ドイツでは年間30日の権利があり、100%消化すると言います。(日本は20日あるのですが、消化率は50%で実質10日)単純にうらやましい。

 

短い労働時間で高い生産性を上げている秘密は?と思ってしまいますね。

この本では、日本とドイツには、労働時間の考え方と、教育に違いがあると指摘しているようです。

 

 

 

  労働時間の事

 

この本では、日本では

「長時間働いている人=頑張って働いている」

という図式があるのでは?と言い、逆にドイツでは

土日も出てこなくちゃ仕事が終わらないほど、君、生産性低いの?」と言うのです。

 

これには、日本の会議の時間が長い事や「根回し」や「完璧主義」による時間の無駄もあるとしています。

 

また、法律もかなり厳しくて

雇用者や管理職には、社員の健康を守る「保護義務」もあるので、もしその「保護義務」を怠って社員に有給をとらせなかったり、長時間労働をさせたりという事実が発覚すると、上司がペナルティを科せられてしまうんです。抜き打ちで労働安全局が検査にやってくるから、そこで悪質とみなされた場合は経営者に最高15,000ユーロの罰金か最高一年の禁固刑が科せられます。だから経営者も上司も必死になって、部下をバカンスに送り出すし、残業していれば怒る、というわけです。

それと、教育面で登場するのが、マイスター制度です。およそ400種類のマイスター(職人さん)が居て、この仕事にはこのマイスターと決まっていると言います。労働者は、Aと言う会社に従事していると言うより、この職種で働いているという意識は日本より強く、会社から会社に転職する事も多いようです。転職する人が多いと、当然労働環境を整えないと労働力の確保なんて出来ないでしょうから、こうした制度が確立しやすいのかな。

 

ただ、これだけで、あのような高い生産性が出来るの?はやっぱり疑問。この本を書いているお三方も政治や教育問題には詳しいようですが、労働や経済の事になると、ちょっと「?」なのかな。

 

クリーニング業をやっていた時に、ドイツの機械メーカーでパーマックっていう洗浄機の会社が有りました。最初はドイツから機械を輸入していましたが、やがて日本で生産する(三菱でした)ようになりました。当然ライセンス料はドイツ本国に送られていただろうから、ドイツ本国のGDPの数字は上がるのでしょうね。このパーマック社、今は中国で生産しているようです。

 

 

  教育制度の違いは

 

この違いについてページは沢山割かれています。お三方の得意分野なのでしょう。

 

学生の気質として、ドイツは議論が好きに対して、日本は議論を好まない。

また、デモに関しては、ドイツは積極的に参加するけど、日本の学生は消極的。

学校の試験は論述式(記述式)のドイツに対して、日本はマークシート。

 

どちらの国にも、歴史があって今この制度になっているのですが、特にドイツ人の学生気質の「議論好き」は小さい頃から鍛えられていると言います。

ドイツでは、小学校時代から、国語の授業とかで論理的思考を鍛えるんです。国語つまりドイツ語の授業ですけど、あるテーマに関して起承転結で論理展開をしていく練習をし言葉でも書く文章でも積み重ねていく。

 

小学校の時からデベートを学ぶってね。それには背景があるようです。

ドイツがこうしてまで「論議」を子供たちに仕込んでいく背景には、やはり自分達がかってのヒットラーの言動に丸め込まれてしまったという教訓があるからです。強いカリスマを持つ「リーダー」が力強く「指導力」をアピールしたときに、それでも騙されないためにはどうしたらいいのか。結局は、自分の頭で考えて少しでもおかしいと思う点があれば自力で相手を論破する(中略)力をつけるべきだろう。

 

とヒットラーの時代にさかのぼります。ドイツの戦争に対する反省は強いですね。ホロコーストを始め、恥ずべき事実も多いし、決して同じ過ちを犯さないという強い信念を感じます。

 

今問題になっているダイハツの法令違反問題などは、上に言えない企業体質が問題ですが、ドイツの労働者なら「それはおかしい」と言い切ったのでしょうね。

 

驚くのは10歳にして進路を決める必要があると言います。先ほどのマイスターを目指すにしても、大学進学の可能性を残すにしても、10歳で決めるらしいです。これはさすがに弊害面もあるでしょうが、無駄がないっていえばないのです。当然、親の意志(と地位や経済力)が強く反映しているでしょうね。ただ、大学まで教育費は無料なので、日本よりはずっと教育格差は少ないと思われます。

 

 

  思ったより違いは大きいですね

 

ドイツと日本って似通っていると思っていました。国土の広さにしても、人口にしても大差はないです。共に敗戦国で辛い戦後を過ごしています。勤勉で技術を武器に戦後の復興を成しえた国いうイメージをもっていました。

 

でも、労働に対する考え方や教育の在り方には、大きな差があって、これは簡単に「ドイツの真似をしたら」と言えるレベルではないです。「ええとこ取り」しようとしても、違いが多すぎます。

 

やっぱり国家の根幹をなすのは、教育にあるのでしょうが、やっぱり日本では国や会社、上司の言うことを忠実にこなしていく事が大切って考えられてきて、ドイツでは自分で考えていく力を持たせようとしているのだろう、と思わせました。

 

この本2021年秋の発行です。コロナの渦中ではありますが、あのウクライナは始まってなくて、積極的に武器援助しているドイツに対して、今なら池上彰氏ならこういう論点になるだろうか?とも思えてしまいます。