作家さんが痴呆症なんて・・・

 

2023年に亡くなった著名人が列挙される番組を見てました。今年はミュージシャンさん多かったですが、その中に作家さんの「森村誠一」氏が有りました。

自分は氏の出世作になった「人間の証明」(KADOKAWAの映画だ)から、原作本を読んだように思う位でして、ちょっとも熱心な読者じゃなかったのですが、亡くなられた方の短い紹介文の中に「晩年は老人性うつと痴呆症に悩まれた」と言うようなことが有りました。

 

ちょっとした驚きでした。作家さんが「うつ」や「痴呆症」って。

作家さんと言うと、言葉を組み立てて、物語を紡ぐお仕事です。書きたいことや伝えたいことがあって、読者の心に伝わるようにお話の筋を考えたり、時には取材をして、言葉を選び、ひとつの作品に仕上げていくお仕事。

本の中で森村氏は

卵を孵化させるように湧き出る物語に生命を与え、ガラスペンでそれを綴っていくのが私の仕事

と書かれています。生半可な作業じゃないですね。頭をすごく使います。私は痴呆症の遠因には、頭を使わない状態が続くと人間は「もう頭を使わなくても良い」と判断して、それこそ使わない筋肉が細くなっていくように、知力や記憶力が衰えていくと考えてました。

なので、作家さんなんていうのは、認知症とは真逆の場所にいるお仕事って考えていたのです。

 

私は「図書館ジジ」とか言って、図書館に通い、本を選んで、読んで、読書感想文(のようなもの)を書く作業が、頭の(脳の)活性化に役立つだろう~と希望的に思っていたので、この森村氏の「うつ」や「認知症」はすごく驚きでした。

 

 

  森村誠一氏「老いる意味」

 

私の市の図書館の検索機能で「森村誠一」で検索すると366冊の蔵書があります。読書ブログの「ブクログ」では、1,022作品あるようです。まぁすごい量の作品があります。晩年まで作家活動をされています。

図書館で晩年の本を探すと、その「うつ」や「認知症」に苦しまれた頃の事を書かれた本が有る事を知りました。

 

 

この本は最後の「おわりに」の所で2021年春、と有ります。出版は2021年の2月になっています。

 

 

  その日、朝がどんよりと濁っていた

 

森村氏が最初に自覚されたのが、この記述です。どうも2015年の作品を書き上げられた後だそうです。氏が82歳の頃になりますね。

ある日、目覚めて違和感を感じられます。仕事に疲れたのか、と寝床に戻って寝ても、眠気が残っていて、その日を境に爽やかな朝に出会えなくなります。

 

大学病院での診断は「老人性うつ」と「痴呆症」の合併という診断だそうです。

 

この本によると、自覚はあるのです。気のせいかな、と思っても原稿用紙に向かって愕然とされるのです。原稿を書いても今までの自分の文章とはまったく違うと書かれています。

文章が汚れきっていた

とまで書かれているのです。作家さんとすればすごく辛い状態ですね。

この中で「ガラスペン」が登場します。氏は原稿用紙に直接ペンで書かれているのですね。これもワープロを使った方が便利だし、楽なように思います。長編小説を手書きで書くってすごい作業ですよね。頭もすごく使うと思うのです。しかし・・・

 

森村氏はすごい多作。書く行為が楽しいのでしょうね。しかし、この天才も80歳を過ぎれば、だんだんと厳しくなっていくと想像します。しかし、80歳の作家の森村誠一が書く本を、80歳の評論家の森村誠一から見ると、そりゃ見劣りするんじゃないかな?と思いました。

 

それが、氏の心をすこしづつ蝕んで、それが「うつ」の遠因になったのだろうか~と思いましたね。

 

その頃の氏が病院の先生に診断を受ける時に、問診の時に正しく伝わるようにと、自分の様子を書いたお手紙を書いて持参したと言います。(この几帳面さが問題なような気がしてきましたが)その下書きが残っていて、それを引用されているのですが、それはそれは赤裸々な当時の氏の苦悩が伝わってきます。本当に先生に頼っておられて、良い先生に巡り合われたのだろうなぁ~を想像しました。

私は元の人間に戻れるのでしょうか?

本の中に氏が消えゆく「言葉」をなんとかつなぎ止めようと言葉を広告の裏とかに書き続けられている様子が有りました。

 

 

天文学的な数の言葉を紡いできた作家さんが、それを忘れていう事に抗う様子とその心理状態がとても伝わってきます。

 

 

  自転車が登場してうれしい

 

 

先生も氏も体を動かす事のメリットを上げられています。散歩が主ですが、自転車が登場していて、自転車乗りとしてはなんだか嬉しい。

自転車に乗るのはボケ防止に効果があるというのは脳の専門医から聞いたことだ。自転車に乗っていれば、自然と周りに注意を払うことになるので、それがいいわけである。前後、左右に目配り、車や歩行者の動きを確かめながら瞬時の判断をしていく。

視覚、聴覚、反射神経それに加えてバランスを取るためにも脳は働く。

 

氏が乗っておられた様子はうかがい知れませんでした。もし乗っておられたら、〇〇の景色は素晴らしかったとか書かれるように思いました。ただ、氏は写真と俳句を組み合わせたブログを続けられたりしています。ひょっとして乗っておられたかも知れませんね。

 

 

 

 

 

  三年ほどで回復されます

 

先生が氏に勧めた事は①楽しいものを探す。②のんびりする。③美味しいものを食べてゆっくりと練る。④趣味を見つける。

 

それで、氏が実践したのが

①人と出会う。

②喫茶店やレストランに行く

③電車や車に乗って美しい場所、珍しい場所に行く

④人を招く

だったそうです。作家さんが「人と出会う」という事がやや希薄なのが想像できますね。これらを実践して、周囲の皆さんのご理解とご協力を得て、やがて回復されます。

 

後からの分析ですが、「うつ」と「認知症」は併発しやすいらしいです。氏の場合「うつ」が先に来て、気力や集中力が衰えて→頭を使うことから遠ざかる→認知症の遠因になった、という図式だったようです。

 

考えると氏はずっと仕事をされています。作家に定年はなく、元社長は有っても、元作家は無いとまで言われます。つまり最後の最後まで作家であり続けると言うのです。これは気づかないうちにも、大きなストレスだと想像します。これが「うつ」の遠因じゃないかな?

 

私もけっこうな年齢になりました。(2024年に69歳になります)私は両親がどちらも認知症の症状が出ましたので、自分も発症するのでは?と、すごく恐れています。(遺伝性は低いらしいですが)

 

氏のこの病気と苦しみながら、対峙して回復に向かわれる様子が分かる本でした。

 

って事は、リタイヤや私のように廃業して一度リセット出来たのは、ある意味幸せかも知れませんね。