おはようございます。
Laduna Coco(ラドゥーナココ)です。
迷子の妖精のものがたり
これは、迷子の妖精
ミラちゃんのものがたりです。
ミラちゃんが、森のヘンテコな
生き物たちと出会っていきます。
ヘンテコな森なので
こまかいことや、むずかしいことは
かんがえないで、楽しんで下さい。
これまでのあらすじ
夜の森を一人、あてもなく歩く
迷子の妖精ミラちゃん。
ミラちゃんが迷子であることは
昨日と変わりません。
ただ、ミラちゃんの内側には
昨日にはなかった「何か」が
生まれつつあるのでした。
物語の全話一覧はこちら
第11話 沈黙バー
まぁるい月が静かに輝く、夜の森。
ミラちゃんは、ひとりぼっちでも
昨日みたいな不安を
感じていませんでした。
ミラちゃんは
自分に起きている変化に
しずかに、けれど、たしかに
気づいていました。
これは、このヘンテコな森の
不思議な魔法なのでしょうか?
さて、
ミラちゃんの目の前には
ヘンテコなおうちが現れました。
まるで帽子をかぶったようなおうちです。
おうち?
それとも、お店でしょうか?
近づいてみると、扉の上に
こんな文字が刻まれていました。
Bar Silence
沈黙バー
どうやらお店のようです。
ここは、どんなお店かしら?
ミラちゃんは、ちょっぴりドキドキ
ちょっぴりワクワクしながら
扉を開けてみました。
「…キレイ!!!」
ミラちゃんは思わず声を上げました。
扉の先には、まるで
色とりどりの宝石がちりばめられた
洞窟のような空間が広がっていたのです。
よくよく見てみると
その洞窟・・・のような薄暗い店内には
落ち着いた輝きを放つ色、色、色が
見事に整列しているのがわかりました。
夕日の色
お母さんの木の色
ヘンテコな色
ワクワクする色・・・
”色”たちは
しんと静まりかえった店内に
まるで”音なき歌”を響かせているようでした。
その色の正体は
個性豊かな形の瓶に入った
液体のようでした。
カウンター奥の棚には
たくさんのグラスも並んでいます。
ここはジュースが飲めるお店なのね。
ミラちゃんはそう思いました。
カウンターには
一人のオジサンと、一人の女の子が
立っていました。
2人とも、無言でグラスを磨いています。
2人とも、無表情です。
ミラちゃんがカウンター前の椅子によじ登ると
無表情な女の子が
磨いていたグラスを棚にそっとしまい
(まったく音を立てませんでした)
こちらへやってきました。
ミラちゃんはドキドキしながら
女の子を見ました。
女の子は、どんぐりみたいな
ヘンテコな帽子をかぶっています。
彼女は
ミラちゃんの真正面で立ち止まると
こちらをじっと見つめてきました。
「…こんにちは」
ミラちゃんは
おそるおそるご挨拶をしました。
女の子は無表情のまま
何にも話さず…
あ!でも今
会釈をしてくれました。
「あの…私、ミラと言います。
迷子になりました。
お母さんのところに帰りたいけど
帰り道がわからないの」
「お母さん」というミラちゃんの言葉に
無表情だった女の子の瞳が
ほんのわずか、ふるえたように見えました。
でも、それはほんの一瞬の出来事で
女の子は、再び無表情で、無言で
ミラちゃんを見つめました。
ミラちゃんは
なんだかくすぐったい心地になって
そわそわと、気まずくなってきました。
どうして女の子は
黙ったままなのでしょう?
でも、ミラちゃんを
無視しているようには見えません。
ひょっとしたら・・・
何かを待っているのでしょうか?
ミラちゃんは
色とりどりの液体が入った瓶を
そっと指差して、こう言いました。
「あの…
あのキレイな色は、ジュースですか?
私、飲んでみたいです」
女の子は、ゆっくり目を閉じて
無言で、深く頷きました。
そして、しずかに方向転換すると
カウンターに戻り
(足音もまったく立てませんでした)
グラスをひとつ
ヘンテコな入れ物をひとつ
(”カクテルシェイカー”と呼ぶそうです)
そして、液体の入った瓶いくつかを
取り出し、仕事に取りかかりました。
ミラちゃんは、
ふ~~う
と、大きな息をつきました。
この女の子・・・
そして
向こうの無表情なオジサンも
どうして何も言わないのかしら?
黙って、ただ待っているだけだなんて。
なぜなのかしら?
どんぐりみたいな女の子が
ヘンテコな入れ物に
液体を混ぜ合わせる様子を眺めながら
ミラちゃんは不思議に思いました。
つづく
瞳のふるえ
「沈黙バー」のカウンター裏にある棚の
引き出しの1番下、その奧の奥に
こんな写真が眠っています。
これは、どんぐり娘が
まだ赤ちゃんだった頃の写真。
当時このバーは、「沈黙バー」ではなく
別の名前を持っていました。
ミラちゃんの「お母さん」という言葉に
一瞬瞳をふるわせた、どんぐり娘。
そのふるえの奥には
ある”物語の記憶”があるのです。
その”物語”によって
店は以前の名を捨てて
「沈黙バー」となったのでした。
そこには、この家族の
深い、深い、想いが
込められているのですが・・・
その想い、その物語は
今もまだ、沈黙の中にあるのです。
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