パントマイムやジェスチャーとはまた違った
役者芝居としての表現力の奥深さ
目は口ほどにモノを言う
無言の圧力

我ながらナイスな技というかアイデアは
セリフを言うのではなく
セリフを表現すること
つまり
喉がダメなら体現力で相手にそのセリフの答えを導き出させる
しかしながらこのテクニックは
双方が了解した上で
しかも稽古もした上でのことだ
オマケにAさんですら難しいやり取りなのに
素人で初舞台で役者志望でもないH君が…
昨日は奇跡的に何とかなったが…

活弁士作戦にしろ
ボディーパフォーマンスにしろ
大博打だ!

そして何よりこの大博打のキッカケをそのH君に託すことはまるで高校野球の地方大会で
ベスト8位のピッチャーにプロ野球のペナントレースの開幕戦投手を任せるような宇宙的な
事なのだ
ただこん時の自分は全く根拠の無い自信と情熱しか無かった
なので心の何処かで信じていた
それは
H君でも無くAさんでも無く
残念ながら自分でも無く舞台というこの空間を信じていた
この空間で何人もの役者達が流した汗と涙に
賭けていた

甲子園球場には魔物が居ると誰かが言う
そう!
この小劇場にも居るのよね
神様か魔物か分からないけど何かがいるのよ!
一生懸命やってもがいて苦しんだ結果
背中を押してくれる何かが…

舞台上はそんなH君が汗びっしょりかいて
ベスト8位のピッチャーとは思えない
名演技を展開していた
汗びっしょりかいて
汗…

その汗は?
情熱の汗では無く冷や汗だったのだ

それがわかったのは彼が倒れるように舞台裏の楽屋に入ってきた時だった


やばい!

ボディーパフォーマンスどころか
活弁士作戦も出来ないかもだ…

予想外の展開にクソ暑い楽屋が凍りついた


誰かが言った
「予想外の事が起きるのが人生だ」
と…




そして……