油断は禁物です

「すいませんでした」
申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべて
H君が言った
わざわざ待っていてくれたのだ
少し枯れてる感はあったが大丈夫そうだった
「おはよう大丈夫?」
自分もどこかすまなさそうに返した
謝るのはコッチの方なのに…
だがその思いも数秒でたち消えた?
その謎は
H君は待っていたワケではなく
劇場入り口の横にある非常口の扉を開けて喫煙所にしてある場所でタバコを吸っていたのだ
たまたまそこにいただけだった
取り越し苦労の思い込みってヤツで
オマケに少し枯れてる声でタバコを吸っていたのだ
謝るどころか一発怒鳴っても良いところだが
なにせ劇団員でも弟子でもなく
それどころかコッチから頭を下げて出て貰って然も本迄書いて貰っている
逆に喉迄痛めさせてしまって
やはり謝るのはコッチだった(笑)
「すいません心配かけてもう大丈夫ですので」
と言った声が枯れていた(笑)
「喉温めてネ無理せずに本番まで声出さないようにして」
「はい」
祈る思いでいっぱいだった
劇場に入り準備に入った
メンバーも無事劇場入りした
それぞれにウォーミングアップに入る
少しずつ緊張感が高まっていく

Aさんがリラックスさせる為というワケでもなかったと思うがエチュードを提案した
そのエチュードとは所謂あいうえお作文というヤツで昔から演劇の通常稽古でアップ代わりに
行われている
単純にアドリブであから始まる言葉を言って
相手はいから始まる言葉を言って繋いで一つの作文を作っていく
それをマイムでバレーボールをしながら繋いでいくのだ
頭と体を使って遊び感覚でやるのだが
コレが中々に面白いし温まる
ところがこのエチュードが思わぬ相乗効果を生んだのだ
その相乗効果とは?

声を出せないH君がもどかし気に客席に座り
コッチを見ていた

本番迄一時間を切っていた




そして……