危機一髪
余談だが役者になって2回程本番中に声が飛んだことがあった
2回共に50歳手前の頃だった
自慢することではないが主役系でやらせて頂いてそれまで一度も声をやったことがなかった
その時だけだった
その後も酷いのはなかった

原因は多分疲れストレス飲み過ぎ加齢もあるかもだが
こん時のH君は22歳
若いとは言えプロの役者でも目指しているワケでもないし稽古は通常稽古を含めここまで
約3か月
声帯は筋肉ではないので鍛えて鍛えられるような簡単な器官ではない毎回腹式呼吸で上手く喉を開いて出していく事に慣れていくしかない
舌やその周辺部分をボイストレーニング等で鍛えていくしかないのよね
まっまれに天性でその喉が強く俗に「鉄の喉」なんて言われるヒトもいる
自慢じゃないが自分もそう言われまたそう思っていた時期もあった(笑)
毎日のように飲みに行って終電で帰って
翌日本番でまた本番終わったらまた飲みに行って繰り返し繰り返し(笑)
でも全く喉は潰れなかった
ただ
それが祟ってか歳を重ねる毎に少しずつ喉が弱くなって鉄の喉からプラスティックの喉に
そして最悪神の…イヤ!紙の喉になってしまってマジでやばい状態に!
でも本番中は酒を飲むのを控えるようになってからはかなりの確率で喉はプラスティックへ
そして今は鉄の喉へと(笑)
ていうか50歳を越えて漸く喉の使い方声の出し方がわかってきたのよね(笑)
遅すぎだろ!(笑)
なのでやはり天性の部分は多少なりともあったのではないかと(笑)

H君の件で若干の緊張が張り巡ったその時Aさんがまたもや大人モードの助け舟を出した
「今日はどのくらいお客さん入るかなぁ?」
この頃は確か一般客は席も日時も一切予約制無しだったネ
なのでマジでその時にならないとわからなかった
今じゃ考えられないよね
ただ役者や関係者の個人客は日時指定だったので席だけ確保してたっけネ

「かけますか?何人入るか?」
H君がやばい時に何を呑気なと思うかもしれないがそれは全くの逆だった
自分もAさんもそして他の皆んなも同じだった
一瞬沈黙
「平日の夜なので70人!」
なんとその沈黙を破って最初に掛け声をあげたのはH君だった!

ひょっとしたら自分の件で皆に迷惑をかけている事に申し訳なく思っての事だったのか?
中々の大人モードだな(笑)
それとも全くお構いなくで普通に混ざってきたのか?
どっちかって言うと後者の方が有り難い
自分は心の中で…
神妙になるのはまだ早いか(笑)


次々と声があがった!
自分はノートの切れ端に皆の名前と数字を書き込んだ

「ぼちぼち客入れですよ!」
受付スタッフから声がかかった!


さて!

何人入るか!イヤ!イヤ!

H君の声が出るか出ないか
H君の喉が紙かプラスティックか


それとも鉄を越えて
天の声となって舞台に舞う事が出来るか


胸の鼓動が呼び込みのふれ太鼓のように
高鳴ってきた…


H君!



そして……