昭和の館

江古田ストアハウス
階段のみで5階まで…
特に仕込みやバラシはキツイ
けどお客様は歩いて上がってきて下さる
そのキツさを越える面白き感動を与えなければ
にしても
味があり過ぎるビルだ
江古田の駅前で古き良き時代を見てきたビル
まるで「探偵物語」や「傷だらけの天使」の舞台になったビルのような趣きだ
ていうか
あの映画「shall weダンス?」のダンス教室の舞台になった場所でもあるのだ
御存じない方には恐縮なのですが(笑)

何が言いたいかというとこういう古き良きビルの中でアングラティックな風を感じながら芝居をやれるっていうのが堪らなく良いのよね!

「おはようございます!」

そんな呑気なことを思う間もなく
世話しなくも楽しげな声達が古びたビル街に響く
「今日もお客さん入ると良いですね」
脚本と主役の二足の草鞋を履いて貰ってるH君がちょいと嗄れた声で言った
「そうだね」
明らかに声がやられている
慣れてないところに疲れと昨夜の飲みが
早くも喉に来たか?

相手が経験者ならその事に触れたいところだが
自分がやって貰って然も酒も飲ませてだし
中々に良い言葉が出てこない
飴とポットのお湯でもすすめてみるか
「声大丈夫かい?」
自分がちょいと躊躇している間にAさんが声をかけてくれた
「大丈夫です」
ハニカミながらH君が言った
こりゃ大丈夫じゃないなぁ
「H君取り敢えず必要以外喋らない方がいいネ」

直ぐに近くのコンビニで飴を買って
ポットで水を沸かした

ヤバイ

分かっていたことだが
まさか2日目にして…

慣れてる連中でも下手するとやられてしまう喉…
兎に角今は喉を暖かくして喋らせないようにして飴を舐めさせて…

昔耳鼻咽喉科の先生に言われた
「兎に角こういう時は喋らないこと喉を暖かくすること飴やハチミツは気やすめにしかならないから兎に角休むこと!」
って言われた事を思い出した

本番迄はまだだいぶ有る
横になって貰うしかないか
それとも医者に言って貰うか…
悩むなぁ…
こういう時リーダーとしての手腕が問われる

「H君取り敢えず必要以外喋らないでお湯で喉を暖めて…」
改めて自分が言ったと同時にAさんが
「医者で一回診て貰うかい?」
またも思っていた事を言われでもしまった

とH君が
「イヤ大丈夫です少し喋らないようにしてればハイ大丈夫です…」

少し間が空いた

その時
何とチラシやスタッフをやってくれてるY君が
一言
「イヤHちゃん大丈夫ですよいつも飲みの次の日の朝なんかいつもガラガラ声でも直ぐ治ってるから…ネ!Hちゃん!」
「そう」
そうって…
「本当に大丈夫かい?医者は行った方が良いと思うけど自分の体の事だから分かると思うし無理せずに…」
お金のことも有ると思うが頑なに医者には行かないと言った
本番迄は兎に角休むことに専念して貰った

客席で休むH君の傍らには喉飴とポット

その前で自分らはアップを始めた

噴霧器で劇場内を湿らせながら…

「稽古不足を幕は待たない♪」
「喉の痛みを幕は待たない♪」
こんな替え歌ソングを歌う気分には
ならなかった…

いかん!

兎に角今はH君の驚異的な復活を祈るしかなかった
反省はそのあとだ…

本番迄あと2時間を切った





そして……