「こんなとこでやってんじゃないよ!」
男はそう言うといきなり火のついたタバコを自分めがけて思い切り投げつけて来た
時刻は夜の10時くらいだった
金曜日の夜勤のガス管工事
京王線の某駅前で未だ人通りはあった
踏み切りの遮断機が降りヒトが溜まり出した時警報音の更に上をいくかの大声で
その男は自分を威嚇した

ただでさえガス工事してる上に
あろう事か火のついたタバコを自分の顔面にヒットさせたのた
一瞬凍てついた夜空が更に凍りついた
作業員の親方も流石に掘った穴から顔を出し暫し固まってコッチを見ていた
自分は事の重大さもあってか逆にじっとしたまま男を見据えた
とその瞬間その男は酔っ払っていたもののあまりにも見事な迄にタバコが自分の顔に命中したもんで逆に驚いた顔になり自分を見て多少ビビり顔になっていた
「お騒がせしてすいません!」
そのビビり顔の男に向かって自分が言うと
目が覚めたみたいな顔でスッと何事も無かったかのように去っていった

勝った!

その時何故かそう思った

踏み切りが開き溜まっていた人々がコッチを見ながら去っていった
きっとこの事を家に帰って家族に話すんだろうな
「いやあびっくりしたよ今駅前でガス工事しててさ付いてたガードマンに酔っ払いが火ついたタバコ顔に投げつけてさ…」
まるで新聞記者か実況アナウンサーみたいに話してるんだろうネ
まっその日一日イヤな事があっても
自分のそのエピソードで少しスッキリしてくれたなら良いかって軽く思ったりした

けど

もし自分がそのエピソードに出くわして帰ってから彼女にその事を言ったら間違いなくこう言われたネ!
「で?アナタは黙って見てたの?」
若しくは
「駅前なら交番があったんじゃない?」ってネ!
それでも本音は
「余計な正義感出しちゃダメだよ!」

になるよね?(笑)

まっいずれにせよその場をやり過ごすことが出来て正直ホッとした
幸いに仕事も早く終わり親方が
「お疲れ様!未だ電車ないだろ?何処まで?送ってくよ!」

「あっありがとうございます」
心の中で小さくガッツポーズ!
更に
家の近く迄送って貰い帰り際に
親方が
「あっありがとうネ良く我慢してくれたネ!」
「あっイヤ」
「お疲れ様でしたまた頼むネ!」

ドアを閉めて親方を見送った

今夜の事が果たして正しかったのかは
正直分からないが何故か気持ちは良かった

明日会社にこの件ば報告するとして

さて帰るか…

思わず夜空に向かってガッツポーズした
勿論でっかく突き上げた

何処からか犬の遠吠えが冷えた夜空にこだました





そして……