最近では、私が係わるほとんどのお子さんは発達性協調運動障害が主訴です。目的行動をうまく遂行できないとか、目的行動そのものがあいまいだったりして、自信を無くしているこどもです。日常生活や集団生活は送れていますが、ほかのこどもたちと比べると(大人になるまではどうしても比較が避けられません)、時間がかかったり、ぎこちなかったりしています。比べられなければ、それなりにできています。

 

 私がOTの活動で大切にしていることは、こどもの目的とセラピストの目的の両立です。

 

 こどもの目的は、こども自身が発する要求の背後にある潜在的な欲求にOTが気づいて、充足できるようにすることです。これは一言では説明できないので、いずれ詳しく述べたいと思います。蛇足ですが、単に子どもの「やりたい」を叶えることではありません。

 

 セラピストの目的は、目的行動の遂行過程の改善を図ることです。

 

 うまく遂行できない中身を見ると、

①自分の欲求に気づくこと、

②そのための目的を見つけること、

③それを達成する手段、方法をいろいろ考えること、

③その中から最適なチャレンジを選んで自己決定すること、

④行動の順序をイメージすること、

⑤運動を企画すること、

⑥適度な試行錯誤もしながら、行動を遂行すること、

⑦その結果に対して満足感と有能感を得ること、

⑧以上のことが得られる新しい最適チャレンジを主体的に見つけて繰り返すこと、

という一連の行動遂行過程のどこかにつまずきがあります。

 たとえばADHDのお子さんでは、③がポイントだったりします。

 また感覚統合障害は、この行動遂行の流れの中に包含されています。

 

 私は、楽しい遊びや制作活動という一連の行為の中で、このつまずきの修復を行っています。

 

 こどもはできなかったことが出来るようになって大満足です。出来てはじめて、出来たことの感動に気づきます。誇らしい笑顔やキラキラした視線に、親は感激します。どんどんチャレンジする姿を見て、それまで悲観的に見ていたわが子にそそぐ眼差しが変わります。

 

 

 その瞬間を短時間で具現できる活動の一つが、アルミ恐竜の組み立てです。

 

 実際の様子を実況します。

 

 A君。年長児です。

 鉛筆、お箸、縄跳びなどが苦手で、不器用さと元気過ぎが課題のお子さんです。図鑑やユーチューブが大好きで、電車、恐竜、マイクラなどの知識は豊富です。

 虹のかけ箸でお箸が普通に使えるようになり、名前も寺子屋式手習いで書けるようになりました。

 

 

 アルミ恐竜の組み立てを提案したくて、OT室の机にさりげなくティラノサウルスとジュラルミンケースを置いておきました。

 

 

 今日は、恐竜のTシャツを着ています。

 ラッキー❢

 はじめの30分ほど隣室で運動遊びをしてから、OT室に移りました。

 

 恐竜を見つけた瞬間、A君は「Tレックスだ」。キラッとなります。お母さんはケースが気になるようです。

 

 「触ってもいいよ」というと、ひとしきり触りながら、恐竜についていっぱい話してくれます。

 

「この手はスピノサウルスだよ。指が3本あるから。ティラノは2本だよ。」。お母さんも直ぐにスマホで検索して「ティラノは2本だそうです。」(私は、ティラノの指は3本と思いこんで、これまでのブログにも3本を強調していました。)

私の間違いを教えてくれて、感謝です。

 

 

20年の最初のティラノの指 3本

 

今回のティラノの指

 

 「今日はこの恐竜を分解してから、組み立てよう!」

 えっ、そんなことできるの?と、目を輝かせます。

 

 小さなドライバーを出して、分解です。

 

 はじめは頭と胴体をつなぐビスナットからです。

 右手にドライバーを握って、ねじにはめて、肩や左手も力んで、ぎこちなく外し始めます。

   お母さんは「えぇっ。ドライバーが使えるの?」と驚きます。

   「パパのやるのを見てたから」とちょっと嬉しそうです。

   道具の扱いでお母さんからほめられることは初めてかもしれません。

 

 ねじが外れて頭が取れると大満足です。

 Tレックスにねじを食べさせたり、振りかざして手に噛みつかせたり、「恐竜がアルミになって現代によみがえったんだ」と空想の世界をひとしきり楽しんでいます。

 

 次は尻尾のねじです。

 さっきよりもドライバーの扱いがうまくなっています。左手で見えないナットを押さえながら、右手でドライバーを回します。

   お母さんは、姿勢やドライバーの握り方が気になるようで、注意しようとします。

   私はすかさず口を挟み、

   「見ていて。これから持ち方がどんどん変わるからね。」

   「三本の指で回し始めるかも。左手の押さえ方もじょうずだよね。」と話します。

 

 こどもは、それを聞きながら、私が予見したように手先を上手に使い分けるようになります。

 お母さんに説明しながら、子どもには暗示をかけています。

 

   目的が明確で達成しやすいと、空間関係の理解や、手の機能的操作も、教えられなく   

   ても上達します。

   創造的な分解をすることで、手順も自然にわかってきます。

 

 尻尾のねじを4本外して、パーツを机に並べます。頭と手足は分解しません。

パーツの構成が一目瞭然です。

 

 ジュラルミンケースからパーツと恐竜の絵を出して並べます。

 

 「さあ、どんな恐竜を作ろうか❢」

 Aくんはブラキオサウルスを選びました。

 

 ティラノを分解しているので、パーツの組み合わせがほぼわかります。

 肉食の頭、長い首、肩、胴体(手足付)、長い尻尾です。

首との角度をつける継ぎ手は教えてあげます。

 太さ5mm×長さ15mmのねじ7組を揃えました。

 

 頭と首のパーツにねじを通して、裏返して右手の指でボルトをくるくる巻きます。またひっくり返して、今度はボルトを左手で押さえて、ドライバーを右手で上手に回します。空間操作や指の使い方が、教えなくても変わりました。私もお母さんも目を見張りました。

 長い首と胴体をつなぐ時には、恐竜を横にして、A君も顔を横に傾けて、覗き込むようにしながらナットをはめます。

 

   「まるで、自動車整備士のようだね。」

   「エンジニアだね。」

   A君はこの会話を聞いて、ますます集中します。

   お母さんはスマホで動画を撮り始めました。

   (私は子どもの決定的場面を、よく動画で撮ってもらっています。)

 

 先端の尻尾は、細い隙間です。指を入れるとナットが見えません。A君は指先の感覚に集中して、苦労しながらはめました。

    お母さんは、「今までだったら投げだしているのに、最後まで頑張って驚き!!」

   と褒めました。

 

 完成です。

ブラキオサウルスです。鼻はいずれ誰かが作るでしょう。

 

 約30分。わき目もふらず集中しました。

 世界で一つだけの恐竜です。

 A君の顔が、晴れやかできりっとなっています。

 

 次回も恐竜を組み立てます。パーツのアイデアや希望があれば、作成もします。

 

 不器用さの改善のために作成したアルミ恐竜でしたが、子どもたちはそれ以上の成果を見せてくれています。

 

 目的を持つこと、最適チャレンジ、自己決定、遂行、達成感、有能感という内発的動機づけは、私のOTの心柱です。

 

 次回は『一家に一台、アルミ恐竜』の組み立てキットを紹介します。