やりきった感の得られる活動
セラピーがセラピーとなるためには、子どもの内発的動機づけに基づく『とにかく楽しく燃焼し、やりきった感の得られる活動』が原則です。
この後に行くマックのことを考えながら活動しているようでは、セラピーになりません。
子どもが熱中し集中している様子は、姿勢も視線も表情も生き生きしていて、誰もが引き込まれてしまいます。
私は、1時間のセッションの中で何が何でもこのような瞬間を体験してもらえることを、最も心がけています。
このような活動の中で、運動企画や視覚的注意が発揮されて初めて、眼球運動調節の促通がなされると思っています。
(イラスト:まっちゃ煎餅)
眼球運動改善のための楽しい活動のスタンダードともいえるフレクサースウィングの遊びを紹介します。
平成元年にジェムコ出版で制作したビデオ「子どもの発達と感覚統合」の中のアクティビティの一つです。私はこの遊びの場面で「回転刺激を受けながらだと注視しやすい。目の動きを滑らかにしようとしています」と解説しています。
しがみついて乗るのでフレクサースウィングと呼ばれていますが、私は「コアラブランコ」と言っています。乗り方がすぐイメージできます。
コアラブランコ(フレクサースウィング)の遊び
子どもの目的とOTセラピストの目的
OTにくる子どもたちは、何らかの問題をもっていて、そのためにうまく遊べなかったりしています。
しかし子どもは問題に触れられるよりも、もっと遊べるようになりたいのです。
セラピストにとっては、それをかなえてあげながら、さらにその先の原因を改善することが求められています。
子どものセラピーにはこの二つの両立が必須です。
子どもの目的
コアラフランコの遊びは、子どもはスポンジを巻いた丸太にコアラのようにしがみついて、回転しながら揺れることを楽しみます。慣れてくると立ったり、アクロバチックな姿勢だったり、色々な乗り方で楽しみます。揺れを楽しむだけでなく、OTでは様々な遊具をプラスして、チャレンジングなゲームを展開します。
トランポリンがひたすら跳ぶことを楽しむレベルからオリンピック競技まであるように、コアラブランコも回転を楽しむ感覚遊びから、何かを操作しながらの運動遊び、さらには点数を競う遊びまで、メニューが盛りだくさんです。その子が最も楽しいと思う遊び方に、何かをプラスワンして、もっと楽しくします。新しい遊びを思いっきり楽しみ、最適な挑戦を見つけて、達成感や有能感を感じることです。
次回の最適チャレンジに心躍らせれば、子どもの目的は達成です。
OTセラピストの目的
その先の原因にアプローチします。
こどもの目的をないがしろにして、セラピストの目的を優先しても成果は期待できません。
こどもの熱中する遊びの中に、最適挑戦となり、かつセラピストの目的も達成できるものをプラスワンします。
ここでは、行き過ぎサッケードや出遅れサッケードとして見られる視覚的注意や眼球運動調節の改善について紹介します。
治療手段の『運動遊び』は、目的でもあり、手段でもあります。
ゲームにする
子どもが楽しく、そしてチャレンジ出来るにはゲームにします。内発的に動機づけられた活動が、もっとも統合を促すからです。
ブランコの揺れに慣れて、余裕がでてきたら、おもむろにプラスワンの遊具を出します。
輪投げ、テニスボールとストラックアウト、ペットボトル、バットなどです。
遊び方
しがみついているコアラブランコを揺らしながら回転させます。回転して乗っているだけなら、視線は自由に泳いでいます。
OTが輪投げの輪を子どもの視線よりやや高い位置に提示します。子どもは輪を取って、回りながら輪投げの棒に入れます。
5個入れたら、回転を逆方向にして残りを入れます。10個入ったら成功。何回か繰り返します。
活動の意義
頭が回転しながら指標を見ると、三半規管と眼の筋肉と網膜が連動した前庭眼反射が働いて、注視(固視)を支えます。
右に回転しても、注視し続けます
輪を取るためや、輪投げの棒に入れるために、目的的な注視が促されます。
この注視活動は、相互に補完、強化されると思われます。
ビデオ 「こどもの発達と感覚統合」より
成功すればするほどやる気が高まって、姿勢や目的的平衡や手の運動企画の改善が図られます。視線もピタッと合うようになります。
変化が一目瞭然なので、保護者もすぐ動画を撮ったりします。
留意点
【回転】
ブランコは、大きく規則的な水平回転にします。不規則な揺れは、前庭刺激への適応反応を妨げます。
【輪の位置】
輪は、注視を促したい高さと位置に提示して、動かしません。
手で確実に取るように言います。「よく見て!」とか「見なさい!」などと強調すると、かえって目を動かせなくなります。
しかし、視野で捉えていい加減に取ろうとしたら、輪を動かして取らせません。また、輪を親切に手渡したりもしません。
しっかり見て上手に取れたら、すぐ褒めます。
【輪投げの棒】
棒は手が届くか届かない距離に置きます。輪を棒に確実に入れてもらいます。
輪投げなのでつい投げたくなりますが、投げさせません。投げると視線や運動企画が雑になります。
【入れるタイミング】
入らないときには、輪を持ってさらに回り、入れるタイミングを図ります。もっと見ようと身構えます。
【セラピストの視点】
セラピストは、ひたすら子どもの眼球運動や運動企画の状態を見ながら、揺らし方や提示をコントロールします。
バリエーション
①的はセラピストや母の手
輪投げの棒の配置が難しい時は、OTや母の伸ばした手に輪を入れてもらいます。入れるときの視線を確認しやすくなります。
②デッキ輪投げ
狙った数字の棒に入れたいという気持ちが強い子どもだったら、より注視が促されます。
的を絞らないでどれかに入れば・・・という子どもの場合は視覚的注意があいまいになるので、逆効果です。
③ストラックアウト
同じ設定で、テニスボールやお手玉を手渡して、ストラックアウトの的にボールを入れます。的は、狙ったマスに確実に入るような位置に置きます。
ボールをコントロール良く投げられる子どもの場合は、的を少し離すと挑戦意欲が高まります。
④シューティングゲーム
回転するブランコにぶつからない程度の離れた位置にペットボトルなど様々な標的を配置します。手渡されたテニスボールをぶつけて倒します。
テニスボールの重みと手触りは、固有受容覚や触知覚のフィードバックを助けます。
回転しながら的を狙って、数個をうまく倒せると、次第にトンビや鷹の目状態になってきます。
次回は吊りボールを紹介します。