誰でもそうだろうが、食事を残してはいけない、と言われて育った。おかわりするときも、ご飯はお茶碗に3分の1で、と細かく考えて行っていた。これまでの海外旅行では、ウエイトレスに「完食はあなただけ」とほめられること度々であった。やせて見えるので余計びっくりするらしい。

 

 3月は北陸寺めぐりに出かけた。一日目の夕食の際、ソースカツ丼、油揚げ、おろし蕎麦、海鮮丼という福井名物全部載せを完食した。丼といっても器の大きさはどれも汁椀ほどであり、昼食時の駅弁は小さかったし、間食もしていなかったから全部食べることができたのである。二日目の昼は永平寺で、作法を聞きながらの精進料理だった。仲良しとの旅なのに、しゃべらないで食べるのはつまらなかったが、出汁がきいている料理はおいしく、勿論完食した。この日の夜は、福井で蟹を食べなくてどうするというので、蟹のコース料理をいただいた。友達2人は残していたが、私はまたもや全部きれいに平らげている。

 

 4月の南西フランス旅行のサンテミリオンのランチのデザートは、アイスクリームとドラ焼きほどの大きさのマカロンだった。サンテミリオンのマカロン専門店のマカロンは、私達が普通見る大きさなのに、このデザートのマカロンの大きさはなんとしたことだろう。スープ、肉料理の後に、この大きなマカロンを残さず食べたのは私だけだった。私はパンを食べないからでもあるが、食い意地がはっているからである。

 

 5月、昨年の秋につづき、地方に住む友達と京都に集合しての旅をした。二日間の京都観光の後、夕方名古屋に向かった。京都でお茶する時間がなかった私達は、ひつまぶしをきれいに平らげた。ビジネスホテルでの朝食はコンビニおにぎり1個とヨーグルトで済ませ、8時に名鉄名古屋駅に向かった。名古屋名物モーニングを食べたかったが、犬山城と岐阜城の両方を半日強で見るには仕方のないことだった。二つの城を見て名古屋駅に帰り着いたのは14時である。最後も名古屋名物をというので、エビフライと味噌カツの盛り合わせ定食を注文した。たくさん歩いた後であり、時間的にも、大きなカツも大きなエビフライ二本も全部食べることができそうだった。カツを覆う味噌はあまく、タルタルソースはたっぷりで、定食にしては具沢山の味噌汁であった。友人3人はカツ半分を残したが、私は完食した。帰宅したこの日は、何も食べる気にならなかった。

 

 翌日、普段通りの朝ご飯を食べて絵の会の会議に出かけた。帰りに次回の会議の打ち合わせを兼ねてランチに誘われた。一緒の2人は6個盛り餃子を半分ずつの3個と焼きそばを一皿ずつ食べていたが、朝ご飯を食べていた私は餃子一皿にとどめた。しかし、食べたこと自体がいけなかったらしい。この日もその後何も食べる気にならなかった。翌日、少食にとどめたので調子をとりもどせたように感じていた。

 

 その翌日が国技館観戦であった。いつものように昼食はちゃんこ鍋である。他の3人は深川飯付きのちゃんこ鍋定食にするという。つられて深川飯つきにしたのがいけなかった。とどめは翌日の写生会だった。昼食にコンビニおにぎりを2個食べ、ついに胃が悲鳴をあげたのだった。

 

 初めて、完食はやめよう、大食漢から卒業しようと思うに至った。とはいえ、意地汚い私は、この決意を守り切れる自信がない。73歳にもなって情けないことである。