タリンからの船でヘルシンキに着いたのは夕方6時半過ぎであった。ついにこの旅も最終地に到達である。そのままレストランに向かい肉団子の夕食となった。ドイツから来たというウエイトレスの初々しさが印象に残る食事であった。


20107月、私は夫との北欧旅行でヘルシンキを訪れている。このときは午前中が市内観光であった。岩に包まれたテンペリアウキオ教会(別名ロックチャーチ)、ヘルシンキ大聖堂を見、聖堂前の広場を横切ってすぐ近くの露店市場を歩きランチという行程となっていた。今回のヘルシンキ観光はヘルシンキ大聖堂だけである。


聖堂前の広場はゆるい傾斜になっている。広場なのに水平ではないということに違和感があった。今回も前回に来たときと同じように落ち着かなかった。こんな思いにとらわれたのは私だけなのだろうか。


この大聖堂前で解散し3時間の自由散策となった。午後2時にはこの大聖堂前から空港に向けて出発となるからである。広場から市場に向かった。冬だからなのか営業している店は23軒であった。夏の市場の活気やにぎわいを知っていてよかったと思う。この後、私は前回と同じように、市内を一周する市電に乗ることにしていた。


前回、市内一周の市電に乗り込んだのはツアーメンバー14人の中で、夫と私の二人だけであった。歩くのが困難になっていた夫には、座っていながら市内見物ができる市電一周がありがたかった。ゆっくりした速さの市電に乗りながら、街のたたずまい、垣間見える郊外の雰囲気を見たことは、とても良い思い出となっていた。


今回、一緒に市電に乗るはずだったMさんはホテルにカメラを忘れ、一人で取りに行くことになった。「市電で街一周」を私一人でも実行するつもりだったが、私の計画を知ったツアーメンバー5人が一緒に参加することとなった。

市電に乗る切符はキオスクで買う。キオスクの場所を道行く人に尋ねてそのへんを歩き回るものの一向に見つからなかった。探し回っていると雪が舞い始めた。この日は今回の旅で一番寒い日となっていた。途方にくれていると、若い女性が自分の乗る市電を見送って、停留所の券売機での買い方を教えてくれたのだった。6人の中でこの券売機に使えるクレジットカードを持っている人が一人いたのは幸いだった。


60代以上の男女6人が券売機の前に立って、切符が一枚ずつ出てくるたびに安堵の歓声を上げる光景は滑稽だったが、6人目の切符が出てきたと同時に乗るべき市電が乗り場に入ってきた。歓声を上げながら乗り込むと、幸いにも6人が輪になれるように席に着くことができた。寒さでかじかんでいた体は車内の温かさでほぐれていったのだった。


 9年ぶりに乗ってみると、郊外と感じられる場所が減っているように感じられた。市電のゆっくりした速さのおかげで、今回ものんびりとほっとする心地良い一時間であった。この市電旅に参加してくれたツアーメンバーが喜んでくれたことも良い思い出となった。


市電を降りると集合の時間までは約一時間となっていた。皆トイレに行く必要があった。停留所近くの小さいカフェに入ると、チョコレートを売る店でもあった。北欧らしい洒落たカップに入ったコーヒーの横にはチョコレートも一個載せられていた。皆それほど空腹ではなかったものの、チョコレートのおかげで空港までのエネルギーが保てたといえそうである。


空港で出国手続きを終え、あとは飛行機に乗るだけとなってから、Mさんと私は、スモークサーモンと小エビのランチを分け合った。タリンからヘルシンキまでの船のレストランでスモークサーモンと小エビのメニューを見ていて、食したいと思っていたからだった。空港内のレストランながらもサーモンも海老も新鮮であった。おいしかったことはいうまでもない。


寒い日が少なく、ツアーメンバーにも恵まれ、おいしいものも多かった楽しい旅もこれで終了した。