モンゴル正月

大晦日:


旧暦の冬の最後の日、大晦日のことをモンゴル語で「閉じる」という意味の「ビトゥーン」と言います。旧暦の大晦日は、月が姿を隠し、空が閉じられたように真っ暗になるということに由来している、あるいは、この日はお腹が一杯になるまでご馳走を食べるところから「ビツゥーン」と呼ぶとも言われます。正月はモンゴルの遊牧民にとってはとても大きな意味を持つお祭りです。

大晦日にモンゴル人は朝早く起きて、大掃除をし、家を綺麗にします。田舎に住む人たちは家の中だけでなく、家畜小屋の囲いなどもきれにします。これは、1年間の悪い出来事や家の中にたまった悪い物を追い出し、新年を清潔で幸せに迎えることを象徴しています。また、借金は大晦日まで返します。けんかした相手とも大晦日までに仲直りするという習慣もあります。これは誰もが心配事もなく、満足に新年を迎えるために縁起をかついだものです。どうして旧正月のことを白い月と呼ばれるようになったのでしょうか。1206年、チンギすハーンの王座に即位して以来、旧正月を乳製品の祭りという意味で祝っていたと歴史書に書かれています。そして、白い乳や白い色は清潔のシンボルとしてモンゴル国民が見なすことになりました。昔からモンゴル人は大晦日に宗教的な行事を行ってきました。ゲルのとびらの、外から見て、右上には白い石か、透明な氷を置いてよい神様を招き、左側にはハランガというほうきを作る材料になる植物を置き、悪いものを追い払います。こうして新年を迎えるときには、家の中の悪いものは全部追い出しておきます。また、大晦日から1週間前に火を信仰する習慣が行われます。火を信仰するために、乾燥した木やアルガルつまり牛の乾燥した糞で火をつけ、羊の焼き取った胸の部分を火に捧げ、その上にバターや酒をしたたり、火に関するお経を読み、ねずをくすぶります。そして火に対し「故郷を守る息子にし、火を守る娘にし、草原に放牧する数多くの羊にし、草原を走る多くの馬にして」という意味のお経を読みます。また、大晦日から1週間前にモンゴル人は髪を切らせます。この日、髪を切らせば数多くの家畜を持つよい日と見なします。また、髪に悪いものが集めると見なし、さらに綺麗にするため、髪を切ることもあります。大晦日以来病気にかかる、魂に会うなどの悪いものがあると見なすため、大晦日になるまで火を崇め、髪を切らせるのです。


大晦日の過ごし方は地方部と都会部ではやや異なります。地方では、みんなで集まって、モンゴルの伝説や昔話をしたり、羊のくるぶしのおもちゃシャガイで遊んだりします。都会の人々はテレビでモンゴル相撲を見ながら、両親や親戚と一緒に過ごします。
大晦日の午後、その家の主人はお正月のお供えのお菓子などをテーブルの上に整えます。大晦日のテーブルには伝統的なご馳走が欠かせません。大きなお盆に小麦粉で作った楕円形の(だえんけい)のお菓子、日本語に直訳すると「足の裏」という名前のウル・ボーブを供えます。積み方は色々あり、その家系で一番年長にあたるおじいさんの家では
7段、父親の家では5段、結婚して家庭を持った息子は3段にそれぞれ積み重ねて供えます。必ず、奇数段になるのはモンゴル人の数字に対する考え方の中で、偶数(ぐうすう)が苦しみや困難、奇数が幸せを象徴しているので、仕事や生活が幸せで終わることを願って奇数で終わるように積み重ねるのです。もう1つのお供え物は、丸ごとの羊肉です。おじいさんの家や僧侶のところでは脂肪がたっぷり付いた、尻尾が付いた丸ごとの羊肉をゆでて出します。これもお盆にのせ、上には一緒にゆでた羊の頭ものせます。羊の頭のひたいにはバターを塗ります。また、羊の肉を全体でゆでて、大きな肉を供える家族があります。さらに、丸ごとの羊肉と羊の4つのあばら骨を供える家族もあります。しかし、羊の肉を全体でテーブルの上においても羊の胸部分を置きません。なぜかというと、胸部分を置けば、貧乏になると見なされているからです。

ツァガーンサルの主なご馳走料理はボーズと言う肉まんじゅうです。なぜ大晦日に必ずボーズを食べるのと思いますか。ボーズが小麦粉の皮でしっかり「閉じられた」「ぴったり閉められた」食べ物であるからです。お正月に対して、作るボーズの数は家庭によって、違います。およそ400個から2500個のボーズを作ります。お客が多く訪れる家庭は2日間にかけて1500個から2500個のボーズを作ります。ボーズは日本のギョウザとちょっと似ているんですが、形は丸いです。ボーズの肉は牛肉や羊肉です。ボーズを作る方法から少し紹介いたします。まず、肉をギョウザの肉みたいに細かく切って、塩(しお)、胡椒(こしょう)、タマネギなどで味付けをします。そして、小麦粉に水を入れて混ぜます。混ぜた小麦粉から少々切って、切った小麦粉を平(ひら)に丸くします。その丸い小麦粉の中に味付けをした肉を入れて包みます。最後は、ボーズを蒸し器に入れ、25分ぐらいむして でき上がります。モンゴル人はお正月のご馳走の伝統を守るのは用意したご馳走の味や色が各家庭の昨年の幸運、新年の幸福を象徴しているからなのです。大晦日のテーブルに欠かせないのは、乳製品です。お米をたき、牛乳や砂糖で味付けしてお皿に入れて置きます。


大掃除、食卓の準備ができると新しい着物の用意です。昔、内部に黒い毛は1つも入らなかった子羊の皮のデールを着ていました。有方になると家族皆が大晦日のテーブルを囲み、年上の人が奥に、それから年齢の順に座り、一家の主婦は食べ物の最初の一片
(いっぺん)を仏壇やストーブの火に捧げ、主人に最初のお茶を捧げ、大晦日のお祝いが始まります。大晦日の夜にはボーズつまりにくまんじゅうを蒸し、ぎょうざをゆで、お米が入ったスープなどを皆で食べます。夕方には近所の家と出来上がったボーズやぎょうざの交換が続きます。しかし、大晦日の明日はお正月の日なので、馬乳酒やウォッカなどの飲み物を飲みすぎてはいけません。