運転代行時代のヒトコワ?怪談 | 釣り好きバイク好き激辛好き

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「退職して地元に戻る事になったんですよ~」

 

その日の夜、宮崎市最大の商業施設「イオン・モール」から常連客である好青年(仮名を綿貫氏としよう)を自宅まで送迎していた。

 

オイラよりひと回り下のこの青年は、大学を出た後に、地元から遥か遠く離れた宮崎県内の企業に就職したが、とある事情により退社したという。

 

もちろん円満退社なのはいうまでもない。

 

ひと通りの社会経験を経ても尚、純粋な心を失わない綿貫氏は、それと真逆の心を持つ(しかもサイコ野郎)オイラの運転代行を二年間に渡り、よく利用してくれたものだ。

 

どんなに元気の無いお客でも

 

「利用してくれた以上は持ち前のイカレ話とクズ話で必ず笑わせる」

 

を信条に仕事をしてるが、やはり別れは辛いものである。

 

綿貫氏の自宅まで、しみじみとした会話をしている内に宮崎県内最大の河川である大淀川に架かる橋を渡る。

 

眼下には釣り人達が竿先に付けたケミホタルの緑の光が点々と見える。

 

綿貫氏「明日、最後のお別れ会があるんで、またイオンモールに迎えに来てください♪」

 

橋を渡り終えて、二十分ほど走ると閑静な住宅街に出て、アパートの駐車場に入るが、ココが終点である。

 

狭い駐車場なので、何度も周りを確認しながらクルマを止めるのに難儀する。

 

綿貫氏「それじゃ、また明日お願いします♪」

 

そして日が明け、翌日も指定された場所に綿貫氏を迎えに行くが、助手席に乗り込んだ綿貫氏は開口一番に

 

綿貫氏「運転手さん、昨日、駐車場に女の人居たじゃないですか、」

 

俺「はぁ。」

 

綿貫氏「あの人から三千円貸してくださいって頼みこまれたんで困りましたよ〜」

 

綿貫氏いわく、この女の人は同じ階に住む三十代位の生活保護で生活している人物で、パチンコ通いの末にお金が無いからと、金の無心をして来たそうだ。

 

俺「それで、断ったんですか?」

 

綿貫氏「可哀想だけど・・・」

 

俺「本人のためにもならないからね。」

 

そうこうしてる内に、綿貫氏の住むアパートに差し掛かったが、何だかアパートの様子がおかしい。

 

駐車場の傍らにはパトカーと救急車、そして地元民が集まっていた。

 

駐車場の入り口からアパートの方を見つめる警察官がこちらの車に気づき、軽く身をかわす。

 

二人で何事如何にと訝しげに会話を交わした後に、ガッチリと握手してこれまでの感謝と、この未来溢れる好青年の今後の健闘を祈りつつ帰路に就く。

 

それから三十分ほど後に

 

「デーン♪(ズンチャカズンチャカ)デデデーン♪」

 

オイラの携帯から着信音「新・必殺仕事人〜出陣のテーマ〜」が鳴る。

 

誰だろうと思って電話を取ると綿貫氏だ。

 

綿貫氏「運転手さん、俺、あの時、あの女の人に三千円渡しとけばよかった。」

 

嫌な予感しかしないが

 

俺「どうしたんですか?」

 

綿貫氏「あの女の人、部屋で死んでたそうです・・・」

 

その後

 

「仮にその人に三千円渡したとしても一日二日命が繋がっただけで、結果は同じ。

 

お金も無いのにギャンブルに狂う人はそんなものだし、あなたは何も悪くない。」

 

と励まして電話を切った。

 

本来、食料品・日用品・生活必需品を買う事に充てるべき生活保護費からギャンブルに好き好んでドブ銭を投じる輩に、パチンコを止めるように言った所で馬耳東風、馬の糞に念仏なのである。

 

ちなみにオイラはパチンコの台にすら触ったことが無い。

 

数多の趣味があるし、そんなドブに捨てる金が手元にあるならタミヤのRCカー「ランチボックス」か、「アブガルシア」の両軸リール買うな。

 

額に汗して働いて得た収入だけが「お金」なのだ。

 

かと言って、パチンコ産業や娯楽の範囲でパチンコをする人まで否定してない事を付け加えておく。

 

しかしながら、一つだけ疑問に思う事があった。

 

綿貫氏は「昨日駐車場に女の人が居たじゃないですか」

 

と話していたが、当日の夜、あの狭い駐車場の何処にもそんな女の人は居なかった。

 

もしかしたら、件の女の人は当日の時点で既に亡くなってて、自分が死んだ事に気づかぬ彼女は、切羽詰まる想いで軽い顔見知りである綿貫氏に金の無心に現れたのかもしれない。

 

 

おちまい