2019年3月30日。
俺にとってはお正月。元旦だ。
この日をどれだけ待っていたことか。
ところが俺は遠く北へ、北海道にいた。
年度末。否応がなしに仕事は入る。
季節外れの雪月夜。
空を見上げれば、月が浮かんでいた。
「お前は池袋へ行け、池袋へ行け」
「お前なんか忘れられるぞ、忘れられるぞ」
「待っててくれないぞ、待っててくれないぞ」
得体の知れないもう一人の俺が、呪詛のようにささやき続けている。
頭の中に何度も何度もこだました。
北海度にはまだ桜咲かず。
新元号。エイプリルフール。超組閣。全部旅先で聞いた。知った。
3ヵ月。
長い。桜の開花を待つように心穏やかに待つつもりだった。
しかし、もう一人の俺は違った。
「お前はパームスへ行け、パームスへ行け」
「お前なんか忘れられるぞ、忘れられるぞ」
「待っててくれないぞ、待っててくれないぞ」
2019年4月2日。
先週からずっと脳内に呪詛が響き続けた。
頭が割れそうだった。
2019年4月3日。
やっとのことで途中入場したパームス1部公演。
そこに桜が咲いた。春が来た。
桜色のさくらんぼの香りを乗せたやさしい風が吹いた。
長かった。待っていた。
俺ほど桜が咲くのを待ちわびたやつはいないだろう。
もう一人の俺に、言ってやった。
「むーんは、待っててくれた」
ドリンクチケットで交換したハイボール。
熱いものがこみ上げてきた。