″さあ、彫刻刀で好きに彫ってみろ″


小学生の頃を思い起こすと、そんな調子で

彫刻刀の授業が始まった覚えがある。

時より先生が、こういう彫り方もあるぞと

生徒の板で見本を見せてくれるのを

みんなで囲んで見学したり、クラスの誰かが

家族に教えてもらった秘伝の彫り方が

伝言ゲームのように広まったり、そうやって

みんな彫れるようになっていった。


ただ彫刻刀を持った瞬間に板に書いた

線に沿って彫る程度はみんな出来ていた気がする。


「前に進まないよ助けてー」


練習用に板に短い線を幾つか書いてあげたのだが

ソラ君は線の端に三角刀を押し付けたまま動けない

刃を前に滑らす事が出来ないのだ。

後ろから手添えをしてゆっくりと刃を滑らす。

手を離すとまた止まってしまう。

力を入れなくてもスッと刃が入って木を削っていく

感覚が上手く掴めないようだった。


あの頃、こんな子もいたのだろうか?

私が気づかないだけだったのだろうか?

みんなが思い思いに刃を滑らせ、作品を彫る中

滑らない刃と格闘していた子が

もしかしたらいたのかもしれない。


何度も手添えと1人で挑戦を繰り返すうちに

なんとか直線は彫れるようになった。

早めに練習に入れて本当に良かった。

少しずつ余裕を持って取り組んで行こうと思う。