【有機給食】なぜ小山市が”コウノトリ”に取組むのか |  みどり色の地球

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小山市長 浅野正富さん

小山市長の浅野正富さんは環境・生態系に非常に精通している方です。弁護士で、2012年に渡良瀬遊水地がラムサール条約湿地への登録実現の立役者です。「NPO法人ラムサール・ネットワーク日本」の事務局長として署名運動や議会への陳情等、熱心に働きかけてきました。

2020年に小山市長になりましたが、現在も「ラムサール湿地ネットわたらせ」事務局長、「コウノトリ・トキの舞うふるさとおやまをめざす会」会長などを務めています。持続可能な社会を目指し、未来の子供たちに対する責任を果たすため尽力し続けています。このような方が首長になる意義は本当に大きなものがあるとつくづく感じた視察でした。

  

田園環境都市ビジョン

2022年6月に2回「田園環境都市」とはというお題目で市長自らレクチャーをしてます。

その最後にこんなことが書かれています。

 

「田園環境都市 小山」のまちづくりとは、この素晴らしい環境を将来にわたって維持向上させ市民一人一人が真の豊かさを実感し自己実現を目指すことのできる、SDGsの実践と一体化して行うまちづくりです。

そのためには、市街地整備や農地・ 緑地の保全を別々の事業として行うのではなく、都市環境と田園環境を一体のものとして捉えて環境管理を行うだけでなく、SDGsの17の目標をはじめあらゆる政策を体系化し統合して 行うまちづくりなのです。

 

もう泣けてしまいます。

 

このビジョンの実現のために「田園環境都市推進課」がつくられました。

私が「いいな」と思う部署は他にも「自然共生課」「ゼロカーボン推進課」があります。さすがだなと思うのは、それらが都市計画部や環境課に属しているのではなく、総合政策部にあることです。

私がずっと言い続けているのもこれです。生態系、ゼロカーボン等の課題は、一か所の部署でやるのではなく、体系化、統合化して進めるために政策部(吉川市では政策室)になくてはならないと言ってきましたが、小山市では実現できています。

 

オーガニックビレッジ宣言

「田園環境都市・小山」の実現を目指し、翌年2023年5月、オーガニック宣言をしました。生物多様性に配慮した持続可能な農業の発展と、調和のとれた田園都市。生産者から消費者までが一体となった取組み、人・いのちを大事にする有機農業を推進することを決意しました。

小山市はコウノトリを中心としたまちづくりを推進していますが、なぜコウノトリなのかというと、コウノトリは湿地におけるアンブレラ種で食物連鎖の頂点に立ちます。

魚やカエル等の水生生物やバッタ、ヘビ等、様々な生きものを食べます。

コウノトリが暮らすには、それら腹を満たす餌の量の確保が必要になってきます。農薬を減らし、生き物が暮らしやすい環境を作ることが求められ、必然的に有機・無農薬といった選択を余儀なくされるのです。アンブレラ種であるコウノトリの飛来は湿地保全のシンボルであり、バロメータとなるのです。

    

コウノトリ舞う目標が2040年、トキ舞う目標年を2100年としていましたが、コウノトリは2013年頃に飛来し始めましたので、20年前倒しで目標が実現したということになります。

 

「小山市有機農業推進協議会」発足

市長の熱い思いを受け、農政課の職員たちは小山市で有機米を作るために奔走します。どの町でも先進的な取り組みの陰には職員の本気の努力があります。小山市でもご多分に漏れず、そのような頼もしい職員がいました。

 

2021年12月「小山市有機農業推進協議会(以下 協議会)」が発足されました。その約半年前の5月に、国が「農地の4分の1にあたる100万haを有機農地にする」という政策を盛り込んだ「みどりの食料システム戦略」を出しました。市が方向性を示したのはそれよりも前です。担当課は「取組み始めて間もなく戦略が出され、補助金なども出てきたのでラッキーだった」と話されていました。先見の明のある政策はモデル事業にもなるし、いずれ国の補助をしっかりと受けとれ、大きなメリットが生まれるのです。有機米に取り組んでいる自治体からは「有機は世の流れ」という言葉が出てきます。本当にそう思います。

我がまちでも普通にこの流れに乗っかってもらいたいところです。

 

当協議会が「みどりの食料システム戦略」の推進団体となり、みどりの食料システム戦略推進交付金の産地づくり推進交付金を受けて、有機米づくりの推進、農地を増やす取り組みを進めています。

 

〇推進交付金は1年目1000万円、2年目の今年は800万円、3年目は600万円位だそうです。3年間限定の交付金です。圃場の借上げ、技術指導、講演会、機械の導入、普通米との差額補填などに使われます。ソフト面は100%、ハード面は2分の1の補助等で活用しています。

 

オール小山ですすめる推進協議会メンバー

協議会のメンバーは消費者・生産者・流通・加工事業者・そして助言や協力を頂ける団体20人程で構成されています。

元々あった団体「生井っ子(減農薬・減化学肥料の生井の米)」をつくっている「生井っ子プロジェクト」「小山市生活学校」「小山っ子の未来を守る会」「よつ葉生協」等は、これまでは各々違った活動をしていましたが、協議会のメンバーとして目的を共に、少数派同志、力を合わせてやっていこうということで集まりました。

JAは上層部では有機を推進し始めていますが、地元JAではまだまだそこまで至りません。しかし、何とか関りを持って進めたいと声掛けはし続けているそうです。

 

実際、有機米の備蓄・輸送をJAが担ってくれたら助かるというお話が出ていました。現在、有機米は農家が自分の敷地に保管して、使う時に精米会社に移動しますが、お米は虫が湧くので低温で保管したいのだそうです。

そのように、色々課題はありつつ、当協議会で農薬や化学肥料を使わない環境に優しいお米「ラムサールふゆみず田んぼ米」づくりに取り組むのでした。

 

大きいのは指導者の存在

ふゆみず田んぼ米の成功までに欠かせないのが指導者の存在です。

小山市ではNPO法人民間稲作研究所理事長であり、「館野かえる農場」の舘野廣幸さんから技術指導を仰いでいます。館野さんは有機稲作の第一人者である稲葉光圀さんの後継者です。

 

いすみ市では指導者もなく初めた1年目は雑草がものすごくて、1年で断念するところだったそうです。そこに稲葉さんが登場し、ちょっとしたコツを教えてもらったことで、いすみ市の無農薬米づくりに光がさしたのだそうです。

 

例えば、ほんの少し水を深くしたり、タイミングよく水をかくことで雑草防除ができるとか。カルガモ農法ではこの水をかく作業をカルガモがしている訳です。

私も何回か有機米の勉強をしましたが、指導者がいると、難しそうに見える有機米栽培も何だかできそうに見えてきます。

 

有機農業者が増えている背景

実は小山市では、渡良瀬遊水地がラムサール条約湿地に登録された2012年に、「ふゆみずたんぼ実験田」推進協議会が設立されていて、その時に9名の農家さんで約4.4ha、コシヒカリの有機栽培を始めていました。給食にも年1回だけですが導入されていたのです。

 

そんな歴史の元、2021年に協議会が立ち上がり、新規農家さんも加わり、2022年は総勢14名となりました。有機水稲栽培技術指導の研修会に参加する農家さんは少ないですが、2023年にさらに新規農家さん3名が加わったことをみると、研修会などの支援が効果を表わしているようです。新規就農者の知り合いだったり、農家でなかった方が有機農業にチャレンジしたり、輪が広がっているのは確かです。

 

2023年、有機農家17名による取組み面積は、昨年の8haから17.8haへ。法人が6.5ha増やしてくれています。それでもまだまだ小山市の農地の0.2%にすぎません。学校給食の米をすべて有機にするには玄米で220t(精米200t、1回1.35t週4回)必要です。まずはその半分100tを実現するために、令和9年30haを目指しています。

全量有機米にするにはあと3倍強、有機農地を増やせばできる計算です。

 

新規就農者支援と移住政策

有機農業に携わるのは小規模の農家さんが多く、既存の支援策では当てはまらないことが多いです。どのように新規有機農業者を支援するか、できるのかを考えることが大切です。

これは私見ですが、有機農業は同じ農業とはいえ、慣行農業(農薬化学肥料を使った農業)とは別の事業のようなものです。慣行農業をやっていた方を有機に転向させようとするよりは、新規の人が始める方がハードルは低いようです。

一方、水稲は初期費用がかかるので、跡継ぎの方がやるとスムースだという話もあります。

小山市では市で下記の機械を貸し出してくれます。新規就農の方にとっては初期費用があまりかからず始めることができるので、非常助かるシステムです。
 

          単年度の市の負担

 ▸色彩選別機 リース  189万円

 ▸除草機   リース  422万円

 ▸畔草刈り機 買取     29万円

 ▸田植え機  買取       143万円

 

研修会などの対象者を市内の農家さん限らず、広く募集し、まずは有機の仲間づくりにつなげることが大切です。人と人が見える関係になった後、移住&新規就農に誘うのが賢いやり方です。有機農業は移住政策・空き家対策とセットです。

 

小山市では次の策として「有機農業新規就農コーディネーター」を国の交付金を使って配置し、就農後の農法安定に向けた支援をしたいそうです。今、オーガニックアンテナショップHARETARA(ハレタラ)の方がその役を担えないものかと模索中とか。

ちなみにオーガニックアンテナショップは、協議会が、小山市、栃木県の有機や自然栽培生産者等と消費者とつなぐ場所として設置していています。オーガニック農産物のみでなく、特別栽培農産物などの農産物や調味料など安心・安全な商品を取り揃えています。

 

るなぁ!「オーガニック講座」

啓発事業として「オーガニック講座」を開催しています。

令和5年は4回予定しています。

今回の研修の後、那須塩原の本間真二郎先生を講師にお招きしているそうです。

本間先生と言えば、薬や注射をなるべく使わない「自然派の医師」で患者自身の「自然治癒力」を重んじている医師。「医の前に食があり、食の前に農があり、農の前に微生物がある」と農にも励んでいる先生です。普通(普通って何?て話ですが)の行政なら避けて通りたいような人選です。いすみ市の職員からお話を伺った時も、農民連食品分析センターのグリフォサートの残留検査のお話など、普通の行政では「証明できていない」と回避したがる課題について取り上げていました。どうして行政でそのような課題を取り上げられるのか?という問いに「行政が判断をすることはできないけど、今ある情報を出すことはできる」とはっきり断言された姿が忘れられません。

職員のこうした姿勢が宝だなと思います。小山市の担当者のこんなセリフも忘れられません。「講座への動員に個別の働きかけはしません。言われたからやるのではなく、自ら主体的に選んで欲しいからです。」市民を活かすには主体性が大切です。

 

有機農業の推進と学校給食の有機米導入は切り離せない

学校給食で有機米が使われるということは、有機農家に安定した販路と収入が確保できます。そして、有機米を食べる子ども達の健全な育成につながり、さらに、有機の田んぼにはたくさんの生き物が生息して、安心安全なコウノトリ舞う町になるといったように、多くの効果が生まれます。1石3鳥、4鳥の事業なのです。

 

第一、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)を超えている「生物多様性の損失」「窒素・リン・新規化学物質の飽満」などの危機の解決にも有機農業は貢献します。

 

小山市の有機米の主な販路は、学校給食、よつ葉生協、道の駅思川、まちの駅「思季彩館」、そして市のコウノトリからの贈り物事業赤ちゃん誕生祝いに2㎏のラムサールふゆみずたんぼ米のプレゼント)です。

学校給食での有機米利用は2022年 約6.1tで、314万円を市が負担しました。今年は6,962,000円の予算請求をしています。今は国の交付金を使っていますが、交付金がなくなっても市が負担していく予定にしています!

 

学校給食を作る側から

今は学校給食でつかっている有機農産物は現在のところお米だけです。お米は農政課を通して買っているので、学校給食としては回数もすくないし、苦労はないそうです。とは言っても、2012年の年1回から、2017年5回、現在は年8回になりました。いつ使用するかは、各学校が農政課と調整し決めています。有機米使用の周知は給食だよりやHPを活用しています。小規模特認校2校で実験的に年間を通じて有機米を使う予定になっています。

アンケートは取っていませんが、美味しいとの声も多く、保護者や先生から喜ばれています。どこで売っているの?というお買い求めの声もあり、よい反応があります。

給食費はH11年度から変わっていなく、国の補助金を当てながら今のところ値上げを回避してきています。

 

有機野菜の導入はこれからの課題です。現在、どんな野菜を作っているか調査中です。栄養士さんからは虫が心配なので、葉物より根菜からがいいかなと提案されているそうです。

 

農業者の直接入札はしていません。自校式なので、納入業者は学校ごとで様々です。23校のうち半分はJAが入っていますが、他の学校はそれぞれ地域の八百屋さんから仕入れをしています。

 

比較できる地場産率へ 

地場産率の自治体比較が単純にできないのは、カロリーベースだったり、重量ベース、品数ベースなど、ベースが違うことが多々あるからです。

小山市ではR4食品数ベースで40.1%。

国は2022年第4次食育推進基本計画で金額ベースになり、地場産野菜使用率の目標値を30%としています。吉川市は地場産率17%くらいですが、重量ベースです。ジャガイモやニンジンなど、根菜の導入が多いと、地場産率は高くなります。金額ベースだとどうなるのか見ものです。

 

春の風物詩「渡良瀬遊水地ヨシ焼き」

実は私は「焼き畑の日」というものを作ったらいいのではないかと思っていました。煙や臭いの駄目な人にはとんでもない話でしょうが、そういう方は一日避難して、田んぼや畑のために焼き畑ができる年に一度のチャンスをつくったらいいのにと考えていました。しかし一方で、苦情は多くあっても、褒められることのない話で、そんなことはできないことと思っていました。

ところが、小山市のヨシ焼きのイベントを知り、自分がまんざらバカなことを考えていた訳ではなかったことを悟りました。でも、長年のイベントだからできるのであって、現実的には改めて始めることは無理な話でしょう。

「渡良瀬遊水地ヨシ焼き」では、栃木県内外4市2町の1500haの広大なヨシ原が炎に包まれます。これはラムサール条約で指定された湿地環境保全や病害虫駆除、ヨシ原の樹林への遷移の抑制をし、ヨシ原を保全するために必要な行事なのです。ヨシ原に日が差し込むことで、ヨシが繁茂する前に多様な春植物の発芽が促されます。

小山市HPより

 

お昼ご飯は新桝屋(しんますや)のなまず天ぷら蕎麦
小山市でも昔からナマズを食していました。天ぷらやたたきという吉川市と同じなじみのメニューがありました。茶色の丸いのはお饅頭ではなくて「たたき」です。小山のたたきはお豆腐入りで、吉川市のたたきよりフワフワしていました。
  
お店一面にコウノトリの写真が! 
 

 

午後は「渡良瀬遊水地コウノトリ交流館」

   さかなクンのイラスト

葦の活用
ヨシのランタン
   

ヨシの腐葉土

   
渡良瀬遊水地
 コウノトリと思ったけど、アオサギだったの巻
最後に小山駅と新しい小山市役所(2021.3~)
広々とした市民のためのスペースと福祉施設や授産品コーナーが羨ましい。
     

追記:

小山市長にご自身の後援会HPで、当記事が紹介されました!ありがとうございます。

https://www.asano-masatomi-supporters.com/