田んぼダムについて以下の項目でお聞きしました。
田んぼダムとは/お米の収穫に影響はありません/吉川市の水害対策はいかに早く排水するかだけ/グリーンインフラは安価/治水は流域で考える/流域治水から期待されること/行田市での田んぼダムの取組み/宮城県大崎市の取組み/吉川市は田んぼダムをやらないの?/過去からの学びでは足りない防災/市街地の市民と農家を繋ぐきっかけに/立地適正化計画策定で支援も盛りだくさん
田んぼダムとは
田んぼは元々お水を貯めるダムの役割がありますが、「田んぼダム」とは、田んぼの排水口に調整板等を設置し、大雨時の水の流出を抑制することで、これまで以上にダムとしての効果を高めようというものです。多くの田んぼで取り組むことで、水路や河川の水位上昇を緩和し、下流域の洪水被害を軽減する効果があります。これは朝の通勤時間を少しずらすことで、満員電車を緩和させるようなイメージです。ピーク時排水量を2~8割減らすことができるようです(※1)。
お米の収穫に影響はありません
田んぼでの対策はお米の収穫に大きな影響を及ぼすのでは!と思う方もいるかもしれませんが、今年4月に農水省が出した「田んぼダムの手引き」(※2)には、田んぼダムによって水位が上がっても稲が約30㎝に成長した時期なら収穫量に影響を与えないとあります。また、時期によっては取り外しができたり、営農に負担のかからないように取り組める様々な田んぼダムの方式があります。堰板型の多くは水位を決めて、それ以上になる時は通常通り排水するようになっています。
佐賀県HPより
(堰板には中学生からのメッセージが書かれています。イベントでは中学生も一緒に設置しています。)
吉川市の水害対策はいかに早く排水するかだけ
吉川市の答弁では、当流域では急速な都市化が顕著で、河川が氾濫した時は甚大な被害であることから「河川調節地」「下水道事業」「河川調節機」「雨水排水機場」「堤防の整備増強」による内水氾濫、河川氾濫の予防を重点的に実施することになっていると、呪文のように4回も同じ答弁を繰り返しました。
旭地区での下八間堀の改修により治水しているとの答弁もありました。下八間堀の改修は大雨による田んぼや用排水路の湛水防除のためで、24時間以内に田んぼの水位を30㎝以内にすることが目標になっています(田んぼダムはそれを妨げるものではありません)。
これらはどれも「いかに早く流すか」という事業です。
しかし、実は排水先の中川の水が一杯になってしまった時は、排水をストップさせられます。
グリーンインフラは安価
美南駅東口開発での調整池造成はこれまでに約10億円、さらに修景工事がされる予定で膨大な費用が掛かります。しかし、田んぼダムは一カ所1000円もかからないで取り付けることもできます。しかも農水省は10a当り400円の補助を出します。こんなに費用対効果がいい事業はないのではないでしょうか。
治水は流域で考える
これまで治水対策は河川管理者が主体となって行ってきましたが、令和元年「東日本台風」や令和2年「7月豪雨で」甚大な被害を受けた我が国では、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、その河川流域全体のあらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させる治水対策「流域治水」が進められています。
国内の100を超えるプロジェクトの約7割で、田んぼダムなどの農地・農業水利施設の活用が位置付けられています。
流域治水から期待されること
吉川市では江戸川流域、中川・綾瀬川流域の2つの流域治水プロジェクトに関わっていて、以下のようなロードマップで進められることになっています。
流域プロジェクトの資料より(2つともほぼ同じ)
市が呪文のように答えていた内容もここに書かれています。
ちょっと脱線しますが、この一帯は全ての市町でエコロジカル・ネットワークの推進も求められています。関東エコロジカル・ネットワーク推進協議会にも、ちゃんとした正会員として加盟して、コウノトリの住める場づくりをして流域に貢献してもらいたところです。
行田市での田んぼダムの取組み
行田市は田んぼの面積が市の39%。吉川市が30%ですから、田んぼの占める割合は吉川市よりも多いです。行田市では忍川が氾濫し、既に被災地となったこともあり、田んぼダムの取組が今年度からスタートしました。予算は650万円。20ha(200反)分の予算だそうです。
フリードレーン化を一カ所10万円で60~70ヵ所設置予定で、多面的機能交付金を活用している組織16団体に説明をし始めているところです。このフリードレーンは圃場整備していなくても大丈夫です。ちなみに県の事業との抱き合わせで行われるということです。
宮城県大崎市の取組み
宮城県では県全域で田んぼダムが推進されています。
大崎市は吉川市と似ていて、平坦地で水害の多かった街です。条件が違うのは、圃場整備されているところへの設置ということです。圃場整備をしたところにロート型堰板(東北興商㈱4000円)を設置します。市としては資材を用意し、1haに3ヵ所の設置を、営農に支障がない範囲で協力をお願いしています。
吉川市の田んぼダムへの考え方
吉川市は「効果がひくい」「農作物の保証が必要」「市街地の内水対策にならない」という答弁でした。農作物に関しては既に記載済みです。内水対策に関しては、仮に市内においてはそうだとしても、もっと広域な視点でみればどうでしょう。この一帯は水田エリアでした。そこが宅地化され、貯水機能が弱くなったことで下流エリアへの悪影響が想定されます。吉川市内で中川への排水を一時的に緩和することができれば、さらに下流の都市の水害を軽減することができるのではないでしょうか。これこそが流域治水の都市間協力だと思うのです。
過去からの学びでは足りない防災対策
これからの災害は過去からの学びでは全く足りません。国では「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」等では、あらゆる関係者と、あらゆる場所での多層的な防災対策が必要と言っています。
市街地の市民と農家を繋ぐきっかけに
田んぼダム導入の際は、地域住民の方々と防災意識の向上のために協議を重ねます。これは「田んぼ」のことを農業者だけの問題ではなく、市街地の住民にとっても「自分ごと」になることが期待できます。田んぼの価値が単なる食料基地という視点だけでなく、防災や生物多様性、観光などいわゆる多面的な価値を見出し、改めて街の宝としての田んぼの認識が高まる大きなきっかけになります。
良いこと尽くしの田んぼダムと私は考えています。
立地適正化計画策定で支援も盛りだくさん
立地適正化計画は「市町村マスタープラン」とも言われ、居住誘導、コンパクトシティの実現や人口減少社会に対応等、持続可能なまちづくりの再構築を目指す計画です。
国からの様々な支援が期待できるため、多くの自治体が策定に取組み始めています。この支援を使えば、田んぼダムの整備にからめて、農家さんが切望する強度な畦畔整備などにも補助金が充てられるのではないかと考えています。
価値ある未来を残すためにも、この立地適正化計画策定に取組む必要があります。防災指針だけでも作ることをお勧めします。各自治体でつくれるように、令和4年4月には「立地適正化計画作成の手引き」も出されています。
令和4年4月1日時点で
全国 策定済み448 策定予定込 626(3分の1強)
県内 策定済み21 策定予定込 33(半数強)県内一覧はこちら
全国では防災指針だけの作成都市も85自治体。
※1
http://jsidre.or.jp/kyusyu/wp-content/uploads/2021/11/r3-sympo_yoshikawa.pdf
農水省「田んぼダムの手引き」(令和4年4月)
https://www.maff.go.jp/j/nousin/mizu/kurasi_agwater/attach/pdf/ryuuiki_tisui-67.pdf
江戸川・利根川流域プロジェクト
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000836213.pd
新潟県出雲崎町 田んぼダムのチラシ
https://www.town.izumozaki.niigata.jp/_files/00013451/tanbop34.pdf
三画堰式水位調整板/水田用落式ボックス枡
ロート型堰板/軽量落水枡
立地適正化計画
国交省「コンパクトシティー + ネットワーク」
https://www.mlit.go.jp/common/001195049.pdf
国交省「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」令和4年6月
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/img/summary2022.pdf
国交省「立地適正化計画作成の手引き」
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/content/001478980.pdf
埼玉県内「立地適正化計画」策定自治体一覧