$アルバレスのブログ

1991年発表。
文庫1冊、397ページ
読んだ期間:4日


[あらすじ]
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仕事をクビになったジョナサン・ウェルズは生物学者の叔父の遺産の屋敷に家族を伴って引っ越してくる。
叔父のエドモン・ウェルズは人付き合いの悪い変わり者の生物学者だった。
エドモンが遺した遺言は「地下室には立入厳禁!」
しかし、家族の飼っていた犬が地下室に入り込んだためそこに足を踏み入れる事になってから、ジョナサンは地下室に入りびたり出し、ついには帰って来なくなった。
妻のルシーはジョナサンの後を追い地下室に入るが彼女も戻って来ない。
息子のニコラは警察に助けを求め、警官が地下室に降りるが彼らも戻らなかった…

フォンテーヌブローの森、最大の赤アリの都市、ベル・オ・カンに住む雄アリの327号は、春を迎え、仲間たちと遠征に出かけた。
途中、少しだけ仲間たちと別れたあと、戻ってみると仲間たちは全て死んでいた。
これは敵対する他のアリたちの秘密兵器による攻撃と考えた327号はベル・オ・カンに戻りその事をみんなに伝えようとしたが、そこに岩の匂いがするアリたちがやってきて殺されそうになる。
危うく難を逃れた327号は、雌アリの56号と兵隊アリの103683号の2匹のアリの仲間を迎え、共同で秘密兵器の秘密を探ろうとするが、彼らにも岩の匂いのするアリが迫ってくる…

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ウェルベルの「蟻」シリーズ全3部の内の第1部が本書。

中々不思議な小説です。

交互に描かれる蟻パートと人間パートとの間をつなぐようにエドモン・ウェルズの遺した「相対的かつ絶対的知の百科事典」からの引用が挿入されると言う構成。

エドモン・ウェルズは蟻の生態解明に取りつかれた天才生物学者。
彼の著した「相対的かつ絶対的知の百科事典」と言う書物が中々いい味を出して挟み込まれちょっとしたヒントを出してくれます。

で、人間パートはそのエドモン・ウェルズの遺した屋敷の地下に消えて行った人々の謎を追うミステリー仕立て。

蟻パートは蟻の生態を詳細に表したドキュメントと一瞬にして多くの蟻を殺してしまう秘密兵器の謎を探るミステリーと言った風情。

さらには蟻を擬人化しているので全体的にSFテイストも醸し出している。
蟻パートがメインのため、人間パートの比重は比較的低い感じ。

ここで描かれる蟻の生態がどこまで事実でどこから創作かわからないので逆に興味が湧きます。
最近はあまりたくさんの蟻を見かけなくなりましたが、蟻の事をこんなに考えたのは人生初かも。
そういえば子供の頃は蟻を潰したり、蟻の巣を壊した事があった。
きっと子供のほとんどはそういう事をしたんじゃないか?
女王蟻を見た事もあった。
白い大きな芋虫の上の方に蟻の上半身が付いている異様な姿にゾッとした。
最近の子供はそんな経験した事あるのかな?

ま、そんな事は置いといて、ほとんど平行線をたどる蟻パートと人間パートが終盤にかけて収束していく過程で一気にSFテイストが濃くなり、「あぁ、やっぱりこの本はSFなんだな」と気が付かせてくれるあたり、実に巧い。

蟻たちが考え出す新戦法(蟻酸を発射する砲兵隊とか大アゴを持った蟻を数匹の蟻が担いで敵陣に突っ込む蟻戦車とか)が面白く、番号が名前になる(女王アリは名前がある)のもいかにも蟻っぽく(「パタリロ」のタマネギ部隊を思い出しましたが(^^;)、蟻の生態の異常に細かい描写も実に興味深い。

読む前は手塚治虫の「ミクロイドS」的な展開があるのかもと思ってましたが、そんな事はありませんでした。
第2部の「蟻の時代」ではちょっとそれっぽい事になるかも。

まぁ、それもお楽しみってところでしょう。

あと重要なキーワードとして、「6本のマッチ棒で正三角形を4つ描くには?」と言うなぞなぞがありますので、考えてみると面白いでしょう。
わたしは頭が固くなってしまったせいかちっともわかりませんでした(^^;



[あらすじ続きとキャラクター紹介]
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エドモン・ウェルズ:
自宅の屋敷の地下にあった17世紀の教会跡(フォンテーヌブローの森の蟻の都市ベル・オ・カンの真下にある)を研究室にして蟻とのコンタクトを目指した。
蟻の出すフェロモンを解明し、ついに解読器=質量分析器を完成。
蟻とのファースト・コンタクを果たす。
「相対的かつ絶対的知の百科事典」を著し、研究を続きを甥のジョナサンに託す。


ジョナサン・ウェルズ:
錠前屋を解雇されエドモンの屋敷に移り住む。
地下室でエドモンが行っていた蟻ともコミュニケーションの研究に取りつかれ、エドモンが遺した設計図を基に<ドクター・リヴィングストン>という蟻のロボットを製作。
蟻とのコミュニケーションを確立し、蟻からの栄養補給を受けながら地下に降り行方不明になった人々と共に研究を続けていた。


ベロ・キウ・キウニ:
ベル・オ・カンの女王蟻。
人間とのコミュニケーションを確立したが、人間と言う巨大な生き物の存在が蟻社会に及ぼす影響を考え秘密としようとした。
そのため岩の匂いのする蟻と言う暗殺集団を組織し、他の蟻が秘密に気づきそうになると暗殺していた。
人間の子供の悪戯でベル・オ・カンが火災に遭った際、死亡する。


327号:
最初に人間の秘密に気づきそうになったベル・オ・カンの雄蟻。
岩の匂いのする蟻たちに襲われ暗殺される。
327号が最初に遭遇した秘密兵器の謎とは、実は森を歩いていたエドモンの母親オーギュスタが気づかずに踏みつぶした事だった。


56号:
ベル・オ・カンの雌蟻。
327号から秘密兵器の話を聞き、謎の解明に協力するが、岩の匂いのする蟻たちに襲われる。
襲撃から逃れた56号は巣立ちの時を迎えベル・オ・カンを飛び立つ。
途中、鳥に食べられたり、蜘蛛の巣に引っかかったり、川に流されたりするものの何とか大地に降り立ち、そこで自分の都市シリ・プー・カンを築き、女王シリ・プー・ニとなる。
ベル・オ・カンに使者を送るも反応がなく、その後、地の果てを旅してきた103683号の報告を受け、スパイとして801号を送り込み、ついにベル・オ・カンと母である女王ベロ・キウ・キウニが人間との交流を持っている事を知り、ベル・オ・カンへの攻撃を決意。
ベル・オ・カン侵攻軍を送り込むが、その時、人間の子供の悪戯でベル・オ・カンが火災に巻き込まれ壊滅状態になると共にベロ・キウ・キウニの死に遭遇。
自らが新しいベロ・キウ・キウニとなりジョナサンと交流するも、人間との関係を断つ事を決める。


103683号:
ベル・オ・カンの兵隊蟻(メス)。
56号と共に327号の言う秘密兵器の謎を探るため地の果てへ向かう。
途中、姉妹都市グワイエ・ティロの老いた兵隊アリ4000号と出会い共に地の果てに向かう。
そこで黒いツルツルした硬い川のようなところにぶつかる。
蜂に卵を産み付けられ余命幾ばくもない4000号は意を決して渡ろうとするが、轟音と共につぶされる。
黒い川を渡るのをあきらめトンネルを掘って対岸にでると、そこは巨大な石の塔がそびえたつ石の大地だった。
(=人間の住む都市)
自分たちの住む場所ではないと確信した103683号は帰路につき、途中、新都市シリ・プー・カンでかつて仲間だった56号=シリ・プー・ニと出会い、説得されベル・オ・カン侵攻に同意する。

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