
2003年発表。
文庫2冊、755ページ
読んだ期間:6日
[あらすじ]
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相同遺伝子組み換え(HTSR)による遺伝子治療法の確立を目指すダニエルは、大学を辞め起業するも中々順調には行かず資金繰りに苦慮していた。
そんなところへクローニング禁止法案が提出される。
これが通ればHTSRの未来が完全に閉ざされてしまう。
健康小委員会に出席したダニエルはHTSRを必死に擁護しようとするものの、次期大統領選出馬を目指す委員長のバトラー上院議員の巧みな弁舌の前になすすべもなく追い詰められて、委員会は終了。
もはやこれまでかと落胆するダニエルのもとに意外な人物からの連絡が入る。
バトラー上院議員が秘密に会合を持ちたいと。
その内容は驚くべきものだった。
バトラー上院議員はパーキンソン病を患っており、それを治療するのにHTSRを使いたい。
組み換えに使用する遺伝子はトリノの聖骸布についている血痕から取ったものにしたい。と。
ダニエルはHTSRと会社を守るため、危険を承知でこれを了承する。
トリノの聖骸布の入手はバトラー上院議員の口利きでバチカンから入手する事になったが、バチカン側はそれを何に使うのか疑問を抱き、独自に調査を始める。
アメリカ国内では違法となるため、治療場所はバハマのクリニックが指定された。
しかし、そのクリニックとは、かつてアメリカ国内で大きな問題を起こしたウィンゲートとソーンダースが中心となったウィンゲート・クリニックだった。
2人は患者の素性を知らされておらず、もし、大富豪ならさらに資金を引き出せるのではないかと考え、患者の素性を探り始める。
さらに、ダニエルの会社に出資していた、実はマフィアのカスティリャーノ兄弟は、会社が倒産の危機にある事を知り、出資金確保のため暗躍を始める…
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ロビン・クック作品を読むのはこれが初めてで、彼がどんなジャンルかも良く分かってませんでした。
あらすじに「トリノの聖骸布から取ったDNAを使って治療」とあったので、治療した後に予想もしない出来事が!とかあるのかと思ったんですが、それほどでもなかった。
ジェイムズ・ボーセニューの「キリストのクローン」シリーズを思い浮かべてしまったのが失敗でした。
要は医療サスペンスですね。
なので、手術までにものすごい時間がかかります。
実際、手術が行われるのは下巻のラストあたり。
それまでは関係する5つのグループの丁々発止のやり取りが中心。
1つはダニエルとステファニーのHTSR推進班。
自信過剰、自意識過剰、上昇志向と名誉欲過剰のダニエルと彼のやる事に段々と賛同できなくなるステファニーが、周りで4つの勢力が暗躍しているのも知らずにああだこうだしてます。
ステファニーの気持ちもわかりますが、悪い方悪い方に考えどうにも決めきれないステファニーにはイライラもします。
2つ目はバトラー上院議員と参謀のキャロル。
この二人は前半と後半にしか出て来ません。
バトラーもダニエル同様の性格の持ち主ですが、政治家らしく抑えの利いた性格付けがされているのでダニエルよりは大人に見える(ほぼ同い年ですが)。
とは言え出世欲過剰の政治家なのでやっぱりあまり感情移入はできない。
3つ目はバチカン。
トリノの聖骸布はC14年代測定法で13世紀に造られた偽物と言われていますが、バチカン的には聖遺物。
なのでこれ以上科学鑑定などされたくないので当初、ダニエルたちを疑いますが結局追いかけるのは放棄します。
バチカンは上巻で姿を消しますんで、それほど印象は強くないです。
4つ目はウィンゲート・クリニック。
実はクックの前作「ショック-卵子提供」で彼らが何をしていたかが詳しく語られているそうですので、ある意味クック作品の常連キャラになりそう。
正に”医は算術”を地で行く悪徳医師ウィンゲートとソーンダースの2人が謎の患者からさらに金をせしめようと暗躍。
さらにはバハマのクリニックでの悪行三昧。
ちょっと分かり易過ぎるキャラではあります。
最後の5つ目はダニエルの会社に投資していたマフィアのカスティリャーノ兄弟。
ステファニーの兄、トニーを介して投資したものの、会社が危機的状態であるのを知り、ダニエルに脅しをかけ、最後は殺そうとする。
ダニエルたちが会社を救うために秘密プロジェクトにかかわっているのは当然しらないこの二人。
いかにもステレオタイプのマフィアとして描かれています。
ここに登場するキャラクターは正直言って誰もかれもあまり感情移入できるキャラではなく、ぶっちゃけ変なヤツばかり。
しいて挙げれば、バトラー上院議員の手術を担当する雇われ脳外科医ナワズと麻酔科医のニューハウスくらいがまともな方。
ちょっとキャラが弱いですね。
それぞれの勢力が勘違いしながらなぜかプロジェクトが進んでいく展開は、サスペンスと言うよりはコメディのようにも見える。
あと、途中で放り出したようなプロットもあってちょっと消化不良。
それでも、ほぼ10年前に書かれた割には古さを全く感じさせないのはさすがです。
「トリノの聖骸布」にしても真贋論争に色々な意見があると言う事も収穫の一つでした。
本書に名前の挙がる研究者イアン・ウィルソンの書籍が読んでみたくなりました。
(残念ながら入手は難しそうですが)
[あらすじ続き]
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トリノの聖骸布の使い道調査をしていたマロニー神父はダニエルらが科学者である事を知り、聖骸布の真贋調査を行うものと勘違いし、いったんは渡した聖骸布の試料奪還を図るが、聖骸布引き渡しと引き換えに不法事前行為賠償責任制限法の成立を求める上司のオローク枢機卿から一喝され手をひく。
一方カスティリャーノ兄弟は、ダニエルらがバハマにバカンスに行っているものと勘違いし、手下のガエターノを送り込んでダニエルに暴行。
直ぐに帰国し会社の立て直しをしろと脅す。
しかしこのプロジェクトを完遂しなければHTSRと会社存続が出来ないため、ダニエルらはバハマに残る。
ダニエルのパートナーで共同研究者のステファニーは、ウィンゲート・クリニックが行っている非人道的な行為を目撃しこのプロジェクトへの参加に激しい嫌悪感を感じ始める。
クリニックでは新鮮な卵母細胞を得るために、現地の女性に人工授精を行い、わざと中絶させ、胎児の卵母細胞を採取していたのだった。
ダニエルらが依然バハマにとどまっている事を知ったカスティリャーノ兄弟、脅しを無視したと受け取り再びガエターノをバハマに送り込み、ダニエルを殺害させようとする。
ガエターノがダニエルの頭に銃口を向けたその瞬間、ガエターノが射殺される。
ウィンゲートらから患者の素性を探るよう命じられていた警備主任のハーマンが、ダニエルらの行動を観察していたのだった。
治療の準備が整いバトラー上院議員がクリニックにやって来る。
パーキンソン病はさらに進行し、足を引きずるようになっていた。
手術は順調に進んでいたが、手術室にX線撮影装置が無かったため、別室に移動し撮影。
手術室に戻る際、カートを扉にぶつけ脳定位固定装置がわずかにズレてしまう。
しかしそれに気づかないままいよいよ脳内に治療細胞を注入。
90%ほど注入したあたりでバトラー上院議員の様子が一変し、発作を起こす。
手術はそこで中断し、様子を見る事になった。
目覚めたバトラーは劇的に症状が改善されていた。
ホテルに戻ったバトラーだが、再び発作が起こり、粗野で口汚い言葉をののしり暴力的になる。
あわてて押さえようとするダニエルだが、バルコニーに飛び出したバトラーに巻き込まれ、32階から落下。
二人とも即死する。
強力な推進者だったバトラーを失い、クローニング禁止法案はお蔵入りされる可能性が高くなり、皮肉なことにHTSRと会社は存続の危機からまぬかれた。
ステファニーは慣れないながらも会社経営に乗り出す決意をする。
図らずもカスティリャーノ兄弟が思い描いたシナリオ通りになった…
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