
2010年発表。
文庫1冊、455ページ
読んだ期間:4日
[あらすじ](新潮社HPより)
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兄弟姉妹に囲まれ、野良犬としてこの世に生を受けた僕。
驚くことに生まれ変わり、少年イーサンの家に引き取られ、ベイリーと名づけられる。
イーサンと喜びも悲しみも分かち合って成長した僕は、歳を取り幸福な生涯を閉じる。
ところが、目覚めると、今度はメスのエリーになっていた!
警察犬として厳しい訓練を受け、遭難した少年の救助に命がけで向かうが……。
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野良犬として生まれたワンコが3回の生まれ変わりを経て、その意味と目的を悟るまでを、ワンコ目線の1人称でつづられたファンタジー小説がこれ。
帯の~「フランダースの犬」「ハチ公物語」に並ぶ~と言うあおりとはちょっと毛色が違うので、あまり意識しない方が良いです。
何と言っても表紙のゴールデン・レトリーバーの子犬のちょっとさびしげな顔つきを見たら、愛犬家なら即、買いでしょう。
このへの字口がたまらんな~
ちなみにこのコの生涯の変遷をまとめると以下の通り。
①トビー編
・野良犬。オス。犬種不明。
・年代:1950~60年代?
・享年:6か月くらい?
・愛犬家に引き取られるが、違法に多くの犬を飼っていたため保健所の介入にあい、トビーは薬殺処分される。
②ベイリー編
・飼い犬。オス。ゴールデン・レトリーバー。
・年代:1960年代後半~70年代後半?
・享年:10歳くらい?
・4つの生涯で最も愛すべき少年イーサンの飼い犬として生涯を終える。
③エリー編
・警察犬。メス。ジャーマン・シェパード。
・年代:1990年代後半~2000年代?
・享年:10歳くらい?
・警察犬として訓練を受け、初めはジェイコブ、次はマヤと共に犯人や被害者の捜索、救助活動をし、何人かの人々を救い生涯を終える。
④バディ編
・飼い犬。オス。ラブラドール・レトリーバー。
・年代:2000年代~現代
・犬嫌いの人の下で暮らす事になりあまり世話もされない生活を送るが…
最初、この本を買う時には、号泣箇所がたくさんあるんだろうと思って覚悟していましたが、ワンコ目線の文章が意外と淡々としており、それぞれの死の瞬間もちょっと深い眠りにつく程度で表現されていたので、そんなに号泣するような事はありませんでした。
とは言え、自分の愛犬の時とオーバーラップする事が時々あったため、その時はかなり来ました。
なので、涙もろい愛犬家の方は外での読書は気を付けた方が良いでしょう。
ワンコと人間の中間と言う印象もしますが、自分の経験からすると、ワンコはきっと本書に描かれているように、感じていたんではないかなと思います。
人の感情を目で見えるように感じ、その思いにこたえてくれる、人類のかけがえのない友人。
まさにそんな存在だと思えます。
ちょっと脱線ですが、アメリカでは余命いくばくもなく手の施しようもなくなったワンコはたいてい安楽死させるんでしょうか?
あと、必ず去勢する?
ウチのコの場合、去勢も安楽死もしませんでした。
確かに、発情期には何を見ても腰振ってイライラしてるような事はありましたが、そんなに凶暴になる事もなかった。
最後は腎不全で何も食べられず一日何度も吐き自分で立つことも出来なくなり12日間苦しんで亡くなったので、もっと早い段階で安楽死させた方が良かったのかも知れません。
実際、途中でそういう話をかかりつけの獣医さんに言った事もありましたが、彼は「頑張りましょう」と励ましてくれました。
結局、ウチでは自然に任せたわけですが、それがあのコにとって良かったのかどうかは分かりません。
これは飼い主さんそれぞれ、いろいろ考えがあるでしょうから答えは一つにはならないでしょうが…
ただ、本書のように、死がいつもより深い眠りにつく過程程度であってくれれば良いと思います。
さて、本書の原題は"A Dog's Purpose"。
ワンコの生きる目的が本当に本書に描かれている通りであればいいですね。
そして続編の"A Dog's Journey"はすでに刊行済み。
どうやら完全な続編のようなので、早く邦訳してくれる事を望みます。
[あらすじ詳細]
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<第1~4章>
主人公:トビー(オス)
野良犬(犬種不明)。
享年:6か月くらい?
死因:薬殺
年代:1950~60年代?
お母さんときょうだい犬3匹(シスター、ファスト(いつも一番でいたい)、ハングリー(いつも腹ペコ))の5匹家族。
野良犬としてそれなりに幸せな生活を送っていたが、ある時ハングリーが舌を出したまま横になって動かなくなった。
元々体の弱かったハングリーは亡くなってしまった。
その直後、トラックに乗った男女に家族は捕まった。
シスターは何とか逃げ去った。
連れられて行った家には多くの犬たちがいた。
家の主人の女性セニョーラは愛犬家で野良犬を保護しては家に連れ帰っていたのだった。
大勢の犬たちのなかでトビーはメス犬のココなどと楽しく暮らし始めた。
トビーをここに連れてきてくれたセニョーラの事もトビーは大好きになり、彼女に撫でられるとうれしくなった。
しかしお母さんはそこになじめず出て行ってしまい、それきり会う事はなかった。
代わりに新しいメス犬がやって来た。
シスターだった。
再びきょうだいとの生活が始まった。
その後、別の犬がやって来た。
スパイクと言うオス犬だった。
スパイクは一種異様な犬で、大きな体と常に周りに威嚇を絶やさない凶暴な犬だった。
スパイクは犬たちのボスとなったが、飼育所の雰囲気は殺伐としたものとなってしまった。
ある時、トビーがきょうだいと遊んでいるとスパイクがちょっかい出してきた。
ファストが切れてスパイクに飛びかかり、トビーも一緒になって戦ったが、撃退され、トビーは足を噛まれけがを負ってしまう。
そして、また別の男たちがやって来た。
彼らは保育所のものだった。
セニョーラたちは違法に多くの犬を飼っていた事で摘発を受けたのだった。
スパイクたちと一緒にある部屋に入れられたトビーは、何かのガスが噴き出すのに気づく。
スパイクやほかの犬たちが急にバタッと倒れて動かなくなった。
トビーもだんだん意識が遠くなっていく。
トビーは短い一生の中で一番の目的はセニョーラを笑わせることだったと気づいて意識を失った…
<第5~章17章>
主人公:ベイリー(オス)
飼い犬。ゴールデン・レトリーバー
享年:10歳くらい
死因:老衰→安楽死
年代:1960年代後半~70年代後半?
ブリーダーらしきところで目覚めると子犬に戻っていた。
しばらくしてから、なかなか言う事を効かない体に四苦八苦しながらも施設を脱走。
前世で野良犬生活をしていたため、外についての怖さはなかった。
外で一人の男に見つかり、トラックに載せられてどこかに連れて行かれるも、炎天下の中、車内に放置され脱水状態に陥り死にかけたが、一人の女性に助けられ彼女の家に連れて行かれる。
そこで彼女の息子、8歳の少年イーサンの飼い犬となり、ベイリーと名付けられ一緒に暮らし始める。
イーサンたちの愛情に包まれすくすく育つベイリー。
人間と一緒に住むための色々な決まり事や人間の期待に応える楽しさを覚えて行くベイリー。
ある時、近くにトッドと言う少年が越してきた。
同い年のイーサンは最初トッドと遊んでいたが、トッドは危険な事を好む変わった少年だったのでそのうち遊ばなくなった。
ベイリーはトッドに変な匂いのするものをつけられそうになり逃げだしてから、トッドを警戒するようになる。
年を経て、イーサンには恋人ハンナが出来る。
また、イーサンはフットボール選手として頭角を現し、特待生として大学に進めそうだった。
そういう事が気に入らなかったトッドは、ハンナにイーサンが別の女性と親しいと嘘を言った。
それに気づいたイーサンはトッドと揉める。
トッドは腹いせにイーサンの家に放火する。
夜の散歩に出ていたベイリーはトッドを見つけ、彼に噛みつき負傷を負わせる。
これがもとでトッドは逮捕される。
一方、イーサンは燃え盛る家の2階の自室から飛び降りて脱出するが、その際に足を怪我しフットボール選手としてのキャリアが潰えてしまう。
イーサンはふさぎがちになり、ハンナとも別れ、さらには両親の離婚もあった。
ベイリーは母親の実家に引き取られ、大好きなイーサンと一緒の生活は出来なくなった。
年をとったベイリーは寿命が尽きかけていた。
家族はベイリーを安楽死させる事にした。
イーサンの母親、母親の再婚相手、おじいちゃん、おばあちゃん、そして大好きなベイリーもやってきて最後の別れをした。
そしてベイリーは眠りについた…
<第18~章25章>
主人公:エリー(メス)
警察犬。ジャーマン・シェパード
享年:10歳くらい
死因:老衰→安楽死
年代:1990年代後半~2000年代?
次に目覚めた時、メスのジャーマン・シェパードになっていた!
彼女を育てる事になったのは警官のジェイコブだった。
彼女はエリーと名付けられ、警察犬としての新たな生涯を生きる事になった。
ジェイコブはイーサンの様に愛情あふれる飼い主ではなく、ドライな仕事人だったが、ジェイコブの期待に応える事に楽しさと使命感を感じるようになってたエリーは、ジェイコブとの信頼関係を築いて行った。
なにより過去の2つの生涯の経験は警察犬として生きる事に大きなアドバンテージを持っていたため、優秀な警察犬としてエリーは高い評価を得て行った。
ある時、一人の少女が誘拐され、それを追跡する任務についたジェイコブとエリーは、少女を発見。
さらには誘拐犯を追い詰めた。
しかし、誘拐犯はジェイコブに発砲。
エリーは誘拐犯に噛みついた。トッドの時のように。
ジェイコブは一命を取り留めたが現役を退き、代わりの担当官にはマヤが着いた。
マヤはジェイコブに比べ能力が劣るため、エリーは彼女に合わせた。
マヤは自信を失い、一度はエリーの担当を離れようとしたが、ジェイコブに説得され続ける事を決意。
エリーとの関係も徐々に向上していく。
そんな時、エルサルバドルで大地震が発生。
マヤとエリーは人名救助に向かう。
エリーは必至に人を探すも見つかる人は全て死んでいるため、徐々に気分が落ち込みやる気を失っていく。
しかし、ついに生きた人間を発見。
危険な薬物に鼻を焼かれながらも生存者を助けたエリー。
ただそれにより嗅覚が著しく低下し、現役を引退することになった。
マヤの飼い犬として生活するようになったエリーは、マヤと共に色々な学校で警察犬活動の広報をはじめた。
マヤとエリーがいつもの広報活動をしていた時、外でかくれんぼをしていた少年が行方不明になる事件が起きた。
嗅覚の落ちたエリーには難しいと思いながらもマヤはエリーに少年を探すよう指示。
おりしも急な豪雨により匂いが消えて行く中、エリーはわずかな匂いを探知する事に成功。
雨水管に隠れていた少年を発見する。
しかし豪雨により少年が流されてしまう。
エリーは躊躇う事無く水の中に飛び込んだ。
かつてベイリーだった頃に良くやっていた、イーサンを水底から助ける遊びの経験を生かしてついに少年を救い出した。
そして月日は過ぎて行き、再びその時はやって来た。
年を取ったエリーは自力で立ってオシッコに行く事も出来なくなっていた。
マヤたちはエリーを安楽死させる事にした。
人を助ける事。
それを成し遂げて来たエリーは満足して、眠りについた…
<第26~章32章>
主人公:ベア→バディ(オス)
飼い犬。ラブラドール・レトリーバー
生存
年代:2000年代~現代
三度目の転生になるともう嫌気がさしてきた。
ペットショップの店頭に並べられても、ほかのきょうだいたちのように愛想を振りまく気にもならず一匹で静かにしている事が多いため売れ残り、最後は一人の男に安く売られていった。
男は恋人のウェンディに彼をプレゼントしたが、ウェンディの家ではペットが飼えない。
そのため、ウェンディは彼=ベアを母親の家に連れて行った。
母親の家で暮らすようになったベアだが、母親の恋人のヴィクターはベアの事が気に入らない。
それを感じていたベアはヴィクターからなるべく離れていた。
あまり世話をされず一人でいる事の多いベアを隣人が心配し、ペット虐待で警察に連絡。
これに怒ったヴィクターはベアを車で遠くに運び捨ててしまう。
困惑したベアはビクターの車を追いかけるがついには見失う。
しかしふと気づくと、今いる場所はかつて来たことのある場所だった。
それはベイリーだった時の夏休みに、イーサンのおじいさんの農場に泊まりに来ていた時、時々訪れた場所だった。
ベアは必至でイーサンの匂いを探してさまよった。
そしてある公園でなじみのある匂いをさせている犬に出会う。
その匂いとはイーサンの恋人だったハンナの匂いだった。
ハンナの匂いをさせたその犬を連れていた女性からもやはりハンナの匂いがする。
ベアはしばらくの間、その公園に住むことにした。
しかし、野良犬が住み着いているとの報告を受けた警官がやって来たので、ベアはあわてて逃げ出し、たどり着いた先は、何とおじいさんの農場だった。
勇んでかけて行くベア。
玄関の扉を前足で掻き、吠えると奥から老人が出てきた。
その人こそ、年老いたイーサンその人だった。
うれしさを爆発させるベア。
しかし、イーサンはいきなり現れた犬に困惑し、保健所に連れて行く。
落胆するベアだったが、イーサンは途中で気が変わり、ベアを引き取る事にする。
新しくバディと名付けられ、4つの生涯で最も愛する少年との生活を再開する事になり満足の日々を過ごすバディだが、イーサンの心にポッカリ空いた穴に気づく。
イーサンはハンナと別れてから結局、誰とも結婚することなく、孤独な人生を歩んでいた。
かつてエリーだった頃の最初の飼い主、ジェイコブのような孤独感。
しかし、ジェンコブは最後には愛する妻と子供をもうけ幸せな人生を歩んでいた。
イーサンもそうするべきだと考えたバディは行動を起こす。
以前、ハンナの匂いのする女性に会いに公園に向かった。
公園でその女性に会ったバディは女性の家までついて行き、待った。
そしてハンナは現れた。
その女性はハンアの娘だった。
ハンナはバディの首輪につけられたタグを見て、彼がイーサンの飼い犬である事を知る。
バディを迎えにきたイーサンは久しぶりにハンナに会い、家に招待した。
イーサンとハンナは共に暮らすようになった。
ハンナには他にも子供がおり、孫も生まれ、家は賑やかになった。
イーサンはもう孤独ではなくなった。
数年後のある日、イーサンとバディは家で留守番をしていた。
その時、バディはイーサンの変化を感じ取った。
イーサンは頭に障害を受け意識がもうろうとなった。
そしてイーサンはそこにかつて別れた愛犬ベイリーを見た。
ベイリーはイーサンが死にゆく事を悟り、イーサンにさびしい思いをさせないため寄り添う。
自分の今までの生涯の理由がここにあった。
野良犬として生まれ、トビー、ベイリー、エリー、ベア、バディと名前は変わっても、その目的は最も愛する人を幸せなまま人生の集大成を迎えさせる事、そして、犬とは人間の友人として、人の孤独と悲しみを和らげるために存在する事を悟った。
ベイリーはそれを見事に果たしたのだった…
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