ロバート・L・フォワード「火星の虹」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

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1991年発表。
文庫1冊、489ページ
読んだ期間:5日


[あらすじ]
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新生ソ連により支配された火星を解放するために、アメリカを中心とした国連火星遠征軍が出撃。
遠征軍を率いるアレクサンダー・アームストロング将軍による奇襲が見事に成功し、火星から新生ソ連は駆逐された。
アレクサンダーは英雄として地球に凱旋するが、捕虜とした新生ソ連の人民委員を非協力の罪で殺害した事を理由に降格処分を受ける。
怒り狂ったアレクサンダーは政府と軍部を公に痛烈に非難し軍を辞めるが、その直後、新興宗教=合一教会の主催者で実業家のクラップより協力の申し出を受ける。
一方、研究のため火星に残った科学者たちのリーダーである、アレクサンダーの双子の兄、オーガスタスは、新生ソ連に協力し研究していた科学者が、何かを隠していた事を知る…

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本書は、「竜の卵」や「ロシュワールド」と言った今までのフォワード作品と趣を変え、ドラマ重視の作品。
フォワード版「カインとアベル」を目指した作品と言えます。

人格者で科学者の兄=オーガスタスと、自己顕示欲と出世欲の塊の軍人の弟=アレクサンダー。
この双子の兄弟が火星と地球に別れ、それぞれの人生の目的を達するためにまい進して行きます。
(時代は2038年、二人は40歳前後の設定)

ただ、ハードSF界では傑作をものしたフォワード博士もさすがに人間ドラマは難しかったようで、疑問符が浮かぶところが多い。

アレクサンダーが軍を辞めた後、合一教会の教祖としてあっと言う間に地球の主となってしまう過程があまりにも単純過ぎ。
本当にあっと言う間に全地球人が彼を神として崇めてしまう。

オーガスタス(通称ガス)と恋人ターニャとの恋愛模様も子供向けな感じ。

冒頭の火星侵攻の描写ではハードSF作家らしい解説が出てきますが、艦隊のハード説明がだらだらしてるのでここで挫折しかけた(^^;

ソ連にネオコミュニズムがはびこり火星を収めてしまう過程はすっ飛ばされているので、なぜ、国連が新生ソ連排除のために艦隊を繰り出したのかの理由も書かれておらず、映画館に途中で入ってしまったかのような腑に落ちなさを感じます。

本書にはフォワードお得意の異星人(?)が登場。
それはラインアップと名付けられた非常に特異な体の知的生命体(?)です。
引用すると「蛾の鼻を持ち枝分かれしたバクの顔、ブタの胴体、クマの鉤爪、コアラの足指、コウモリの翼、腰蓑、シマウマの縞。6体節で、24本の肢を持ち、10メートルの長さ。」
毎回、彼の想像する異星人(?)はブッとんだ姿形をしていますが、これもまたブッとんでます。
もう怪獣級。
これがロボットのような無感情な話し方(光を使った会話)をします。
そして面白いのが、彼らは地球人とのコンタクトに全く興味を示しません。
何とかコミュニケーションを図ろうとする地球人に対して興味無いと言わんばかりに、扉を閉ざしてしまう。
実は、後半にこのわけが知らされるんですが、まぁ、想像通りかな。

ハードSF要素としては、アレクサンダーが地球掌握のために作らせた3つの兵器、「翼の生えた主の目」「主の核の刃」「主の銀の大鎌」があります。
特に「主の核の刃」は面白い。
簡単に書くと、中性子を核兵器にぶつけ核分裂反応を促進させる事で、核兵器を起爆させると言うもので、核兵器にしか作用しないので、核兵器を持っている敵国を何の被害も受けずに大ダメージを与えると代物。
昔、あろひろしの「MORUMO 1/10」と言う漫画で、相手の自爆装置を遠隔起動させる”他爆装置”と言うものが出てきたのを思い出しました。
他にも「神の矛」と言う、アレクサンダーの寿命と連動した地球破壊兵器も出てきます。

さらには、ソーラーセイルまで出てきますが、その解説は「ロシュワールド」と言う小説に書いてあると言うセリフが出てきた時は笑った(^^)

孤立した火星が地球に対抗するのに、ハインラインの「動乱2100」と「月は無慈悲な夜の女王」を参考に、と言うセリフもあります。
「動乱2100」は読んでないのでわかりませんが、「月は無慈悲な夜の女王」に比べると火星独立はかなりあっさりしてます。
「月は~」の方は、組織作りから広報、戦術、戦略にいたるまでかなり詳細に書かれており、クーデターのバイブル的印象すらありますが、本書はそこまで踏み込んではいません。
扱う内容が様々なのでちょっと触れた程度。

最終的にはハインラインの「ダブルスター」的な終わり方をするのも、ある意味想定通り。
ただ、フォワード作品に良くある巻末の解説だと思える「新版火星開拓者ガイド」が本編と直結して登場するあたり、フォワードの茶目っ気が感じられ面白いです。

色々と問題がある作品ですが、フォワードの楽観主義が現れた意欲作と思って暖かい心で読む作品です。