$アルバレスのブログ

1984年発表。
文庫1冊、448ページ
読んだ期間:5日


[あらすじ]
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地球から5.9光年離れた赤色矮星バーナード星をめぐる惑星に、ロシュワールドと命名された特異な二重惑星があった。
卵のような形状をした頂点を隣接させた状態でバーナード星を公転する天文学的に奇跡的なバランスを維持し続けるこの星へ探査旅行がついに始まった。
16人の搭乗員を載せたプロメテウス号は、水星に設置されたレーザー発振器群のビームをライトセールに受け40年に及ぶ片道飛行の行程に乗り出した。
バーナード星系に到着したプロメテウス号は調査を開始。
ロシュワールドの2つの星の内、水に満たされたオー・ローブに向かったマジック・ドラゴンフライ号は、竜巻に見舞われ水面に墜落してしまう。
マジック・ドラゴンフライ号を制御するAI=ジルは船に近づく赤と白の不定形な巨大物質に気づく。
それはお互いが特殊な音波を発し、まるでしゃべっているかのようだった。
そしてその内の赤い方から音波が向けられた。

☆やあ!!!!!! サーフィンがしたいのか?!?!?!☆


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スーパーハードSF小説「竜の卵」のロバート・L・フォワードの2作目が本作。
奇しくも「竜の卵」と同様に特異な環境の特異な異星人とのファーストコンタクト物です。

テーマが同じ作品を連続でぶつけてくるのはある意味勇気がある感じ。

どうしても比較してみたくなります。

「竜の卵」の方は超高重力の中性子星に住むアメーバサイズの超知性体チーラ人とのファーストコンタクト。
チーラ人の進化サイクルは地球人の100万倍なので、最初地球人を神のように崇めていた彼らはあっと言う間に人間を追い越し立場が逆転してしまう。
圧倒的に早いチーラ人と静止画にしか見えない人類とのコミュニケーションのむずかしさ、重力環境が全く合わない2つの知性体は同じ環境下でやり取りできないなど、多くのハードルを越えながらのコンタクトがウリの作品でした。

一方本作「ロシュワールド」は地球よりはるかに低重力下の世界。
そこに住むフラウフェンと名付けられた異星人は長さ30メートル厚さ数メートルにもなる不定形生命体。
ほぼ「竜の卵」と逆の設定で挑んできました。

チーラ人とフラウフェンは性格的にもちょっと異なります。
チーラ人はいかにも人間的で、喜怒哀楽あり、権謀術数あり、戦いあり、死ありと全く人間と同じ。
一方フラウフェンは人間的ではあるものの非常におおらかで無邪気で気まぐれ。
ロシュワールドでは進化の頂点に君臨しており基本的に死ぬこともなく、個体数もそれほど多くない(らしい)ので争いが無く、疲れたら休み、沈思黙考する時は岩の様に凝固し何百年でもそのまま考え続ける。
サーフィンが大好きで波が起こると何を置いてもまずサーフィンに出かける。
バラバラになっても固まればまた元に戻る。
(バラバラになった小さな塊が悲鳴を上げるシーンでは岩明均の「寄生獣」を思い出しました)

生態としても人間のような目を持たず、コミュニケーション方法も異なります。
チーラ人は味や振動を使ったコミュニケーション、フラウフェンはイルカやクジラのような音波を使ったコミュニケーション。
チーラ人は科学文明を発展させ外宇宙にまで進出しますが、フラウフェンはあくまで哲学的・数学的な進化のみ。
特に数論については人類をははるかに凌駕しており、フェルマーの最終定期を「退屈だ」と言い切ってしまうほど。
最初、フラウフェンはドラゴンフライ号(AIのジル)の方が知的生命体で中にいる小さな人類はペットだと思っていたと言うのもありがちながら面白い(人間をスティック◎ムーヴァー(◎は本当は×印の入った○)と呼んでいる)。

こういった色々な差をつける事で、同じテーマでありながら両者並び立つ傑作SF小説と言われるゆえんでしょうね。

物語的な印象で言うと、「竜の卵」の方がちょっと上かと思います。

本書の場合、前半半分のロシュワールドへの片道旅行と調査の場面は非常に淡々としており正直言ってちょっと退屈。
ただ、40年の行程を乗り切るために使われる老化低減薬”ノー・ダイ”の副作用=精神後退のために20才台~50才台の乗組員たちが子供のようにじゃれあったり子供向け映画を観て寝てしまったりと言うシーンは笑えます。
また、彼らを補佐するクリスマスブッシュと呼ばれる簡易AI搭載の棒状マシンも面白かった。
最小単位は繊毛クラスでそれが状況により集合・分離し人間を補佐したり、話し相手になったりする。
家にもああいうのがあれば退屈しないと思う。
とりあえず「掃除しといて」と毎回言ってそうだけど(^^;
あと、船に搭載されているAIはあまりにも人間に近いので、人間が喋ってるのかAIが喋ってるのかわからなくなります。
ただ、いかに低重力だからと言ってボケーっとしてると最後は墜落死すると言うのは全然気づきませんでした(^^;
教えてくれたありがとう(まぁ、必要ないけど)。

チーラ人の時もそうでしたが、今回のフラウフェンのネーミングは個性的です。
クリアー◇ホワイト◇ホイッスルとかローリング☆ホット☆ヴァーミリオンとか色と音と形態を記号でつなぎ合わせたネーミングです。
彼らが喋る時は「」ではなく言葉を記号で囲ってあります。
◇こんにちは◇のように。
記号の形により個人が特定されるので誰が喋っているのかすぐにわかります。
こういった思いつきが出来るのがフォワードの個性ですね。

あと、本書は全18章ですが、それぞれに”ing”を付けた動名詞の章名が付されています。
そのうちの後ろ2章は”公聴会(ヒアリング)”、”登場人物(キャスティング)”になっていて、”公聴会”では地球で開催されたバーナード星系調査報告の公聴会の様子を記した章で、前16章分の内容の要約がここでなされる親切設計。
最初の方を忘れた人でもこの章でおさらいが出来ます。
最後の”登場人物”はまさにそのまま。
地球側とフラウフェンの説明がされています。

普段、巻末の解説を読んで予備知識を仕入れてから本編を読みだすタイプのわたしは、危うく”公聴会”から読みそうになりました(^^;
ちなみにアメリカはカナダと一緒になり大アメリカ合衆国になってます。

人類とフラウフェンのファーストコンタクトがあっさり出来過ぎるとか、異星人と遭遇した人類がそれほど驚かず意外と淡々とし過ぎてるとか、フラウフェンとの別れが唐突過ぎて余韻もないとか、そもそも物語らしい物語が無いとかありますが、そういった事を置いといて、これはこれで面白い小説です。
調査隊は今でもロシュワールドで調査中で、しかも地球では第二次調査隊を検討中。
フラウフェンはいもそこにいますし、コミュニケーションの仕方もわかっている。
さらにフラウフェンの超高度な数論は人類に大きな恩恵をもたらすだろう事もわかっている。
なので、「竜の卵」のように続編が書かれていますが邦訳されてません。
実に残念。
もっと無邪気なフラウフェンと人類のコミュニケーションが読みかったのに…