$アルバレスのブログ

2007年発表。
文庫2冊、1139ページ
読んだ期間:7日


[あらすじ]※ これ以降、かなり内容に踏み込んで書いていますのでご勘弁ください。
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宿敵であり実の父親でもあるアレクサンドル・ザラチェンコの居場所を突き止めたリスベットは単身、ザラチェンコの元に赴く。
しかしその行動はザラチェンコに筒抜けになっており、居合わせた金髪の巨人ニーダーマンにより捕らえられてしまう。
ザラチェンコの凶弾を頭に受け、倒れるリスベット。
ザラチェンコとニーダーマンはリスベットが死んだものと思い、彼女を埋めるが、リスベットは九死に一生を得て土から這い出し、ザラチェンコに重傷を負わす。
地から這い出して来た悪鬼のような姿のリスベットに恐れをなしたニーダーマンは逃げ出すが、リスベットの後を追うようにザラチェンコの元にやって来たミカエルにより捕らえられる。
ミカエルは瀕死の重傷を負い横たわるリスベットを発見。
リスベットは病院に担ぎ込まれ治療を受け一命を取り留める。
同じ病院の一室にはザラチェンコも収容されていた。
事件解決に向け、大きな一歩を踏み出したかに思えたが、地元警察の不手際によりニーダーマンは逃亡を果たしてしまう。

そしてこれを期にある組織が行動を起こし始める。
かつてソ連軍情報部GRUの高級将校だったザラチェンコがスウェーデンに亡命して来た時に彼を管理していたのは、公安警察特別分析班と呼ばれる、あらゆる機関から独立した超法規的秘密集団だった。
ザラチェンコはその素行の悪さから数々の問題を起こしていたが、それを非合法的に解決して来たのが”班”と呼ばれる彼らだった。
ザラチェンコはある女性との間に双子の姉妹をもうけていたが、その一人がリスベットだった。
ザラチェンコはリスベットの母親に執拗な暴力をくわえていたが、ある時致命的な障害を与えるほどの暴行を行った。
母親を守るため、リスベットは12歳の時に牛乳パックにガソリンを詰めザラチェンコに投げつけ火をつけた。
ザラチェンコは片足を失う重症を負うものの一命は取り留めたがこれを期に表舞台から姿を消す事になった。
母親を守ったはずのリスベットは、”班”から危険視され精神異常者のレッテルを張られ精神病院に送られ、”班”の協力者の精神科医テレボリアンから380日もの日数をベッドに縛り付けられる治療を強制された。
これらの人権を無視した非合法活動が表に出てしまうと”班”の存続が危うくなる。
これを危惧したかつての班長、エーヴェルト・グルベリは現場に復帰。
作戦の指揮を執ると共にザラチェンコを殺害し自身も自殺を図る。
”班”はリスベットを再び精神病院に閉じ込めるため暗躍を始める。

リスベットの無実を信じるミカエルら「ミレニアム」のメンバーやアルマンスキー、前後見人のパルムグレンらはリスベット解放に向けて共同で”班”と対決する事を決意。
ブブランスキー警部補や、公安警察憲法保護課のエドクリント警視らとも協力し、真相解明とリスベット救済に向け突き進む。

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この第3部は第2部の完全な続編で、極端に言えば第2部ラストから1秒後からの話と言っても過言ではありません。
文庫だと第2部上下巻、第3部上下巻ですが、連続した全4巻とも言えます。
(リアルタイムで本書を読んでいた人は第3部が出てくるまでの待ち時間がものすごくイライラしただろうなぁ)
と言うわけで、この第3部は冒頭1ページ目からアクセル全開で最終ページまで一気に突き進んで行きます。

第2部では縦横無尽に活動していたリスベットですが第3部では病床の身のため、活動はミカエルら”狂卓の騎士”たちに任されます。
警察の1歩も2歩も先を行く天才的ひらめきと洞察力・行動力を持ったミカエルたちに加え、リスベットのハッカー仲間たちの驚異的な情報収集能力、リスベットを治療したヨナソン医師、ミカエルの妹でリスベットの弁護を引き受ける事となった女性の権利保護を専門とする弁護士アニカなど多くの協力者を得、過去の因縁に完全決着をつけるリスベット。

下巻後半の裁判で、リスベットを精神病院に閉じ込めた張本人、精神科医のテレボリアンがアニカによって完膚なきまでに叩きのめされるシーンのスピード感と爽快感は筆舌に尽くせないほどの興奮を味わえます。
圧倒的不利な状況からの劇的な大逆転は裁判物には必須ですが、ここは本当に気持ちいい。
読み手としてはリスベット側が100%勝つと分かっているし、裁判の中で突然新しい事実が出てくるわけではない事もわかっていても「それいけ!やっつけろ!」と応援したくなってくる。
スティーヴン・ハンターの「極大射程」でも、最後に裁判シーンが出てきますが、それに匹敵するくらいの面白さです。
(ちなみに「極大射程」では読者をあっと言わせる最後の秘密が裁判で明らかになると言う衝撃があり、ここだけ何度も読み返していたものです)

この第3部は1139ページありますが、わたしの通常の読書スピードなら、読み終わるのに10日弱くらいかかるページ数なのが7日で読み切りました。
特に下巻はたった3日で読み終わりました。
これぐらいハマった読書はダン・シモンズの「ハイペリオン」シリーズ以来かも。

このシリーズを読んで感じたのは、ここには今は希薄なっている”勧善懲悪”の世界が存在すると言う事。
絶対的に正義を信じ、ひるむことなく邁進するミカエルらに対し、まぎれもない悪が対峙する。
追い込まれる正義が最終的には悪を完膚なきまでに駆逐する。
最近の小説やドラマ、映画はリアリティを追及するあまり、こういったものが少なくなっている気がします。
読後、鑑賞後に何かスッキリしないもやもやが残る事が多い。
事件が解決せずに終わる刑事ドラマもあります。
リアリティ追及は必要だとは思いますが、現実があまりにも不条理である昨今、せめて架空の世界くらい白黒はっきりして欲しい。
そんな心の欲求不満を「ミレニアム」シリーズは見事にはたしてくれています。
その上、魅力的な登場人物、複雑ながらもわかりやすい展開、リーダビリティーの高さなどあらゆる面がハイレベルにまとまった奇跡的な作品に仕上がり、読者をひきつけた。
全世界で6000万部を売り上げた実力がここにあります。

細かい事を言えば、殺されたダグとミカが心血注いでいた人身売買・強制売春が希薄になってしまったとか、ハッカー集団が万能過ぎとか、警察後手踏み過ぎとか、”班”のんびりし過ぎとかありますが(結構あるな(^^;)、それを補って余りある読み応えです。

あと、いくつか未解決な部分があります。
第2部冒頭でリスベットが海外旅行している時に、夫から殺されそうになっていたのを助けた女性の件。
かなり詳細に説明されていたのでどこかで活躍の場を考えていたのかもしれません。
また、リスベットの双子の妹も、名前とちょっとした過去以外は出てきてません。
第3部で、一時期スウェーデンの大新聞の編集長に就任していたエリカに執拗に嫌がらせしていたあの男があのまま終わりそうもない気がします。
他にもいくつか伏線的な箇所もあり、今後そのあたりが解明されて行く…と言うのはもはや不可能なのが残念。
著者の急逝は本当に残念です。
ラーソンのパソコンには第4部の原稿が入っていたそうで、完成度がどこまでなのか不明ですが、第4部だけで話が終わっているなら発売してもらいたいですね。
ただ、ラーソンの遺族とラーソンの長年のパートナー(結婚はしてない)女性との間で遺産相続などでもめてるらしいのでどうなるのか不明。
何とか丸く収まって欲しいものです。

しかし、この後の読書にものすごく影響しそう。
きっと何読んでもつまらなく思うんだろうな~