
(アントニオ・ヴィト指揮、ワルシャワ少年合唱団、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団&合唱団他)
CDレビューと言うと、普段は洋楽しかしませんが、今回は珍しくクラシックのCDについて。
ものすごく印象的と言うか衝撃的だったので記録に残しておきたいと思います。
作曲家のペンデレツキはポーランド出身で現存している作曲家。
まぁ、教科書には出てこないので知らない人が多いと思います。
わたしもつい最近知りました。
今回の曲は彼の宗教的合唱曲の「ウトレンニャ」。
ロシア正教の早朝礼拝の典礼文を基にした楽曲だとか。
と言う事は、暖かな朝の陽ざしとすがすがしい空気の中、
「神様、今日もお守りください。わたしはあなたに忠誠を誓います。」
と言った、朝のお祈りをささげる楽曲を思い浮かべますが、流れてくる旋律は180°異なったものです。
曲は第1部「キリストの埋葬」、第2部「キリストの復活」の2部構成ですが、
冒頭、地下深い暗い洞窟の底を流れる風鳴りのようなバスがかすかに聴こえ出し、その後、悲鳴のように金管楽器が鳴り、バンシーの叫びのようなカウンター・テナーが始まり、その後は怒涛の混乱とでも言うような、一種異様な展開となって行きます。
地獄に落ちた亡者を切断するノコギリの音のような弦楽器、火柱渦巻く風音のような木管楽器、金属的な悪魔の叫びのような金管楽器、雷鳴のごときシンバル、地響きを立てる太鼓、輝きを無くし混乱を助長する鐘の音、魔獣のうなりのようなバス、狂気を湛えたテノール、ヒステリックな叫びを上げるソプラノ、支離滅裂にざわめきわたる混乱の合唱。
祈りをささげる相手を間違え、神ではなく悪魔にささげたとしか思えないカオスな世界が現出します。
朝これを聴いたら、そのあと一日中、背後に何者かの気配を感じいたたまれなくなりそうだし、昼に聴いたら食欲無くしそうだし、夜聴いたら怖くて寝れなくなりそう。
第2部に入ると、いわゆる讃美歌的なフレーズがちらほら現れますが、それも直ぐにかき消され、再びカオスの世界に突入。
楽器群はエントロピー拡散の方向にしか向かっていかず、少年合唱も含めた合唱団は勝手気ままにまとまることなく好き勝手なセリフを叫ぶ。
そして、最後は暗黒のとばりが世界をゆっくりと覆っていくように静かに幕を閉じてしまう。
いやぁ、これは凄かった。
徹底的にけなしてるように聞こえますが、実はほめてます。
よくここまでの曲を書いたな~。
きっと、こういう曲はまだまだたくさんあるんでしょうね。
わたしももっと勉強しないと。
しかし、「これからクラシックを聴こう!」と思った人がたまたま初めて行ったコンサートでこの曲を聴いたら「2度とクラシックなんかきくもんか!」と思ってしまいそうだなぁ。
演奏してる人はどんな気持ちなんだろう?
少年合唱団とか、精神的に悪い影響無いのかな~
(ちなみに映画「シャイニング」でこの曲が使われているらしいですが、今回初めて知りました)
これ以外に「広島の犠牲者に捧げる哀歌」と言う短めの曲(9分くらい)も聴きましたが、こちらはもう完全に70年代のオカルト映画のサントラのようなおどろおどろしい曲で、原爆の悲惨さは表現していても、犠牲者の鎮魂には全く効果がなさそう。
と言うわけで、かなり異色で面白い曲でした。
ペンデレツキはちょっと追いかけてみようと思いました。