$アルバレスのブログ

2006年発表。
文庫2冊、1022ページ
読んだ期間:9日


[あらすじ]
ハリエット・ヴァンゲル失踪事件の解決とヴェンネルストレム事件の後、リスベットはミカエルやミルトン・セキュリティー社長のアルマンスキーらと決別し、海外旅行に出かけていた。
ヴェンネルストレム事件で、卓越したハッキング能力等を駆使してヴェンネルストレムが不正にため込んでいた資産をすっかり自分のものにしていたため、経済的に何の不安も無くなっていた事と、ミカエルに恋心を抱いている事が信じられない上に、その恋が成就しない事を知っているため、気持ちを断ち切る意味もあった。

一方のミカエルは急に連絡の取れなくなったリスベットの態度に理解できず困惑していたが、雑誌「ミレニアム」としては新たな展開を迎えていた。
それはスウェーデンの闇の部分、人身売買と強制売春に関する暴露記事の掲載と本の出版だった。
ジャーナリストのダグ・スヴェンソンと彼の恋人で犯罪学研究者ミア・ベルイマンの2人による渾身のこの記事には、司法関係者などによる買春行為が実名で記載されており、発表されればヴェンネルストレム事件以来の一大センセーションを巻き起こす事必至であった。

そしてまたある人物もひそかに動き始めていた。
パルムグレンが脳卒中で引退した後を受け、リスベットの後見人となったニルス・エリック・ビュルマン弁護士。
ビュルマンは後見人の立場を利用し、そのゆがんだ性衝動をリスベットに向けた。
しかし、その行為の一部始終をリスベットはビデオに撮影。
それをネタに逆にビュルマンを追い詰め、言いなりにさせていた。
ビュルマンはゆがんだ怨念を晴らすため、謎の男、身長2メートルを超える金髪の巨人にリスベット誘拐を依頼。
リスベットの帰国を今か今かと待ちわびていた。

そして一年の旅を終えリスベットが帰って来る。
その直後、リスベットは何者かに襲われるが辛くも撃退。
その光景を偶然目撃したミカエルだが、結局リスベットには会えずに終わる。

ミカエルはダグとミアの暴露記事の出版にいそしむ中のある晩、ダグとミアの自宅に資料を取りに出かけたところ、二人の射殺体を発見する。
衝撃を受けるミカエルと「ミレニアム」編集部。
しかし、事はそれだけにとどまらなかった。
警察が発表した殺人事件の容疑者は、なんとリスベット・サランデルだった…


前作の第1部から1年後が舞台となるこの第2部は、前作同様、比較的穏やかに始まります。
リスベットの傷心旅行とも言える世界旅行の模様や、ミカエル・エリカ・グレーゲル(エリカの夫)の奇妙な三角関係などの説明が中心。
第1部でも似たような状況説明から始まりましたが、第1部では登場人物とその周りの状況についての知識が無く、割と新鮮に感じたため退屈には思いませんでしたが、第2部ではある程度の予備知識があった事もあり、正直かなり退屈に感じました。

特に今一つ理解しにくいのがミカエル・エリカ・グレーゲルの三角関係。
ミカエルとエリカが不倫しているのはわからなくもないですが、エリカの夫のグレーゲルがそれを了承している事がどうも理解しずらい。
エリカがかなりの絶倫で夫1人では満足できなくなる事があるため、ミカエルとの関係をはけ口として認めているのが理由の一つ。
グレーゲルが性モラルについてあまり頓着しない性格な上、若干バイセクシャルの傾向もあると言うのがもう一つの理由。
さすがにいくらフリーセックスの国スウェーデンでも特殊な関係である事は本書の中でも語られていますが、やっぱり良く分かりません。
さらにリスベットもバイセクシャルだったりするんで、かなり乱れた性状の人たちが主人公に据えられているんですよね、本シリーズは。

うらやましいのはリスベットの資産。
ヴェンネルストレムの不正資産をごっそりいただき、総額約30億クローネほど。
今のレートで1クローネ=14.5円くらいだそうなんで、日本円にするとなんと435億円!
これだけあれば、そりゃ世界旅行に出かけたり、超高級マンションを買ったり出来ますね。
わたしなら、問答無用で会社を辞め、半年は豪遊するだろうな。
でも外国は怖いんで日本国内を北から南へしらみつぶしに行きまくって好きなだけうまいものを食べる。
そのあとは耐震・免震を徹底的に行った豪邸をぶっ建てて、広大な庭にドッグランを作り、シーズーを3頭以上飼って、悠々自適の生活を送り人生の幕を下ろしたいねぇ。

と言う、くだらない夢は置いといて、本書に戻ります。

上巻の半分は前述したようにちょっと退屈な展開で、これと言って何も進みません。
それが300ページを越えたあたりで急激に物語が動き出します。
あらすじに書いてあるようにダグとミアの殺害とリスベットの指名手配。
この切り替えっぷりが実に見事。
ここからはジェットコースターばりに右へ左へ激しく物語が動き出します。
とにかく続きが気になってしょうがなくなる展開。

ミカエルやアルマンスキーなどごく一部の人しかリスベットの無実を信じない状況で全く姿を消してしまうリスベット。
警察とは別に捜査を進めるミカエルとリスベットのやり取りが、電話やメールではなく、ミカエルのPCをハックしているリスベットにしかできない、文書ファイルをPCに残すと言うやり取りの面白さ。
そして最大の謎、リスベットの生い立ちが徐々に明らかになる衝撃の真実。
ここの衝撃ぶりは尋常ではなく、正に驚天動地級。
特に下巻368ページでかつての後見人パルムグレンから語られるたった1行の真実にはミカエル以上に驚かされました。
今までいろいろと小説を読んで来ましたが、驚きのあまり固まったのは初めて。
自宅で一人で読んでいたら間違いなく「うそぉ!」と叫んでいたでしょう。
確かに第1部から少しずつヒントは出ていたもののそれが全く頭の中でつながっていませんでした。
本当にラーソンとは凄い作家だと改めて感じた瞬間でした。

一つずつ出てくる真実と人物が最終的な解決につながっていく過程を数学の公式を例えるやり方もうまい。
リスベットが興味を抱いていた”フェルマーの最終定理”についてはサイモン・シンの「フェルマーの最終定理」に詳しく書かれていますので興味を持たれた方は読んでみてください。
こちらも大変面白い本で、数学の基礎知識がなくても十分読めます。
わたしも以前読んでレビューしましたので、良ければ参考にしてください↓
http://ameblo.jp/gamma-ray/entry-10552144245.html

さて、この第2部は、一つの殺人事件で始まりますが、最終的には国際謀略の域にまで拡大していきます。
この懐の深さにも脱帽します。
リスベットが、まだ短い人生の中でどれだけ想像を絶する苦難を味わってきたのかも驚きです。
そして彼女をめぐる数々の新たな登場人物も興味深い。

ビュルマンに依頼されリスベット誘拐に手を貸す金髪の巨人。
2mを越える筋肉質の巨体でありながら暗闇恐怖症で闇の中から魔物が襲ってくるという妄想に取りつかれている。

名前だけしかわからない謎の存在で、関係者を恐怖に陥れている”ザラ”。

かつて少女の頃のリスベットを社会不適合者・精神疾患者と診断し治療に当たっていた精神科医のテレボリアン。

リスベットの友人で恋人でもあるミリアム・ウー。

リスベットにボクシングを教え、リスベットの無実を信じる元プロボクサーのパオロ・ロベルト。

当初はリスベットを犯人と信じていたものの、立て続けに起こる事件を前にリスベット犯人説の信ぴょう性に疑い持ち始める現場捜査責任者のヤン・ブブランスキー警部補とその部下のソーニャ・ムーディグ。

他にも多くの人物が登場するので、第1部同様、人名を覚えるのがちょっと大変かもしれませんが、全て個性的に描かれており、顔が浮かぶほど区別がつきやすい。

とにかくこの第2部は劇的な面白さです。
第1部をはるかに凌駕していると言っても過言ではない。
そして本書は第3部への導入部と言う位置づけなのが憎い。
言ってみれば第2部と第3部で1つの連続した物語。
第2部であらかた片付いたと思っていた謎解きが実はまだまだ先がある。
楽しみはまだまだ続きます!




蛇足)
それにしても本シリーズを読むと、スウェーデンと言う国は男尊女卑が当たり前で女性に対する暴力・暴行が後を絶たない国の様に見えてしまいますが、本当はどうなんでしょうか?
意外と女性には住みにくい国だったりする?