
2006年発表。
文庫1冊、639ページ
読んだ期間:5.5日
[あらすじ]
2006年、ロサンゼルス。
医師のネイトは少年に銃で撃たれ、不慮の死を遂げた。
悲しみの中で、妻は彼の頭部を冷凍保存する。
そして2070年、アリゾナ州の研究所でネイトは蘇生した。
彼の頭部と別人の身体を接合することに成功したのだ。
ネイトは新たな身体に適応しようと苦しむが、やがてその身体の驚くべき秘密と、自分が邪悪な陰謀に巻き込まれていたことを知る…
(byハヤカワ)
著者のジェンキンズはテレビの世界に身を置いていた人らしい。
作家としての経歴は良く分からないですが、本書が処女長編なのかな?
冷凍保存された頭部を他人の体に移植して復活させると言う本筋に、ちょっとした陰謀を絡めたミステリー仕立ての近未来SF小説が本書。
本書のウリはその設定にあります。
2006年以降の世界情勢の変化としては、
2012年夏にロサンゼルスで大地震が起き、大津波とその後発生する伝染病の猛威も含め壊滅的な人的・物的被害がアメリカを襲います。
この年が東日本大震災と同じなのが日本人としてはゾっとするところ。
大都市圏であのような巨大地震と巨大津波が襲ったらどうなるかのシミュレーションのようです。
さらに地球温暖化の加速による海面上昇と石油資源枯渇。
まぁ、このあたりは割とありきたりな展開です。
こういった事に続いて、抗生物質の効かない耐性菌の猛威に伝染病の大発生、オゾン層の破壊などにより地球環境は急速に悪化。
大気汚染警報が鳴り響く日には全身スーツに身を包まないと外出すらままならない。
伝染病封じ込めのために州兵まで動員し強引な検閲を推し進める肥大化した伝染病情報サービス。
貧困層はとことん貧相に、富裕層はとことん富を極めて行く世界。
その一方、医学技術の発展は進み、150歳を超える長命者も続出。
ナノマシンによる細胞修復技術により脳細胞の機能も再生させる事が可能になる。
その技術を使って主人公ネイトは復活を果たす事になります。
登場人物に目を向けると、主人公のネイト・シーハンは医療の不公平・不誠実をただすための「正義の医師団」に所属する医師。
妻のメアリも医師で人体冷凍保存の研究を行っています。
ネイトを再生させるチームの一人パーシスは遺伝子操作により不具合を極力是正させた肉体を持つ遺伝子ベビーと言われる女性で、見た目の完璧さと聡明な頭脳を持つものの人間性の薄さが難点。
ネイトに体を提供する事になるデュエイン・ウィリアムズは、過去に親からの虐待を受け精神的に不安定で脳障害も疑われる死刑囚であるものの、実際の殺人に本当に関与しているのかが不明。
ネイトとデュエインの関係を偶然つかみ大手出版社に記事の売り込みをして名声をえようとする2流ジャーナリストのフレッド・アーリン。
こういった人々以外にも多くの関係者が登場し、それぞれが概ね自分勝手な行動をし、ネイトに関与していきます。
ネイトの頭部は脳幹部のダメージが大きいため、ボディーの脳幹(死刑囚のデュエインのもの)を使い、そのため体が独自に行動する事があるとか、接触テレパスの少女とか、ほかにも色々とどこかえ見聞きした要素がチラホラ出てくるので、オリジナリティはあまり感じられず、あらすじの終わりに書いてあった”邪悪な陰謀”がこれまたステレオタイプなものだったり(すぐにバレる内容)、いくつかの伏線が放置されたまま終わってしまう(そもそも思いつきレベル)とか、問題はいくつもあります。
医療技術の進歩にや脳科学に関する専門用語などは、ちょっとわたしにはわかりませんが、どのくらいホントらしいのか気になります。
ネイトが目覚めるまでに200ページ以上かかるし、彼がまともに活動し始めるまでにも更に紙数がかかるため、せっかちな人はイライラして読むのを止めそうな気がします。
とは言え、全然面白くないわけではなく、もう少し話を整理して、キャラの魅力をアップさせればかなり良くなるんじゃないかと思います。
そういえば手塚治虫のブラック・ジャックは人の体に馬の脳を移植した話がありましたが、それを思い出しました。