$アルバレスのブログ

2007年発表。ヒューゴー賞、ネヴュラ賞、ローカス賞受賞
文庫2冊、644ページ
読んだ期間:5.5日


[あらすじ]
2007年。
アメリカ合衆国アラスカ州のバラノフ島はシトカ特別区と言うユダヤ人自治区となっていた。
イスラエルは建国直後にアラブ諸国との戦争に敗れたため、シトカ特別区には320万人ものユダヤ人が入植し一大ユダヤ地区となっていた。
しかし、この地も永遠の住処とはならず、2か月後にはシカト特別区はアメリカに返却される事になり、一部のユダヤ人を除き慣れ親しんだ土地を離れなければならなかった…

かつては敏腕刑事として数々の手柄を上げたランツマンだったが、離婚後、酒に溺れ自堕落な生活を送っていた。
そんな彼が住む、ある安ホテルで殺人事件が起きた。
麻薬中毒者の青年が自室で頭を打ち抜かれて殺された。
捜査を担当する事にしたランツマンは、被害者の青年が特別な存在だった事を知る。
彼はユダヤ教の一派の中でも強大な力を持っている宗教指導者の一人息子で、かつては数々の奇跡を起こし、救世主と崇められた存在だった…

SF3賞を受賞した話題作が本書。
改変歴史物としては良く第二次大戦で枢軸側が勝ったものが多いと思いますが、本書のような視点は珍しいのではないかな。
そんなところがウケた理由と言う気がします。

ぶっちゃけて言うと、本書は全然頭に入って来なかった。
ページをめくるとさっき読んでた2行ほど前の内容が思い出せないような…
元は純文学で頭角を現した著者の文体は、あまり読んだ事がないような比喩の多用や、単語・文節の羅列が多い(○の□とか△の×とか言うもの)。
それはそれで良いところもあります。
「へぇ~、そんな表現するのか」と感心する事もしばしば。
しかし、その枝葉末節だけが頭に残り肝心のストーリーが抜けてしまう事が多い。
さらにユダヤ人の思想、宗教、心情、習俗、習慣、歴史、地理的状況、生活様式など(著者の単語羅列を真似てみました)や、重要なキーワードとなるチェスの知識などがわたしには欠けている事も大きいと思われます。

もうちょっとぶっちゃけてネタバレてみると、本書の内容は、大きな風呂敷を広げていると思い良く見るとハンカチだった的なオチに肩すかし食らうのが辛いところ。
(さんざん苦労して捜査した結果、半分自殺みたいなオチ)
さらに重要なキーマンが死んでいるのに事が起こってしまうので、そこはどう決着つけるつもりなのかなぁと読んでいくと決着つけてないとか。
ある意味、リアルと言えばリアル。
しかし、創作である以上は何か解答が欲しいのも事実。
こういう尻切れトンボ的なところも、今思えばもう一つのめり込めなかった理由かもしれない。

ただ、悪いところばかりでないのも確か。
先に書いたように独特の比喩表現の使い方の面白さやユダヤを取り上げた新規性。
さらに言うと、あと少しで自分の住む場所が無くなってしまう人々の、常に靄がかかりほこりが舞うような雑多な生活空間の雰囲気がうまく表現されているところ。
改変歴史物はどんな歴史を覆すかにすべてがかかっていると思います。
そういう意味では本書は面白かった。
以前読んだP.K.ディックの「高い城の男」よりはるかに面白い。
さらに昔に読んだR.ハリスの「ファーザーランド」ほどではない気がしますが。

そんなわけで、ちょっと微妙な感じの読書となりました。
ちなみにタイトルの「ユダヤ警官同盟」とはユダヤ人警察官の互助会みたいなもので、警察バッジを取り上げられたランツマンが聞き込みの際にこの同盟の会員証を出して「俺は警察関係者だ」と言うシーンに登場します。
この辺りユーモアの一片かな。

本書は映画化されるそうで、映像になると俄然面白くなる気がする…