2010年発表。
文庫2冊、787ページ
読んだ期間:4.5日


[あらすじ]
アフガニスタンの司令官で”斬首屋”の異名をとる激烈な反米主義者イブラヒム・ザルジを抹殺するため、海兵隊きってのスナイパー、レイ・クルーズが派遣された。
クルーズは狙った獲物は決して外さないため仲間内から”クルーズ・ミサイル”と呼ばれ絶大な信頼がおかれていた。
作戦は超極秘のためクレーズは相棒のスケルトンのみを伴いザルジのもとに向かったが、途中何者かの待ち伏せに遭い相棒を射殺され、自身も怪我を負う。
相棒を殺された事に怒りを覚えたクルーズは任務必達のためザルジを追い、ザルジの間近に迫ったがその時、狙撃クルーズが潜むビルが爆発する…
半年後、一転親米に変わったザルジは、アフガニスタンの次期大統領候補としてアメリカにとってなくてはならない存在となる。
そんなザルジをアメリカは国賓としてワシントンに迎える事となったが、時を同じくしてある知らせが海兵隊に入る。
<ウィスキー2-2>が近々任務を完遂すると。
<ウィスキー2-2>とはクルーズのコード・ネーム。
彼は生きており、ザルジ暗殺指令を完了するためにアメリカに帰ってきていた。
ザルジ警護の任についていたFBI副長官のニック・メンフィスと、協力関係にあるCIA職員のスーザン・オカダがボブ・リー・スワガーのもとを訪ね、対クルーズのための顧問として協力を要請する。
スワガーはメンフィスたちの要請を受けクルーズの暗殺阻止を図るが…


スワガー・サーガの最新刊が登場。
徐々にかつての輝きを取り戻しつつあるハンターの、「黄昏の狙撃手」以降では最高の出来と言ってもいい作品になっています。
また、本作には年老いてそろそろ引退かと思われるボブ・リーの後継者とも思えるブライテスト・ホープ、レイ・クルーズが登場。
ボブ・リーをも出し抜くほどの機知に富み、ボブ・リーと肩を並べるほどの狙撃能力といかなる困難もものともせず目的達成を図る執念、さらにあたりまえながらボブ・リーより若く体力・気力に満ち溢れる男。
そのクルーズが今回陥る苦難は「極大射程」で若き日のボブ・リーがこうむった事態に結構似た状況。
巨大組織の陰謀により相棒を失い自身も怪我を負い、孤立無援の中、卓越した洞察力で事件の謎を追う。
とは言っても中心になって事件解明するのは主人公のボブ・リーで、クルーズは時々現れてはボブ・リーにヒントを与える。
ある意味ボブ・リーを使っているようなものです。

ボブ・リーは実戦を行うにはさすがに年を取りすぎているので、もっぱら推理に邁進しています。
誰もが見落としたほんのわずかな手がかりを見つけ、誰もが想像もしなかった真相を見つけ出していく、FBIやCIAとは違う捜査のアマチュアが最近のボブ・リーの姿。

彼が追いかけるクルーズの行方を同じように追いかける謎の傭兵3人組もかなり個性的。
一流の戦士だったものの素行・行状に問題がありドロップ・アウトしたこの3人が使うとんでもない大型狙撃銃、50口径バレットM107ライフルの威力の凄さも必見。
ちなみにこんなやつらしい↓


さらにパレスチナのテロリスト3人組の、一見無関係で、コミカルな道中劇が実はラストで大きな意味を持ってくる展開も中々面白い。

本作は「極大射程」に比べれば緻密さやラストのどんでん返しに至る伏線の張り方などは劣るとは言うものの、次に何が起こるのかわくわくさせる度合いは「極大射程」に勝るとも劣らない出来になっていると思います。

巻末の著者謝辞の中には、ハンターが本作を含めていろいろと参考になった作品群を紹介しており、本作のヒントになったのはパトリック・アレクサンダーの「大統領暗殺指令」だとはっきり書かれています。
一般的にはこういう事はあまり話したがらないと思われますが、ハンターはあまり気にしないのかも。
ボブ・リーのモデルもカルロス・ハスコックとはっきり書かれています。

何にしてもこのシリーズは新たな展開を迎えた感じです。
今後、クルーズを主役に据えてボブ・リーをサポートに回した作品にシフトして行くんでしょうか?
この路線で進んでくれれば本シリーズは安心して読めるので、どうかこのままおかしな変節をせずに書いて行って欲しいものです。
$アルバレスのブログ