$アルバレスのブログ

2003年発表。
単行本1冊、269ページ
読んだ期間:3日


5世紀頃にまとめられたと言われる、地獄についての詳細が記載された「正法念処経」を現代語に読み解いた本。

地獄とは何なのかに始まり、八大地獄とそれぞれ地獄にある別処と言われる小地獄の解説、地獄にまつわる逸話とダンテの「神曲」に著された地獄と、仏教の地獄との比較、最期に子供の躾と地獄に関するコラムで幕を閉じる構成。

実は何ヶ月か前に、NHKでみうらじゅん氏が本書を紹介していたので興味を持って買ってみました。
少し古い本なのと、TVで紹介されたからか、中々入手できず、結局古書で入手。
ちょっとプレミア付いてました。

本書の魅力は何と言っても詳細な仏教地獄の解説。
等活、黒縄、衆合、叫喚、大叫喚、焦熱、大焦熱、無間の八大地獄の中にそれぞれ16の別処(大叫喚地獄には18)があり、合計130の地獄があると言うことです。

せっかくなので簡単にまとめて行きます。
前提としては、等活から無間に行くに従って罪は重くなり罰も厳しくなります。
また、罪が加算されていきます。
漢字がちゃんと表示されないかも知れませんがご容赦ください。
そして長いです。


1.等活(とうかつ)地獄…殺生した亡者が堕ちる

別処①「屎泥処(しでいしょ)」…小動物を殺したり、弱い者イジメをした者が堕ちる
別処②「刀輪処(とうりんしょ)」…殺人傷害強盗犯が堕ちる
別処③「瓮熟処(おうじゅくしょ)」…有毛動物を焼き殺した者が堕ちる
別処④「多苦処(たくしょ)」…児童虐待した者が堕ちる
別処⑤「闇冥処(あんみょうしょ)」…羊や亀を殺し供えると幸せになると信じた者が堕ちる
別処⑥「不喜処(ふきしょ)」…大騒音で動物を驚かせ、殺した者が堕ちる
別処⑦「極苦処(ごくくしょ)」…すぐにキレて乱暴をはたらく者が堕ちる

これ以降は名称だけしか「正法念処経」には書いてなかったそうなので名称だけ記述します。

別処⑧「衆病処(しゅうびょうしょ)」
別処⑨「雨鉄処(うてつしょ)」
別処⑩「悪杖処(あくじょうしょ)」
別処⑪「黒色鼠狼処(こくしょくそろうしょ)」
別処⑫「異異回転処(いいかいてんしょ)」
別処⑬「苦逼処(くひつしょ)」
別処⑭「鉢頭摩鬘処(はつづままんしょ)」
別処⑮「陂池処(ひちしょ)」
別処⑯「空中受苦処(くちゅうじゅくしょ)」


2.黒縄(こくじょう)地獄…泥棒した者が堕ちる

別処①「等喚受苦処(とうかんじゅくしょ)」…まじめに働かず、盗みに走った者が堕ちる
別処②「旃茶処(せんだしょ)」…病気と偽り、薬や栄養物を騙し取った者が堕ちる
別処③「畏鷲処(いじゅうしょ)」…強盗殺人犯が堕ちる

これ以降は「正法念処経」には書いてなかったそうです。


3.衆合(しゅうごう)地獄…邪淫邪欲にふけった者が堕ちる

別処①「大量受苦悩処(たいりょうじゅくのうしょ)」…邪淫なセックスをした者、また、それを覗き見て真似た者が堕ちる
別処②「割刳処(かっこしょ)」…淫らな性交、オーラルセックスを行った女性が堕ちる
別処③「脈脈断処(みゃくみゃくだんしょ)」…男性に無理やり行為を迫った女性が堕ちる
別処④「悪見処(あくけんしょ)」…子供を誘拐、性的虐待を加えた者が堕ちる
別処⑤「団処(だんしょ)」…牛馬犬猫の交尾を見て、自慰した者が堕ちる
別処⑥「多苦悩処(たくのうしょ)」…男色、同性愛にふけった者が堕ちる
別処⑦「忍苦処(にんくしょ)」…戦争で敗戦国の女性を蹂躙強姦した者が堕ちる
別処⑧「朱誅朱誅処(しゅちゅうしゅちゅうしょ)」…羊やロバと交わった男が堕ちる
別処⑨「何何奚処(かかけいしょ)」…近親相姦者が堕ちる
別処⑩「涙火出処(るいかしゅつしょ)」…まじめに修行する尼僧を強姦した者が堕ちる
別処⑪「一切根滅処(いっさいこんめつしょ)」…女性に対して、肛門性交を行った者が堕ちる
別処⑫「無彼岸受苦処(むひがんじゅくしょ)」…他人の妻と不倫に及んだ妻帯者が堕ちる
別処⑬「鉢頭摩処(はつづましょ)」…出家修行の身でありながら淫行にふけった者が堕ちる
別処⑭「摩訶鉢頭摩処(まかはつづましょ)」…僧の地位を詐称し、邪淫にふけった者が堕ちる
別処⑮「火盆処(かぼんしょ)」…在家時代の美食飲酒遊興が忘れられない破戒僧が堕ちる
別処⑯「鉄末火処(てつまかしょ)」…女性の外見に惑わされ、破戒淫行した僧侶が堕ちる


4.叫喚(きょうかん)地獄…飲酒または修行者に酒を飲ませた者が堕ちる

別処①「大吼処(だいこうしょ)」…修行中の者に酒を飲ませた者が堕ちる
別処②「普聲処(ふせいしょ)」…ようやく認められた記念にといって酒を飲んだ者が堕ちる
別処③「髪火流処(はつかりゅうしょ)」…五戒を学んだ者に酒を飲ませた者が堕ちる
別処④「火末虫処(かまつちゅうしょ)」…酒を薄めて売るなど、インチキで暴利を貪った者が堕ちる
別処⑤「熱鉄火杵処(ねつてっかしょしょ)」…鳥獣に酒を飲ませて捕まえ、売ったり食べたりした者が堕ちる
別処⑥「雨炎火処(うえんかしょ)」…象に酒を飲ませ暴れさせて喜ぶ者が堕ちる
別処⑦「殺殺処(さつさつしょ)」…貞淑な女性に酒を飲ませ淫行に及んだ者が堕ちる
別処⑧「鉄林曠野処(てつりんこうやしょ)」…酒に毒物や不純物を混入した者が堕ちる
別処⑨「普闇処(ふあんしょ)」…安酒を偽って高く売りつけた者が堕ちる
別処⑩「閻魔羅遮約曠野処(えんまらしゃやくこうやしょ)」…病人や妊婦に元気づける薬だと騙して酒を飲ませた者が堕ちる
別処⑪「剣林処(けんりんしょ)」…旅人に悪い酒を飲ませ金品を奪った者が堕ちる
別処⑫「大剣林処(たいけんりんしょ)」…一本道で酒を売り暴利を貪った者が堕ちる
別処⑬「芭蕉烟林処(ばしょうえんりんしょ)」…戒律を守る貞良な女性に酒を飲ませ淫行強姦を働いた者が堕ちる
別処⑭「有煙火林処(うえんかりんしょ)」…政治家や役人に酒を飲ませ有利な取り計らいを得ようとした者が堕ちる
別処⑮「火雲霧処(かうんむしょ)」…正道を歩んでいる者に無理やり酒を飲ませ辱めた者が堕ちる
別処⑯「分別苦処(ふんべつくしょ)」…使用人に酒を飲ませ乱暴させた者が堕ちる


5.大叫喚(だいきょうかん)地獄…嘘をつくと堕ちる

別処①「吼吼処(こうこうしょ)」…もめごとを起こし恩を仇で返した者が堕ちる
別処②「受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)」…妬みから他人の悪口を言いふらす者が堕ちる
別処③「受堅苦悩不可忍耐処(じゅけんくのうふかにんたいしょ)」…トップの立場にありながら任務を放棄し責任転嫁した者が堕ちる
別処④「随意圧処(ずいいあつしょ)」…他人の田畑や山林を騙し盗った者が堕ちる
別処⑤「一切闇処(いっさいあんしょ)」…人妻を強姦しておきながら誘惑されたと嘘をついた者が堕ちる
別処⑥「人闇煙処(じんあんえんしょ)」…頑張ろうと誓いあいながら裏切った者が堕ちる
別処⑦「如飛虫堕処(じょひちゅうだしょ)」…修行僧の持ち物を盗んで叩き売った者が堕ちる
別処⑧「死活等処(しかつとうしょ)」…出家ではないのに出家姿で人を欺いた者が堕ちる
別処⑨「異異転処(いいてんしょ)」…嘘をついて他人の事業を失敗させた者が堕ちる
別処⑩「唐<りっしんべんに希>望処(とうきぼうしょ)」…病気や貧困で苦しむ人を見ながら知らぬふりをした者が堕ちる
別処⑪「雙逼悩処(せきはくのうしょ)」…町や村、集団などで和を乱した者が堕ちる
別処⑫「迭相圧処(てつそうあつしょ)」…夫婦親子、兄弟姉妹、親戚縁者の間で財産や相続で醜く争った者が堕ちる
別処⑬「金剛嘴鳥処(こんごうしちょうしょ)」…病人に適切な治療を受けさせなかった者が堕ちる
別処⑭「火鬘処(かまんしょ)」…罪を犯した裁判官、検事、警察官らが堕ちる
別処⑮「受鋒苦処(じゅふくしょ)」…素直な心からの布施に言いがかりをつけ、布施の額や中身で依怙贔屓した者が堕ちる
別処⑯「受無辺苦処(じゅむへんくしょ)」…人を正すべき立場にありながら間違った道を教えた者が堕ちる
別処⑰「血髄食処(けつずいしょくしょ)」…民に無理な課税、厳しい徴税をしながら自分は贅沢三昧した王や役人が堕ちる
別処⑱「十一炎処(じゅういちえんしょ)」…賄賂で依怙贔屓した権力者や裁判官が堕ちる


6.焦熱(しょうねつ)地獄…邪な見方をした者が堕ちる

別処①「大焼処(だいしょうしょ)」…「殺生は救済」を信じ実行した者が堕ちる
別処②「分荼梨迦処(ぶんだりかしょ)」…飢死自殺願望者が堕ちる
別処③「龍旋処(りょうせんしょ)」…挙措動作がだらしない不作法者が堕ちる
別処④「赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ)」…因果応報と修行努力を否定する者が堕ちる
別処⑤「鉄かく処(てつかくしょ)」…修行僧を殺すことを救済と強弁する者が堕ちる
別処⑥「血河漂処(ちかひょうしょ)」…破戒しても荒行で罪が消えるなどと考えた者が堕ちる
別処⑦「饒骨髄虫処(にゅうこつずいちゅうしょ)」…破戒悪行注意されても一切耳を貸さない者が堕ちる
別処⑧「一切人熟処(いっさいにんじゅくしょ)」…放火した者が堕ちる
別処⑨「無終没入処(むしゅうぼつにゅうしょ)」…忠告を無視し仏の教えの基本を否定した者が堕ちる
別処⑩「大鉢頭摩処(だいはつづましょ)」…正道を歩み斎戒沐浴して真剣に修行する僧を殺した者が堕ちる
別処⑪「悪嶮岸処(あくけんがんしょ)」…入水自殺した者が堕ちる
別処⑫「金剛骨処(こんごうこつしょ)」…仏の教えを否定し刹那的に生きた者が堕ちる
別処⑬「黒鉄縄ひょう刃解受苦処(こくてつじょうひょうはかいじゅくしょ)」…五逆十悪を平然と犯した者が堕ちる
別処⑭「那迦虫柱悪火受苦処(なかちゅうちゅうあくかじゅくしょ)」…諸行無常を認めない者が堕ちる
別処⑮「闇火風処(あんかそうしょ)」…素直に諸行無常を認めることができない者が堕ちる
別処⑯「金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ)」…無常定常は因縁が決定すると考える者が堕ちる


7.大焦熱(だいしょうねつ)地獄…殺生、盗み、邪行、妄語の罪の上に修行を邪魔した者が堕ちる

別処①「一切方焦熱処(いっさいほうしょうねつしょ)」…真剣に生きようとする女性を誘惑する者が堕ちる
別処②「大身悪吼可畏処(だいしんあくこうかいしょ)」…いっそうのレベルアップを目指して努力中の女性を犯した者が堕ちる
別処③「火髻処(かけいしょ)」…高度のレベルまであと一歩に達した女性に非道を働き邪魔した者が堕ちる
別処④「雨沙火処(うしゃかしょ)」…努力の結果、他の模範になるまでになった女性を常習的に強姦した者が堕ちる
別処⑤「内熱沸処(ないねつふつしょ)」…在家でさらに自分を高めようとする女性を誘惑しそそのかした者が堕ちる
別処⑥「咤咤咤<くちへんに斉>処(たたたせいしょ)」…資格を得るため頑張っている女性のみならず、その姉妹、母まで毒牙にかけた者が堕ちる
別処⑦「普受一切資生苦悩処(ふじゅいっさいししょうくのうしょ)」…資格を得て頑張っている女性に酒を飲ませて誘惑し強姦した者が堕ちる
別処⑧「<革に卑>多羅尼処(びたらにしょ)」…ひたすらまじめに頑張っている女性に薬物を嗅がせて淫行に及んだ者が堕ちる
別処⑨「無間闇処(むげんあんしょ)」…一切の誘惑を断ち切って頑張っている男性に女性を近づけ修行を邪魔した者が堕ちる
別処⑩「苦鬘処(くまんしょ)」…まじめに頑張っている男を誘惑しておきながら拒否されると「強姦されたと言いふらす」と脅した女性が堕ちる
別処⑪「雨縷鬘抖数処(うるまんとうそうしょ)」…まじめな努力の結果ようさく資格を得られた女性を強姦した者が堕ちる
別処⑫「髪愧烏処(ほっきうしょ)」…酔ったあげく姉のみならず妹まで毒牙にかけた者が堕ちる
別処⑬「悲苦吼処(ひくこうしょ)」…間違った教えを見抜けず淫行に走った女性が堕ちる
別処⑭「大悲処(だいひしょ)」…恩師、教え子の妻をたぶらかし淫行に及んだ者が堕ちる
別処⑮「無悲闇処(むひあんしょ)」…自分の息子の妻に淫行を働いた者が堕ちる
別処⑯「木転処(もくてんしょ)」…恩人の妻をたぶらかし淫行に及んだ者が堕ちる


8.無間(むげん)地獄…「讒法」「四重」「五逆」の罪を犯した者が堕ちる

「讒法」…仏教の「法」と「道」を謗る事
「四重」…殺生、盗み、邪淫、妄語
「五逆」…父殺し、母殺し、阿羅漢殺し、仏を傷つける、寺院の破壊

別処①「烏口処(うこうしょ)」…阿羅漢を殺し仏を傷つけた者が堕ちる
別処②「一切向地処(いっさいこうちしょ)」…まじめな修行を認証された尼僧を強姦した者が堕ちる
別処③「無彼岸常受苦悩処(むひがんじょじゅくのうしょ)」…世間の動きに惑わされ修行を止めた者が堕ちる
別処④「野干吼処(やかんこうしょ)」…努力して悟りを得た人を誹謗中傷した者が堕ちる
別処⑤「鉄野干食処(てつやかんじきしょ)」…寺を焼き払い僧侶を焼き殺した者が堕ちる
別処⑥「黒肚処(こくとしょ)」…寺の財物や布施を盗んだ者が堕ちる
別処⑦「身洋処(しんようしょ)」…寺の財物を盗み食いした上、他人も仲間に引き込んだ者が堕ちる
別処⑧「夢見畏処(むけんいしょ)」…修行僧の食べ物を盗んだ者が堕ちる
別処⑨「身洋受苦悩処(しんようじゅくのうしょ)」…清貧の善人を騙した者が堕ちる
別処⑩「雨山聚処(うさんじゅしょ)」…独学独行只管修行の僧侶の食べ物を盗んだ者が堕ちる
別処⑪「閻婆<匚の中に口>度処(えんばはどしょ)」…公害を垂れ流し環境破壊した者が堕ちる
別処⑫「星鬘処(せいまんしょ)」…せっかく修行しながら戒めを忘れて泥棒した者が堕ちる
別処⑬「一切苦旋処(いっさいくせんしょ)」…経典・経文・書物・絵巻等を焼き、みんなの修行修学の機会を潰した者が堕ちる
別処⑭「臭気覆処(しゅうきふくしょ)」…田畑、果樹園などに火をつけた者が堕ちる
別処⑮「鉄<金葉>処(てっちょうしょ)」…まじめに修行している者をたぶらかした者が堕ちる
別処⑯「十一焔処(じゅういちえんしょ)」…仏像・仏塔・仏画等を破壊しながら仏弟子を騙った者が堕ちる


疲れた…

ここに書かれている罪の例が、またそれぞれ書かれていますが、だんだん妙に具体的になっていくので、当時実際にあった事件や人物を念頭において書かれたんだろうなと想像できます。
書き手の「こんな奴は地獄行きだ!」と言う思いがなんとなく伝わってきます。

で、これらの地獄で与えられる罰と言うのはだいたい以下の罰の組み合わせになってます。

・超高温の火炎で焼かれる
・熱せられてどろどろに溶けた鉄や銅を飲まされる
・同じくそういうものが入った釜で煮られる
・体を粉々になるまで切り刻まれる
・獄卒(鬼)に、紙のように薄くなるまで金棒で叩きつぶされる
・あらゆる毒を塗りこめられる
・狗、獅子、鷲、魚、龍などの動物に喰われる
・無数の虫に喰われる
・微塵や灰、糞になっても獄卒の一息ですぐに復活させられ再び罰を受ける
・罰は無量百千年続く。ただし大叫喚地獄の⑮受鋒苦処だけは無量百億年続く


地獄と罪の数の多さに比べ、罰の種類はそんなに多くは無く、とにかく暑さ、痛さ、苦しさを徹底的に味あわせると言うのが特徴ですね。
その過程で自分の罪を自覚させる。
獄卒たちの口癖は「恨むなら自分を恨め」ですから。
しかし、これだけ多様な罪があると必ず何かに当てはまる気がする…
中には現代には当てはまらないものもありますが、結構、現代にあてはまるものもある。
人間は成長しないという事でしょうか?


この後、地獄関連の逸話がいくつか載ってます。

・物語と言う嘘を世に広めた罪から紫式部は地獄行き(ただし、物語の中に人はどう生きるべきかの教訓を説いているのでちゃらになった)
・武将達と宗教のつながり
・落語の地獄めぐりの話

そしてダンテの「神曲」との比較があります。
ここは中々興味深いところです。
今まで書いてきたように、仏教地獄はとにかくアグレッシブです。
とにかくひたすら熱い。
獄卒は全力で亡者をこらしめ、亡者はひたすら逃げます。

一方「神曲」地獄編は、内省的な罰や極寒の地があります。
(これは「正法念処経」には書いてなかっただけのようですが)
特徴的な差は酒に関する事。
西洋ではワインは水代わりなのでそれについてはそれほど厳しい罰は無いですが、仏教世界では修行を邪魔する悪品扱いなので、専用の地獄が設けてあるほど。
キリスト教では反キリストは大罪なので最も深いところに落とされます。
仏教でもそういった罪は大罪ですが、修行を邪魔する人、物もかなりの罰が下されます。
下に行けばいくほど熱くなる仏教地獄ですが、地球の組成を考えるとこちらの方が正しい気がします。
なお、納得いかない箇所がひとつあり、著者の解説では「神曲」の地獄の第1は辺獄で洗礼を受けずイエスに従わない者が堕ちる重罪のように書いていますが、わたしが読んだ「神曲」にそういうニュアンスはありません。
分け合って洗礼を受けられなかった者が静かにたたずむ場所と言う印象。
何せ、キリスト教が生まれる前に無くなった賢人たちもここにいるわけで、それが重罪なんて言い過ぎですし。
ちなみにダンテの「神曲」については過去にレビューを書いているので、興味がある人は検索して見て下さい。


最期にコラムのようなものが載ってます。

ここは著者が子供の頃に母親から受けた躾のエピソードを中心に、最近の世相を嘆く形になってます。
その中で、「小野篁の地獄詣で」や「子育て幽霊」「菅原道真の怨念」などの話も載ってます。


著者が本書を出版しようとした理由は、当時の事件、事故の非道さに憤ったからのようです。
2000年頃と言えば、マスコミが「最近はひどい事件が多くなってます」と言うあおりを繰り返し喧伝し始めた時期だと思います。
なので文章の中には当時の事件、事故らしい話題がいくつか匂わされており、だいたいあの話かな、と言うのがわかります。
当時の小泉首相の件とかも書かれてます。
今と違ってわたしたちの親の世代は、今では幼児虐待と思われても仕方ないほど厳しい躾が行われていたので、著者の母親からの厳しい躾の様子が結構出てきます。
そういう経験をしてきた著者にとって、今の世は乱れている、何とかしなければ、と言う意味もあったんだと思います。
そんなわけで、ちょっと著者主観が邪魔な感じは否めないため、資料としてはもっと客観的に書かれた方が良い気もしますが、まぁ、比較的安価で分かり易く書かれているのでこれもありかな。
罰のバリエーションが少ないので読み進めると同じ事の繰り返しになるのでちょっと退屈ではありますが、読んで損はしないと思います。
(今までのわたしのブログで最長になったかも(^^;)