ラーシュ・ケプレル「催眠」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

2009年発表。
文庫2冊、916ページ
読んだ期間:6日


[あらすじ]
10年前、ある事件により催眠術を封印する事になった精神科医エリックの元に、催眠術の依頼が来た。
一家3人が惨殺され、ただ一人生き残った少年ヨセフに催眠術をかけ、少しでも犯人の手がかりを得、一人暮らしをしている少年の姉エヴェリンを犯人の魔手から救うためだった。
最初依頼を拒んだエリックだったが、エヴェリンの命を守るため苦汁の決断により催眠術を実行。
しかし、ヨセフの口から発せられた言葉は意外なものだった。
「姉に指示されて家族を殺した」
急遽、エヴェリンを探し出し事情を聞きだすヨーナ・リンナ警部だが、エヴェリンからはヨセフのゆがんだ精神と行動の数々が語られる。
ヨセフを確保しようとした時、重傷で動けなかったはずのヨセフが病院から逃げ出してしまう。
さらに同じ時期にエリックの息子ベンヤミンが何者かに誘拐されてしまう。
当初、ヨセフの仕業かと思われていた誘拐事件だったが、別の何者かの可能性が浮上。
何でもいいから思い当たる事を思い出す事をリンナ警部に言い渡されたエリックは、10年前の事件こそがこの誘拐事件の真相につながるのでは無いかと思い始める…


当初、覆面作家としてデビューしたラーシュ・ケプレルのヨーナ・リンナ・シリーズ全8部の記念すべき第1部がこの「催眠」。
とは言え、本作での主人公は精神科医のエリック・マリア・バルク。
リンナはエリックにまつわる事件の捜査担当者として、控えめに活躍する程度。

精神科医のエリックは、かつてはグループ催眠術で患者の精神ケアを行うという画期的な手法で将来を嘱望されていながら、患者の中の一人とのいざこざで全ての名声を失い、それ以降、睡眠薬を常用する生活となってしまった。
また、過ちから浮気をしてしまい、それを妻のシモーヌに知られ、夫婦関係も冷たいものに。
さらに一人息子のベンヤミンはフォン・ウィルブランド病と言う先天性凝固異常症をわずらい、定期的に薬剤投与をする必要がある。

そんな今にも崩れ落ちそうな家庭に舞い込む悪夢のような事件を引き起こすヨセフ・エーク。
両親と幼い妹を情け容赦なく数十箇所もメッタ刺しした上、妹の胴体を切断するという暴挙にも出る異常者。
姉のエヴェリンに異常な性的欲求を持つなど精神の蝕み具合は半端ではない。

そしてエリックが10年前に被った事件の内容の異常性も凄い。
下巻冒頭あたりから180ページに渡り詳細に綴られるグループセラピーの様子は、催眠術に入る段階を水中へ徐々に没していく表現を用いてある種幻想的に進み、その上で起こる事件の異常性との対比も良く書けています。

ここに登場する人物はほとんどが精神に異常もしくは苦悩を抱えている者ばかり。

催眠術を使ったセラピーの様子とラストのベンヤミン救出のシークエンスを同じ水中で表すというのも凝っていて読み応えがあります。

読んだ順番が、第2部の「契約」からだったので印象がちょっと狂ってるかも知れません(^^;
これはわたしの読み方のせいなので、本シリーズは何も悪く無いです。

本書の方は、リンナ警部は脇役と言う印象ですが、それでも彼だけが正しいという状況は「契約」でも発揮されており、口癖の「ぼくの言ったとおりでしょう」は健在。

「契約」の方はわりとありがちな国際謀略物をテーマとし、リンナ警部にスポット当ててスビート感を重視した書きっぷりとなっており、本書はじっくりと読ませるように幾重にも伏線を張り、それをたくみに解きほぐして行く気持ちよさを重視していると言えます。

どちらが好きかは人によると思いますが、敢えて言うなら本書の方が若干上かな。
ただ、非常に差は小さいですし、「契約」の音楽ネタは個人的には大変好きです。

ケプレルと言うペンネームの本人であるアンドリル夫妻は、元々の純文学作家らしい誌的な表現も冴えてます。

前回の「契約」のレビューの時にも書きましたが、本作は「サイダーハウス・ルール」の監督、ラッセ・ハルストレムにより映画化が決定しているそうです。
映画化はしやすい小説だと思いますので楽しみです。

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