1889年発表。
文庫1冊、321ページ
読んだ期間:3日


[あらすじ]
最近体調のよろしくない”ぼく”(ジム)気分転換を兼ねて悪友2人(ジョージとハリス)と飼い犬のモンモランシーの3人と1匹でテムズ河の河旅に出かける事にした。
季節は晩春から初夏にかけての2週間の旅の間には色々な事が起こる…


イギリスの古典的ユーモア小説が本書。
わたしが本書に興味を持ったのはコニー・ウィリスの「犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」というタイムトラベル小説を読んだ事に端を発します。
「犬は勘定に入れません」と言う言葉は本書の原題の中に書かれているもので、旅の頭数に連れている犬は入ってませんと言う事。
ウィリスの作品は非常に面白く、オマージュをささげた本書もいつか読みたいと思っていたところ、本日やっと読み終わりました。

著者のジェローム・K(クラプカ)・ジェロームは19世紀後半から20世紀前半に生きた人で、本書は110年くらい前に発表されたもの。
当初は旅行案内として書かれたそうですが、主人公の”ぼく”と悪友2人と愛犬の繰り広げるドタバタ劇やシニカルでウィットに富んだ軽妙なユーモアに満ちた語り口のおかげでユーモア小説として認知を得たとか。
著者自身、友人2人とワンコを連れた船旅を良くしていたそうなので本書は著者の実体験をあらわしたものとも言えるかも。

さて、本題に戻ると、本書は全19章ですが、最初の5章は旅の準備の話。
”ぼく”がどうも体調が悪く、図書館で医学書を読んでみるとあらゆる病気の症状と自分の状態が合致するので自分は病気の固まりだと確信するところなんかはつい微笑んでしまう。
犬のモンモランシーは荷造りの邪魔をして荷物の上を渡り歩く。
積めたと思った荷物がまだ残っていたり、まだ使う道具が下の方に荷造りされていたり、今でもよくある話が満載。
ちなみにモンモランシーはフォックステリアと本書には書かれていますが、表紙絵などから類推するとスムース・フォックス・テリアらしい↓
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本書14章には彼が大暴れする描写があり、ワンコ好きの人なら思わずニヤリとする事間違いなし。
この一つ前の13章では色々なワンコが登場しますが、一つ良く分からない犬種がいます。
ロウサー・アーケイド種と言うネズミくらいの小型犬だそうですが、ググっても出てこない。
これはどんな犬なんでしょうか?

人間の方に目を向けると、”ぼく”が過去に経験した逸話や出会った人々と言うのが実に今でも近くにいる人だったり、昨日経験したことだったりするのでついつい口元がほころびます。
知ったかぶりして失敗する人、やたら仕切る人ほど実は指図するだけで何もして無いとか、知り合いと思ってからかったら全くの別人であせったとか。
蒸気船がでかい顔してボートに汽笛を鳴らすのが気に食わなくて汽笛が聞こえないふりして邪魔して楽しんだら、自分が逆の立場になって頭に来たりと言った因果応報とか。

そうかと思えば、2章や10章にある夜の詩的表現は非常に美しく幻想的であり、一級品のファンタジーのようだし、テムズ河流域の街や史跡の歴史、来歴の描写は大変詳細で思わず行ってみたいと思わせるほど興味深いので旅行案内としても今でも通用するかも。
もしイギリス旅行する機会があれば本書を手にテムズ河下りしてみたいですね。

楽しい話だけではなく、色々な事があって将来を悲観し身投げした母親の水死体に遭遇するなど、当時の庶民の生活の様子も垣間見せるあたり、懐が深い。

旅はロンドン近郊のキングストンから始まりオックスフォードまで行ってから戻ってくる旅程でしたが、オックスフォードで雨にたたられた3人と1匹は2週間の予定を後2日残しながら結局駅から鉄道で帰る事にします。
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雨に濡れるのは嫌だし、もう船は疲れたので止めてしまう。
計画を途中であきらめてしまう結末もいかにも人間臭い。
人間は変わらないなぁと実感する読書経験でした。
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