2011年発表。
文庫1冊、459ページ
読んだ期間:3日
[あらすじ]
簡単に言ってしまうと、北朝鮮(勢力拡大した結果大朝鮮連邦となっている)の占領下のアメリカ合衆国で、ラジオDJ「自由の声」として米国市民を鼓舞するベン・ウォーカーと、彼を執拗に追い詰めるアメリカ占領の指揮を取る李大現(サルムサ)との戦いの話。
なんであらすじを簡単にまとめたかと言うと、後で本書の設定を年表風にまとめているのでこっちを見てもらえばいいかな、と思ったため。
で、本書は海外製シューティングゲーム「HOMEFRONT」のノベライズです。
ゲーム世界の1年前あたりを描いた前日譚になっているとか。
ゲーム自体は知りませんが、何か凄い設定のゲームがあると言う事は知っていて、それが小説になっているのを知ったのでちょっと読んで見ました。
著者は二人。
ジョン・ミリアスは映画「地獄の黙示録」の脚本で有名で、ゲーム「HOMEFRONT」のシナリオを担当。
レイモンド・ベンソンは映画「007」シリーズのノベライズなどをやっている人。
それでは先ほど書いた年表をどうぞ(本書に書いてある事をざっとまとめたものです)
[北朝鮮]
2013 南北朝鮮統一(和平条約調印による)
金正恩ノーベル平和賞授与
2014 西欧諸国との経済交流活発化
2015 軍の近代化進む
2018 日本に宣戦布告
占領した原発1基を爆破し地域住民数千人を瞬殺
日本軍は1発の銃弾も撃たぬまま降伏
2019 日本の先進技術(産軍共)吸収
2020 日本を経由し米軍事技術をも吸収
2021 大朝鮮連邦成立
同年東南アジア諸国も傘下に
2023 兵役に付かなければ朝鮮労働党に入れない事により軍の総兵力が2000万人を超える
2024 人工衛星打ち上げ成功
2025 アメリカ占領作戦実施(アメリカの年表へ)
[アメリカ]
2012 実体経済がデリバティブ市場に取って代わられる
2013 石油価格の異常高騰による経済破綻
2014 日米安保条約が事実上形骸化
戦争の無人化が急速に進み、現有兵力を多く持つアメリカの軍事力のプレゼンスが急速に低下
2015 アメリカ経済の悪化が進み失業率30%へ
2016-17 17万8千人が凍死
州単位での自治が強固になり大統領の権限低下
2017 インフラや公共サービス維持が困難に
2020 一部地域で戒厳令
2021 新種にインフルエンザ・ウィルスによるノックスヴィル熱病により600万人が命を落とす
2023まで被害は続く
2025 主要各都市の交通網で連続大規模爆弾テロ発生
インターネットテロ(スパイウェア)により無人兵器システムが無効化
北朝鮮の人工衛星1基がカンザス州上空480km地点で爆発、EMPにより電子機器類が無効化
(NORADなどの軍事拠点まで)
各地で無政府状態へ
ハワイ占領下へ
米本土への朝鮮軍侵攻→占領へ
2026 ミシシッピ川への放射性物質放出により東西アメリカが分断
[世界]
2016 中東でアラブ大戦勃発
2017 それにより原油価格さらに高騰
世界規模の反戦機運が高まり日米安保崩壊。在日米軍撤退。
下はちょっと気になったので外務省HPからデータをもらってまとめてみた現在の関係各国の人口と兵力。
かっこ内は兵力の人口比。
[大朝鮮連邦]
北朝鮮 <人口> 2,405万人
<兵力> 119万人(4.9%)
韓国 <人口> 4,977万人
<兵力> 66万人(1.3%)
日本 <人口> 1億2,805万人
<兵力> 22万人(0.2%)
マレーシア <人口> 2,840万人
<兵力> 11万人(0.4%)
インドネシア <人口> 2億3,800万人
<兵力> 39万人(0.2%)
フィリピン <人口> 9,401万人
<兵力> 12万人(0.1%)
タイ <人口> 6,338万人
<兵力> 31万人(0.5%)
カンボジア <人口> 1340万人
<兵力> 12万人(0.9%)
ベトナム <人口> 8,579万人
<兵力> 46万人(0.5%)
合計 <人口> 7億2,485万人
<兵力> 358万人(0.5%)
[その他の国家]
アメリカ <人口> 3億 875万人
<兵力> 143万人(0.5%)
中国 <人口> 13億人
<兵力> 229万人(0.2%)
ロシア <人口> 1億4,291万人
<兵力> 105万人(0.7%)
イギリス <人口> 6,180万人
<兵力> 18万人(0.3%)
フランス <人口> 6,503万人
<兵力> 23万人(0.4%)
ドイツ <人口> 8,180万人
<兵力> 24万人(0.3%)
イタリア <人口> 5903万人
<兵力> 19万人(0.3%)
インド <人口> 12億1,000万人
<兵力> 132万人(0.1%)
イスラエル <人口> 737万人
<兵力> 18万人(2.4%)
以上のように北朝鮮が如何に人口の割りに兵力が巨大かがわかると言うものです。
上のデータには予備兵力が入っていないのでそれを入れると兵力数は結構変わってきますが、それでもかなり異常な状態かな。
ちなみに本書のように大朝鮮連邦の総兵力が2000万人の場合の人口比は2.8%。
最初この数字を見て「こんな数維持できるわけない」と思いましたが、戦時であればこういう事もありうるかなとちょっと思いました。
ただ、同国人のみで構成される軍隊ではなく被占領国の国民がかなりの数入ってやっと2000万人なので言葉や文化の違う混成部隊となるわけで必然、まとまりが無く忠誠心も薄い頭数だけの軍隊になる事は簡単に想像できます。
そしてその兵站の維持がどれだけ大変かを考えるとまともに機能するのかは疑問。
頭数は集まってもまともに動かない軍隊が出来上がる気がする。
では、ここからは色々と浮かんだ疑問の一部をまとめてみます。
①最初に起こった石油価格高騰の理由がいまいち不明
②その石油価格高騰に端を発した大規模な世界的経済破綻が、北朝鮮にはそれほど影響を与えていない事の理由がはっきりしていない。
元々、先進技術や石油を必要とした世界経済に北朝鮮が組み込まれていないからと言われれば分からんでもないですが、統一した韓国や東南アジア、日本はそこにどっぷり浸かっているので影響が無いはずはないと思われますが。
③米軍事技術が日本から入って来たとの記述がありますが、北朝鮮占領下の日本への貿易をアメリカがするとはちょっと思えない。
一応、そんな事言ってられない状況だからともいえなくないけど…
④日本が一発の銃弾を撃つ事も無くあっさり降伏すると言う箇所は日本をバカにしてるように見えますな。
⑤中国、ロシアが何をしていたのか良く分からない。
⑥1発のEMPでNORADなどの軍事拠点を含む米全土が壊滅的被害を蒙るとは思えないんですが。
などなどです。
と言うわけでこういった多くの疑問を内包した小説と言うわけです。
ここからは持論です。
アイディアを膨らませて物語を作るのが小説。
だから現実味が無い事でも小説内ではありうると考えて読むもの。
著者はそのアイディアを読者に納得させるテクニックを駆使して物語を紡ぎだす。
そして読者はそのテクニックにうなりひざを打ちうやられたと思い、ページをめくる。
それが面白い小説だと思います。
ただ、その場合、少なくともその物語世界ではつじつまの合う説明がなされていなければ読者は納得できず先に進めない。
本書では北朝鮮がアメリカを占領するという突拍子も無いアイディアまではすばらしいが、北朝鮮がアメリカを占領するまでに肥大化する理由の説明があっさりしすぎているため、納得できません。
そのため、もやもやしたまま先を読み進める事になる。
結果本書の評価は低くならざるを得ない。
本来、北朝鮮のような後進小国がアメリカのような先進超大国に戦いを挑むほどに強大になる過程の方が面白いと思いますが、読者を納得させるような説明が出来なかったんだろうな。
問題は本書の解説。
この説得力の乏しさを補うために東日本大震災を持ち出しています。
このような”想定外”の大災害が現実に起こりうるのだから本書で取り上げているような状況もあながち夢物語とは言えない。
簡単に言ってしまえばこういう論法ですが、こんな解説は卑怯だと思います。
なので、この解説部分は読まない方が良いと考えます。
色々厳しい事を書いてますが、それなりに面白いところもあったんじゃないかなぁ。
どことは言えませんが(^^;
そもそもゲームのノベライズですし、結果どうなったかは本書では語られず、続きはゲームでやってくれと言う印象ですしね。
ただ、かつてアメリカの出版界がソ連を徹底的に悪の大国としてアメリカが正義の鉄槌を下すという小説を嫌と言うほど発売してきた事を考えると、今度はその矛先を北朝鮮にしてアメリカ国民や同盟国に対して反北朝鮮思想を植え込むプロパガンダという位置づけもあるんだとしたら、本書の価値は少しばかりはあるとも言えますなぁ。
とにかく色々考えさせられた事は確かだし、色々調べものもした事ですんで、それなりに成果のあった読書経験ではありました。

※改行などが詰まって見づらくなって申し訳ありません。
文庫1冊、459ページ
読んだ期間:3日
[あらすじ]
簡単に言ってしまうと、北朝鮮(勢力拡大した結果大朝鮮連邦となっている)の占領下のアメリカ合衆国で、ラジオDJ「自由の声」として米国市民を鼓舞するベン・ウォーカーと、彼を執拗に追い詰めるアメリカ占領の指揮を取る李大現(サルムサ)との戦いの話。
なんであらすじを簡単にまとめたかと言うと、後で本書の設定を年表風にまとめているのでこっちを見てもらえばいいかな、と思ったため。
で、本書は海外製シューティングゲーム「HOMEFRONT」のノベライズです。
ゲーム世界の1年前あたりを描いた前日譚になっているとか。
ゲーム自体は知りませんが、何か凄い設定のゲームがあると言う事は知っていて、それが小説になっているのを知ったのでちょっと読んで見ました。
著者は二人。
ジョン・ミリアスは映画「地獄の黙示録」の脚本で有名で、ゲーム「HOMEFRONT」のシナリオを担当。
レイモンド・ベンソンは映画「007」シリーズのノベライズなどをやっている人。
それでは先ほど書いた年表をどうぞ(本書に書いてある事をざっとまとめたものです)
[北朝鮮]
2013 南北朝鮮統一(和平条約調印による)
金正恩ノーベル平和賞授与
2014 西欧諸国との経済交流活発化
2015 軍の近代化進む
2018 日本に宣戦布告
占領した原発1基を爆破し地域住民数千人を瞬殺
日本軍は1発の銃弾も撃たぬまま降伏
2019 日本の先進技術(産軍共)吸収
2020 日本を経由し米軍事技術をも吸収
2021 大朝鮮連邦成立
同年東南アジア諸国も傘下に
2023 兵役に付かなければ朝鮮労働党に入れない事により軍の総兵力が2000万人を超える
2024 人工衛星打ち上げ成功
2025 アメリカ占領作戦実施(アメリカの年表へ)
[アメリカ]
2012 実体経済がデリバティブ市場に取って代わられる
2013 石油価格の異常高騰による経済破綻
2014 日米安保条約が事実上形骸化
戦争の無人化が急速に進み、現有兵力を多く持つアメリカの軍事力のプレゼンスが急速に低下
2015 アメリカ経済の悪化が進み失業率30%へ
2016-17 17万8千人が凍死
州単位での自治が強固になり大統領の権限低下
2017 インフラや公共サービス維持が困難に
2020 一部地域で戒厳令
2021 新種にインフルエンザ・ウィルスによるノックスヴィル熱病により600万人が命を落とす
2023まで被害は続く
2025 主要各都市の交通網で連続大規模爆弾テロ発生
インターネットテロ(スパイウェア)により無人兵器システムが無効化
北朝鮮の人工衛星1基がカンザス州上空480km地点で爆発、EMPにより電子機器類が無効化
(NORADなどの軍事拠点まで)
各地で無政府状態へ
ハワイ占領下へ
米本土への朝鮮軍侵攻→占領へ
2026 ミシシッピ川への放射性物質放出により東西アメリカが分断
[世界]
2016 中東でアラブ大戦勃発
2017 それにより原油価格さらに高騰
世界規模の反戦機運が高まり日米安保崩壊。在日米軍撤退。
下はちょっと気になったので外務省HPからデータをもらってまとめてみた現在の関係各国の人口と兵力。
かっこ内は兵力の人口比。
[大朝鮮連邦]
北朝鮮 <人口> 2,405万人
<兵力> 119万人(4.9%)
韓国 <人口> 4,977万人
<兵力> 66万人(1.3%)
日本 <人口> 1億2,805万人
<兵力> 22万人(0.2%)
マレーシア <人口> 2,840万人
<兵力> 11万人(0.4%)
インドネシア <人口> 2億3,800万人
<兵力> 39万人(0.2%)
フィリピン <人口> 9,401万人
<兵力> 12万人(0.1%)
タイ <人口> 6,338万人
<兵力> 31万人(0.5%)
カンボジア <人口> 1340万人
<兵力> 12万人(0.9%)
ベトナム <人口> 8,579万人
<兵力> 46万人(0.5%)
合計 <人口> 7億2,485万人
<兵力> 358万人(0.5%)
[その他の国家]
アメリカ <人口> 3億 875万人
<兵力> 143万人(0.5%)
中国 <人口> 13億人
<兵力> 229万人(0.2%)
ロシア <人口> 1億4,291万人
<兵力> 105万人(0.7%)
イギリス <人口> 6,180万人
<兵力> 18万人(0.3%)
フランス <人口> 6,503万人
<兵力> 23万人(0.4%)
ドイツ <人口> 8,180万人
<兵力> 24万人(0.3%)
イタリア <人口> 5903万人
<兵力> 19万人(0.3%)
インド <人口> 12億1,000万人
<兵力> 132万人(0.1%)
イスラエル <人口> 737万人
<兵力> 18万人(2.4%)
以上のように北朝鮮が如何に人口の割りに兵力が巨大かがわかると言うものです。
上のデータには予備兵力が入っていないのでそれを入れると兵力数は結構変わってきますが、それでもかなり異常な状態かな。
ちなみに本書のように大朝鮮連邦の総兵力が2000万人の場合の人口比は2.8%。
最初この数字を見て「こんな数維持できるわけない」と思いましたが、戦時であればこういう事もありうるかなとちょっと思いました。
ただ、同国人のみで構成される軍隊ではなく被占領国の国民がかなりの数入ってやっと2000万人なので言葉や文化の違う混成部隊となるわけで必然、まとまりが無く忠誠心も薄い頭数だけの軍隊になる事は簡単に想像できます。
そしてその兵站の維持がどれだけ大変かを考えるとまともに機能するのかは疑問。
頭数は集まってもまともに動かない軍隊が出来上がる気がする。
では、ここからは色々と浮かんだ疑問の一部をまとめてみます。
①最初に起こった石油価格高騰の理由がいまいち不明
②その石油価格高騰に端を発した大規模な世界的経済破綻が、北朝鮮にはそれほど影響を与えていない事の理由がはっきりしていない。
元々、先進技術や石油を必要とした世界経済に北朝鮮が組み込まれていないからと言われれば分からんでもないですが、統一した韓国や東南アジア、日本はそこにどっぷり浸かっているので影響が無いはずはないと思われますが。
③米軍事技術が日本から入って来たとの記述がありますが、北朝鮮占領下の日本への貿易をアメリカがするとはちょっと思えない。
一応、そんな事言ってられない状況だからともいえなくないけど…
④日本が一発の銃弾を撃つ事も無くあっさり降伏すると言う箇所は日本をバカにしてるように見えますな。
⑤中国、ロシアが何をしていたのか良く分からない。
⑥1発のEMPでNORADなどの軍事拠点を含む米全土が壊滅的被害を蒙るとは思えないんですが。
などなどです。
と言うわけでこういった多くの疑問を内包した小説と言うわけです。
ここからは持論です。
アイディアを膨らませて物語を作るのが小説。
だから現実味が無い事でも小説内ではありうると考えて読むもの。
著者はそのアイディアを読者に納得させるテクニックを駆使して物語を紡ぎだす。
そして読者はそのテクニックにうなりひざを打ちうやられたと思い、ページをめくる。
それが面白い小説だと思います。
ただ、その場合、少なくともその物語世界ではつじつまの合う説明がなされていなければ読者は納得できず先に進めない。
本書では北朝鮮がアメリカを占領するという突拍子も無いアイディアまではすばらしいが、北朝鮮がアメリカを占領するまでに肥大化する理由の説明があっさりしすぎているため、納得できません。
そのため、もやもやしたまま先を読み進める事になる。
結果本書の評価は低くならざるを得ない。
本来、北朝鮮のような後進小国がアメリカのような先進超大国に戦いを挑むほどに強大になる過程の方が面白いと思いますが、読者を納得させるような説明が出来なかったんだろうな。
問題は本書の解説。
この説得力の乏しさを補うために東日本大震災を持ち出しています。
このような”想定外”の大災害が現実に起こりうるのだから本書で取り上げているような状況もあながち夢物語とは言えない。
簡単に言ってしまえばこういう論法ですが、こんな解説は卑怯だと思います。
なので、この解説部分は読まない方が良いと考えます。
色々厳しい事を書いてますが、それなりに面白いところもあったんじゃないかなぁ。
どことは言えませんが(^^;
そもそもゲームのノベライズですし、結果どうなったかは本書では語られず、続きはゲームでやってくれと言う印象ですしね。
ただ、かつてアメリカの出版界がソ連を徹底的に悪の大国としてアメリカが正義の鉄槌を下すという小説を嫌と言うほど発売してきた事を考えると、今度はその矛先を北朝鮮にしてアメリカ国民や同盟国に対して反北朝鮮思想を植え込むプロパガンダという位置づけもあるんだとしたら、本書の価値は少しばかりはあるとも言えますなぁ。
とにかく色々考えさせられた事は確かだし、色々調べものもした事ですんで、それなりに成果のあった読書経験ではありました。

※改行などが詰まって見づらくなって申し訳ありません。