2003年発表。
文庫1冊、359ページ
読んだ期間:3日


注意:今回のレビューには本書の確信部分を完全に含んでいます。知りたくない方は適当なところで読むのを止めてください。



[あらすじ]
中国・インド・パキスタンの核戦争がなんとか終了した後、イスラエルでは預言者と名乗る二人の人物が暗躍を始める。
ヨハネとコーエンと名乗る二人は、彼らを信奉するKDPと呼ばれる信者に囲まれ、これから地球上に数々の災いが降り注ぐと予言。
それは「ヨハネの黙示録」の再現だった。
そしてまもなく、地球に向かって飛来する3つの小惑星が発見される。
詳細な調査の結果、3つのうち先に飛来する2つは地球をかすめるだけで終わるが、最後に飛来する最も大きな小惑星が地球に激突する事が判明。
人類に残された道はわずかに残った核ミサイルによる迎撃だった。
核ミサイルの発射は計画通り進み、小惑星の軌道も計算通り。
全てうまくいくと思った矢先、第1の小惑星の軌道が突然変わり南北アメリカ大陸をすれすれにかすめ、その衝撃波により地上の都市は壊滅的打撃を受ける。
さらに第2の小惑星の軌道もずれ、日本の四国沖に墜落。
想像を絶する大津波が世界各国の太平洋沿岸諸都市を水の下に飲み込んだ。
第3の小惑星の撃墜はあっさり成功し、いくつかの破片が地球に降り注いだだけで済んだ。
しかしその後、世界各国で謎の病気発生。
調査によりそれは砒素中毒である事が判明。
第3の小惑星の組成の多くに砒素が含まれていたのだった。
第3の小惑星はワームウッドと名づけられていた。
その意味はニガヨモギだった。

イスラエルの預言者の予言通りに惨事が立て続けに起こる事態を招いていても、国連はクリトファーを中心に救済措置を取り、人類はギリギリのところで耐え忍んでいた。

そんな中、手のひらほどもあるイナゴ状の虫の大群が人々を襲う事件が発生。
激烈な痛みを与える虫の針により、人々は倒れていく。
イナゴの毒はあらゆる薬剤の効果を無効にし、安楽死のための薬剤さえも効かず、人は毒の効果が消えるまでひたすら気も狂わんばかりの痛みに耐えるしかなかった。
クリトファーの養父でスポークスマンを務めるデッカーも虫に刺され死も許されない痛みに耐えていたが、見舞いに来たクリストファーの一撫でにより完全治癒する。

虫の大群が急に消えた後、イラクでは人の目には見えない邪悪ななにものかに取り憑かれた人々が無差別にお互いを殺しあう事件が発生。
親が子を、子が親を、親友が親友を殺す異常な事態は同心円状に急速に広がり、8億もの人々が死亡する。

国連では事態収拾のため、空席となっていた事務総長の座にクリストファーを据える事を決めるが、演説の際にクリストファーが凶弾に倒れる。

3日後、国連葬を執り行う直前にクリストファーが復活。
自らの責任と能力に完全に目覚めたクリストファーは人類救済のため、問題の地、イスラエルに向かう!


ジェームズ・ボーセニューの問題の3部作の内の第2部「キリストのクローン/真実」がやっと発売されました。
前作の第1部「キリストのクローン/新生」では、聖骸布から採取された真皮細胞からクローニングされたクリストファーの成長の様子と地球規模で起こる大災害が描かれていましたが、本作でも空前絶後の大災害が地球と人類に襲い掛かります。

本作のテーマは「黙示録の再現と救世主の復活」。

本作前半は小惑星の地球衝突と言う切り口で黙示録の第1のラッパ(血の混じった雹と火)、第2のラッパ(火の塊が海に投げ入れられる)そして第3のラッパ(ニガヨモギによる水の汚染)と、この影響による火山活動の活発化による天候悪化=第4のラッパの実現が描かれます。
この箇所は細かな数字を多用し(数字の正確さは確認できませんが)、事実を淡々と報告するドライな文体で描かれており、それが恐怖感をいや増す結果になっています。
特に第2の小惑星による大津波のシーンは、東日本大震災での津波映像が頭にこびりついている日本人としては、空想では済まない現実感が感じられ、ゾッとします。
「水が苦くなる」という予言にどんな解決策を用意しているかと思っていたら、惑星の組成に砒素が混入しているという設定は中々ひねっていると言う印象。
この惑星の名前の意味がニガヨモギとなる下りもちょっと笑えました。
地球に小惑星が降ってくるという話は色々と今までも語られて来ましたし、映画でも良く取り上げる題材ですが、3つ同時に飛来してそれぞれがそれぞれなりの大被害をもたらすという規模の大きさはちょっと珍しいと思います。

その後の黙示録再現はいきなるオカルティックなものに様変わりします。
前半は小惑星を使ったSFでしたが、この急激な展開の変化は最初非常に違和感があります。
2人の預言者による超能力の描写(人体発火、テレポート)から始まり、イナゴの大群、魔物の憑依。
前半の数学的、天文学的な解説からここへ来ていきなりの精神論?超自然?
なので、本書のレビューをする時はここの所をツッコんでおこうと思いましたが、それが後でクリストファー自身が語る真実で理由が語られると思わず「そう言われると納得しなければいけない」とひざを屈しました(^^;

そのクリストファーの復活後の語りですが、約40ページに渡る怒涛の解説となっています。
この強引な展開は、巻末の解説でも”バランスを欠いてると思われても仕方ない”と書かれている通り、普通の小説なら「無理があるいやろ!」とツッコむところですが、あまりの迫力に無理やり納得させられてしまいます。

「はるか昔、シータ人は究極の進化の末、肉体のくびきから開放され精神生命体となり、時空超えた超越者となった。
彼らは自分達の歩んだ道を通るであろう知的生命体を探し宇宙に散って行ったが、その中の一人、ヤハウェは自らの傲慢から自分を崇める存在を求め地球に飛来。
神と名乗って人類を支配しようとした。
地球を観察していたシータ人ルシファーはこれを阻止しようとしたがかなわなかった。」

実は神と悪魔の関係は全く逆だったという真実が語られます。
いかにヤハウェが尊敬に値しない存在かと言うことを聖書の言葉を引用しながら怒りを込めて説明していくクリストファー。
このあたり、わたし個人はものすごく共感しました。
わたしも以前、聖書やヨハネの黙示録の解説本を読んで、「ここの書いてあるのが本当に神様なの?」と疑問に思ったものでした。
あまりにも身勝手で猜疑心が強く言う事がコロコロ変わり情け容赦ない神。
これって人の嫌な面を集めた存在ではないかと思ったりしました。
それと全く同じことが書いてあったのには驚きました。
これをアメリカで出版するとは、ボーセニューと出版社はなんと胆の座った人々なんだろう。

小惑星衝突の後の急なオカルティック展開の理由もここで解明されます。
あきらめない人類にあせったヤハウェがなりふりかまわず超常現象を起こしたからと言うのがその理由。
そう言われてしまうと、最初に思った違和感も納得せざるを得ません。

ちょっと引っかかるところもあるにはあります。

シータ人が精神生命体への進化により時空を超える超越者(?)になったと言う設定は、まぁありがちだし、クリストファーが語る人類が次のステップに進むための準備の一例として挙げている、フリーメイソン、ブラヴァツキー夫人、サイエントロジー、スター・トレック、スター・ウォーズ、エドガー・ケイシー等などについては、「ちょっとそれが?」と言う疑問が沸き、一気にトンデモ系に飛んで行ってしまった感もあります。

しかしそれを持ってしても、ここのくだりの異常な迫力は圧巻です。
デッカーが実はユダの生まれ変わりで、実際はユダは裏切り者ではなく、キリストの最大の信奉者だったとか、その流れにおいて、デッカーがクリストファー暗殺に手を貸したかのような状況(暗殺者がデッカーの親友で彼を会場に招いてしまった)もちゃんと練っていると思います。

そしてラスト、二人の預言者を瞬時に始末し、数々の奇跡を一気に見せながら人類に自らの力を持って人類の進化を促す姿には、本当にこれが救世主なのかとの疑問も生まれます。

何にしても3部作完結篇「Act of God」が発売されなければ全ての真実までたどり着けません。
前作・本作それぞれの巻末解説に、「読者があっと驚くラストが待っている」と書かれているため、本当にどっちに転ぶか分かりません。
本書は中間部に位置する第2部で、第1部の半分ほどのボリュームしかありませんが、内容の密度と展開の激烈さにおいて第1部をはるかに凌駕していると思います。
今、この段階では今年読んだ本の中のベスト1に押したいと思います。
完結編がいつ出版されるのか分かりませんが、とにかく早く続きが読みたい。
「まさかそんな!?」と言う事になるかも知れませんが、期待はいやがうえにも高まるというものです。
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