2001年発表。ジョン・W・キャンベル記念賞受賞。
文庫1冊、483ページ
読んだ期間:3.5日
[あらすじ]
2021年。
タイでプログラミングの仕事をしていたスコット・ウォーデンは悪友のヒッチ・ペイリーに誘われてある騒動が起こっている森に向かう。
そこで見たものは、一夜のうちに突如現れた天を衝くほどの巨大な尖塔だった。
そして、その尖塔の台座部分にはある言葉が刻まれていた。
その内容は、2041年12月12日、タイ南部とマレーシアがクインと言う名の何者かの支配下に置かれたと言う予言めいた言葉だった。
マスコミはその尖塔を、”時(クロノス)”と”石(ソリス)”を合わせた造語、クロノリスと命名し、世界に報道した。
その後、アメリカに戻ったスコットはTVで2つめの尖塔が出現した事を知る。
それは1つめのものより巨大で、クインらしき人物の象が刻まれており、さらに決定的に異なっていたのはそれが都市部に現れた事だった。
それは出現の際、超低温衝撃波を生じさせる事で周囲を徹底的に破壊したため破壊型クロノリスと呼ばれた。
この破壊型クロノリスはその後、中国、日本にも出現、アジアは大打撃を受ける。
そんな時、スコットはある意外な人物から協力を申し込まれる。
それは大学生時代、スコットが師事した女性理論物理学者スラミス・チョプラだった。
いまやクロノリス研究の第一人者となっていたチョプラは、かつての教え子であるスコットが最初のクロノリスの目撃者であった事に大きな因縁を感じ、そのため彼を求めたのだった。
クロノリスとの否応無い関係に戸惑いながらもスコットはチョプラの申し出を受ける。
それはスコットは人生に大きな影響を及ぼす事になるのだった…
「時間封鎖」3部作のウィルソンが、「時間封鎖」の4年前に発表した作品。
本作も時間を扱った作品になってます。
前回読んだパオロ・バチガルピの「ねじまき少女」の舞台がタイで、本作も最初はタイからのスタートなのは意外な偶然。
発表時期が全然違う、たまたま邦訳時期が重なっただけですが、何かしら因縁を感じる…
それはさておいて本書の話。
本書はスコット・ウォーデンと言うごく普通の男の回顧録と言う形をとっています。
題材的には時間を扱ったハードSFに思われそうですが、物理学者でもない一介のプログラマーの回顧録のため、難しい理屈はほとんど出てきません。
どちらかと言うと、SF色40%人間ドラマ60%くらいの作品です。
なので、難しいのはちょっとと言う人には受け入れやすく、ハードSFファンの人には物足りない作品かと思いますが、だからと言ってつまらないわけではありません。
本書では時間SFで乗り越えなければならないタイムパラドックスを回避する理屈はあいまいにしています。
未来にいるであろう支配者クインは、その支配力の象徴であるクロノリスを過去に送り付ける事により、過去の状況を自分のこれからの権力掌握に良い影響を及ぼさせようとします。
過去の人々(スコットたち)はその科学力と破壊力を目の当たりにし恐怖と崇敬の念を強くします。
マスコミはこれを大々的に報道し、その意識をさらに全世界に広め、世界はクイン信奉者のクイニストと反クイニストの2派に別れ対立を深めていく。
次々と送り込まれるクロノリスはその偉容さをさらに大きくし、都市を破壊していく。
それがさらに世界の対立を深めていく。
この未来からの干渉とそれに対する過去のフィードバックループにより、クインは絶対権力者の道を確実にしていく…
こんな流れが本書のテーマの簡単なまとめです。
最初のクロノリス出現の時点で未来はパラレルワールドを1枚使ってそれが徐々に増えていく気がしますし、2021年にも存在するであろうクインは未来の自分が行っている行為とどのように折り合いをつけているのかとか、色々と未消化なところがあります。
それが気になると本書は楽しめないと思いますが、初めに書いたように本書はあくまで一人の男の回顧録なのでそこは割り切って彼の人生を辿っていく事を楽しめば良いかと思います。
実際、スコットの家族関係(離婚→一人娘の家出→捜索→発見→和解→新たな出会いと別れ…)があたりまえながら中心に据えられているので、ちょっと退屈なところもありますが、時間と言う因子を因果律であらわそうとしているところがあるので、スコットの人生そのものが重要な因果律にもなっているため、省いて読んではその意味がなくなるというカラクリにもなっています。
そう思うと色々と深いし、実験的な作品でもあります。
この回顧録を執筆しているスコットは70歳過ぎ。
既に最初のクロノリスに記された2041年は過ぎ去っています。
人生の晩年を迎えた一人の男が、自分の子供や孫の世代に残すため、自分の経験を淡々と書き記す物語。
当初、暗く投げやりな印象を持つ文章が、多くの経験を積みながら徐々に重みを加え、全ての乗り越え達観したかのような印象で終わる、ちょっと味のある小説です。
ちなみに気になる「時間封鎖」3部作の完結篇「Vortex」は今年夏刊行予定。
邦訳版はいつでるのか、楽しみです。

文庫1冊、483ページ
読んだ期間:3.5日
[あらすじ]
2021年。
タイでプログラミングの仕事をしていたスコット・ウォーデンは悪友のヒッチ・ペイリーに誘われてある騒動が起こっている森に向かう。
そこで見たものは、一夜のうちに突如現れた天を衝くほどの巨大な尖塔だった。
そして、その尖塔の台座部分にはある言葉が刻まれていた。
その内容は、2041年12月12日、タイ南部とマレーシアがクインと言う名の何者かの支配下に置かれたと言う予言めいた言葉だった。
マスコミはその尖塔を、”時(クロノス)”と”石(ソリス)”を合わせた造語、クロノリスと命名し、世界に報道した。
その後、アメリカに戻ったスコットはTVで2つめの尖塔が出現した事を知る。
それは1つめのものより巨大で、クインらしき人物の象が刻まれており、さらに決定的に異なっていたのはそれが都市部に現れた事だった。
それは出現の際、超低温衝撃波を生じさせる事で周囲を徹底的に破壊したため破壊型クロノリスと呼ばれた。
この破壊型クロノリスはその後、中国、日本にも出現、アジアは大打撃を受ける。
そんな時、スコットはある意外な人物から協力を申し込まれる。
それは大学生時代、スコットが師事した女性理論物理学者スラミス・チョプラだった。
いまやクロノリス研究の第一人者となっていたチョプラは、かつての教え子であるスコットが最初のクロノリスの目撃者であった事に大きな因縁を感じ、そのため彼を求めたのだった。
クロノリスとの否応無い関係に戸惑いながらもスコットはチョプラの申し出を受ける。
それはスコットは人生に大きな影響を及ぼす事になるのだった…
「時間封鎖」3部作のウィルソンが、「時間封鎖」の4年前に発表した作品。
本作も時間を扱った作品になってます。
前回読んだパオロ・バチガルピの「ねじまき少女」の舞台がタイで、本作も最初はタイからのスタートなのは意外な偶然。
発表時期が全然違う、たまたま邦訳時期が重なっただけですが、何かしら因縁を感じる…
それはさておいて本書の話。
本書はスコット・ウォーデンと言うごく普通の男の回顧録と言う形をとっています。
題材的には時間を扱ったハードSFに思われそうですが、物理学者でもない一介のプログラマーの回顧録のため、難しい理屈はほとんど出てきません。
どちらかと言うと、SF色40%人間ドラマ60%くらいの作品です。
なので、難しいのはちょっとと言う人には受け入れやすく、ハードSFファンの人には物足りない作品かと思いますが、だからと言ってつまらないわけではありません。
本書では時間SFで乗り越えなければならないタイムパラドックスを回避する理屈はあいまいにしています。
未来にいるであろう支配者クインは、その支配力の象徴であるクロノリスを過去に送り付ける事により、過去の状況を自分のこれからの権力掌握に良い影響を及ぼさせようとします。
過去の人々(スコットたち)はその科学力と破壊力を目の当たりにし恐怖と崇敬の念を強くします。
マスコミはこれを大々的に報道し、その意識をさらに全世界に広め、世界はクイン信奉者のクイニストと反クイニストの2派に別れ対立を深めていく。
次々と送り込まれるクロノリスはその偉容さをさらに大きくし、都市を破壊していく。
それがさらに世界の対立を深めていく。
この未来からの干渉とそれに対する過去のフィードバックループにより、クインは絶対権力者の道を確実にしていく…
こんな流れが本書のテーマの簡単なまとめです。
最初のクロノリス出現の時点で未来はパラレルワールドを1枚使ってそれが徐々に増えていく気がしますし、2021年にも存在するであろうクインは未来の自分が行っている行為とどのように折り合いをつけているのかとか、色々と未消化なところがあります。
それが気になると本書は楽しめないと思いますが、初めに書いたように本書はあくまで一人の男の回顧録なのでそこは割り切って彼の人生を辿っていく事を楽しめば良いかと思います。
実際、スコットの家族関係(離婚→一人娘の家出→捜索→発見→和解→新たな出会いと別れ…)があたりまえながら中心に据えられているので、ちょっと退屈なところもありますが、時間と言う因子を因果律であらわそうとしているところがあるので、スコットの人生そのものが重要な因果律にもなっているため、省いて読んではその意味がなくなるというカラクリにもなっています。
そう思うと色々と深いし、実験的な作品でもあります。
この回顧録を執筆しているスコットは70歳過ぎ。
既に最初のクロノリスに記された2041年は過ぎ去っています。
人生の晩年を迎えた一人の男が、自分の子供や孫の世代に残すため、自分の経験を淡々と書き記す物語。
当初、暗く投げやりな印象を持つ文章が、多くの経験を積みながら徐々に重みを加え、全ての乗り越え達観したかのような印象で終わる、ちょっと味のある小説です。
ちなみに気になる「時間封鎖」3部作の完結篇「Vortex」は今年夏刊行予定。
邦訳版はいつでるのか、楽しみです。
