1979年発表。
文庫1冊、471ページ
読んだ期間:4.5日


[あらすじ]
はるかな未来。
機械文明は崩壊し、さまざまな遺物のなかで、独自の文化が発達した世界。
少年<しゃべる灯心草>は、みずからの旅の顛末を語りはじめる。
聖人になろうとさまよった日々、<一日一度>と呼ばれた少女との触れあい、<ドクター・ブーツのリスト>との暮らし、そして巨大な猫との出会い-
そこからじょじょに浮かびあがってくる、あざやかな世界。
彼の物語は、クリスタルの切子面に記録されていく…


今回、あらすじは裏表紙の文面をそのまま流用させていただきました。
本書は主人公の17歳の少年<しゃべる灯心草>が、その人生の中で経験した事柄を”天使”と呼ばれるかつて栄光と反映を謳歌した人類の末裔に語る物語です。
なので、乱暴に言えば日記のようなもの。
さらに言うと、本書は1回読んだだけでは中々理解できないものであります。
何度も読んで徐々に理解を深めていく類のものです(巻末の訳者あとがきでも誤解する人がいるので結末の解説があるくらい)。

なのでここからは、まだ1回しか読んでないわたしの表面的に理解した内容をまとめていきます。

設定としては1000年後あたりの未来の地球。
<嵐>と呼ばれる地球規模の大災害と、それに続く混乱と戦争により、宇宙規模の反映を誇っていた人類はその数を大きく減らし、宇宙空間へ退避していったグループ(”天使”と呼ばれている)と地球に残った人類に分かれています。
地球に残った人々は科学技術を喪失し、原始的な生活をしています。
時代が<嵐>からはかなり進んでいるため、かつての反映の時代は神話のように昔語りの中に存在し、当時の人々の事を”天使”と呼んでおり、いつか地上に降りてくると思われています。
主人公の<しゃべる灯心草>は地上に残った末裔の一人。
大変、素朴でやさしく穏やかな少年で、将来は伝説的な語り部である聖人になりたいと思っています。
彼ら地上の末裔達は「系(コード)」という種族に分けられています。
<しゃべる灯心草>は「ささやき系」、他には「みず」「しめがね」「このは」「てのひら」「ほね」「こおり」など色々。
これが何を意味しているかは今のところちょっとわかりません。

<しゃべる灯心草>の父親は<七つの手>、母親は<ひとこと話す>、祖母が<そう伝えられる>、好きな少女が<一日一度>など、ちょっとアメリカ・インディアンっぽい名前になってます。

地上にはかつての人類が築いた遺物がたくさん残されています。
たとえば「道」。
いつまでもどこまでも続いているものでそれが作られた理由は「死ぬため」。
ここの上に自動車を走らせ事故を起こし毎年たくさんの人が死ぬ。
死ぬのが分かっているのにそれをやめなかった不思議な建造物が「道」と解釈されています。
「おかね」も残っていますが、使われているのではなく遺物としてだけ。
これをたくさん集めるために戦ったりだましたり仕事したりする変なもの。

こういった、現在または未来に存在するだろう機械文明の遺物などに独特の解釈をしているのも本書の特徴です。

<しゃべる灯心草>が好きな<一日一度>が旅だった後、彼も旅立ちます。
3年間の旅の中で彼は色々な人々と会い、色々な経験を積みます。
”天使”たちが打ち上げたプランターと呼ばれる外宇宙探査機の残骸との遭遇。
プランターは宇宙を探索し、外惑星の植物の種を持ち帰るも報告する相手である地球人は地上から消えており、地上にその種を蒔き使命を終えています。
<一日一度>と再開し、しばらく一緒に過ごした後、再び姿を消す彼女。
また旅を再開する<しゃべる灯心草>は故郷であるリトルベレアに戻る途中、パラシュート降下してきた男に遭遇。
彼、モンゴルフィエに誘われ、彼の住んでいる空の都市<ラピュタ>に行くことを決意した<しゃべる灯心草>は”球体”の中に入って行く。

そして今、<しゃべる灯心草>は”天使”の一人に自分の経験を語っている。
自分の経験と思いを、別の体を通して。
何回、同じことを語っているのか、あれから何年経っているのか分からない。
彼はなりたかった聖人になれたのか…

全然まとまってなくて申し訳ないですが、とにかく不思議な物語です。
文体は平易で単純、やさしく穏やかで非常に読みやすいですが、奥深いストーリーです。
<しゃべる灯心草>が常にやさしい少年であるがゆえに、彼の現状が果たして幸せなのか、自分の境遇がある程度分かりながらも語る事でしか自分を表せないせつなさがじわりと伝わり、最後に静かな感動と哀しみに包まれる。
そんな物語でした。
じっくり何度も読む時間のある人にお勧めの本です。
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