1953年発表。第1回ヒューゴー賞受賞。
文庫1冊、380ページ
読んだ期間:3.5日


[あらすじ]
24世紀。
太陽系に広がり活動していた人類にひとつの変化が現れた。
人の心を読む能力、超感覚テレパシーを持ったエスパーの出現だった。
彼らは徐々に数を増やし、社会に浸透していった。
その結果、ある変化が訪れた。
殺人事件の絶滅だ。
人に対して強烈な殺意を抱く者は、身近にいるエスパーにそれを察知され事前に防止されてしまうからだ。
これにより70年間、殺人事件は起こっていない…

ベン・ライクは巨大企業モナーク物産の社長に君臨する男だったが、2つの問題を抱えていた。
一つは夜毎、夢に現れる「顔のない男」。
もう一つは敵対企業ド・コートニー・カルテルの台頭。
超感覚第2級の精神科医の診察を受けても「顔のない男」の正体は分からず、ド・コートニー・カルテルに圧倒されつつあるライクは苦肉の策としてド・コートニー社長へ協定を申し込むが、その結果はNOだった。
追い詰められたライクはド・コートニー社長殺害をもくろみ、超感覚第1級の精神科医オーガスタス・テイトを抱き込み、70年ぶりの殺人事件を成功させる。
しかし、そこに落とし穴があった。
殺人現場をド・コートニー社長の娘、バーバラに見つかってしまったのだ。
バーバラを逃したライクは必死に彼女の後を追うが、超感覚第1級捜査官、リンカン・パウエルが立ちはだかる!

「虎よ、虎よ!」が結構面白かったので、今回はベスターのSF処女長編で第1回ヒューゴー賞受賞作品でもある本作を読んでみました。
「虎よ、虎よ!」ではジョウントと呼ばれるテレポート能力が使われましたが、今回はテレパシーです。
このテレパシーは第1級から第3級の3段階に定義付けされてます。
第3級は人が考えている事が読める能力。
第2級は人の深層心理の表面を読む能力。
第1級は人の深層心理の奥深くまで読む能力。
第1級を頂点にピラミッド構造を描く能力者たちがぞれぞれの能力を生かして活動している世界が舞台です。

主人公のベン・ライクはテレパシー能力を持たない一般人で、世襲で社長となった非常に傲慢な男。
これに対するリンカン・パウエルは第1級の能力者で、この二人の攻防戦がテーマ。
テレパシー能力者をいかにだますかのテクニック(頭の中にこだまするような”歌”を繰り返すとか)に加え、完全犯罪への用意周到な準備と実戦、それを覆すための警察の作戦など、実にさまざまな仕掛けがしてあります。
中には読者向けの仕掛けもあり、読み返すと「あぁ、確かにそう書いてあった」と気づかせる部分があったり、ぼんやり読んでいられない面白さがあります。
警察が起訴に持ち込むにはモーズ老とあだ名されるコンピュータの承諾が必要で、「機会」「方法」「動機」の3本柱が完璧に整合性を持って立証されないと起訴に持ち込めないため、パウエルがこれに四苦八苦するところなんかも読み応えがあります。

謎の「顔のない男」の正体も含め、ライクと言う人間の意外な過去が明らかになるラストも「虎よ、虎よ!」の意外性につながるものがあり、先が読めない面白さのある小説です。

タイトルの「分解」と言う言葉は「DEMOLISHED」の訳語ですが、「取り壊されてバラバラにされる」と言う意味で、作品世界の中では人格・記憶レベルで人間を再構成する処置になります。
誰がそうなるかは読んで見てください。

面白い小説ではありますが、非常に残念な事があります。
それは翻訳がものすごく古い事。
まるで時代劇でも読んでいるかのようなセリフが大量に出てくるので、全くSFっぽく感じられない時があります。
わたしが読んだのは東京創元社の創元SF文庫、2010年の29版でしたが、1965年の初版から全く変わってないらしい。
今、新たに翻訳をし直せばもっと面白い小説になったと思うんですが…
その分がマイナス要因です。
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