1985年発表。
文庫2冊、711ページ
読んだ期間:6日


[あらすじ]
地球外知的生命体探査、SETI。
地球外から送られてくる知的生命体のメッセージを受信しようとするこのプロジェクトの一翼を担う、「アーガス計画」の責任者、エリー・アロウェイは、これと言った成果を得られぬ事で上司のドラムリンから厳しい圧力を掛けられていた。
そんな時、地球から26光年離れたこと座のヴェガから送られて来た電波信号の中に、明らかに自然とは異なるメッセージを見つける。
それは素数の羅列だった。
ついに受信した地球外知的生命体のメッセージに色めき立つエリー以下の科学者たち。
さらにそのメッセージを解読すると予想外の映像が浮かび上がった。
それは1936年、ベルリンオリンピックの開会宣言を行うアドルフ・ヒットラーの映像だった。
人類の歴史上、初めて大々的に行われたTV放送の映像は、26年かかってヴェガまで到達し、ヴェガから26年かかって送り返されて来た。
それだけではなく、続々と送られてくるメッセージには人間5人が乗る宇宙船らしき「マシーン」の設計図が含まれている事が判明。
人類は初めてひとつとなってその「マシーン」の製造に取り掛かる。
アメリカとソ連で製造が開始された「マシーン」は、技術的問題で立ち遅れるソ連を尻目にアメリカ側で起動実験が行われる。
人類代表5人の中に選ばれる事が出来なかったエリーだが、代表に選ばれたドラムリンたちと共に実験の見学に向かうが、これに反対するテロリストの仕掛けた爆弾により実験は失敗。
「マシーン」は破壊され、その際にドラムリンが絶命する。
「マシーン」製造はここまでかと思われた矢先、製造に携わっていた大企業、ハッデン・サイバネティックスの総帥、ソル・ハッデンはひそかに作り上げられていた「マシーン」予備機ともいえる存在をエリーに教える。
ドラムリンの代わりとして5人に選ばれたエリーは、北海道にあるもうひとつの「マシーン」に乗り込む。
ついに起動される「マシーン」
エリーたち5人には何が待ち受けているのか?

カール・セーガンの処女長編小説です。
これは1997年にジョディ・フォスター主演で映画化もされたので知ってる人も多いと思います。
わたしは映画が先で小説はやっと今、読んだわけですが、最初映画を観た時は「何これ?」という印象でした。
特に大きな盛り上がりがあるわけでもなく、現れた異星人は人間の姿。
肩透かしくらった気がしてました。

本書は映画とは人物設定が若干異なる以外はほぼ映画と同じではあります。
生粋の小説家ではないセーガンの書きぶりは、非常に淡々としており物語としての怒涛の展開や手に汗握るスペクタクルなどは入っていません。
やはり事実を正確に記述する、科学者らしい文章と言えるかも。
なので、そう言ったものを期待する人にはあまり向かない小説だと思います。

案外あっさりと冷戦の垣根が取り除かれ、米ソが手を取りメッセージ解読と「マシーン」製造に取り掛かる様は、セーガンらしい楽観があるように思われます。

ただ、3段階に暗号化されたメッセージの解読や、「マシーン」がたどる旅の過程など面白い箇所はたくさんあります。
セーガンの小説という事で、難しい天体物理論が入って来て、難しい理屈で読む者を幻惑する、と言う事は一切ありません。
そもそもセーガンは科学を一般の人たち広めたいと願っていた人物なので、そういう小難しい話はありません。
大変読みやすい小説になっています。
(5人の中のひとりに重力・電磁力・核力を統一した超統一理論を完成された科学者というのが出てきますが、それなどは本来ならかなり重要なテーマになり深く掘り下げられそうなネタですが、こういう理論が完成しましたとあっさり語られるだけになってます。
これを掘り下げて行くと普通の読者は着いて来れなくなりそうだから省いたのかと)

映画ではジョディ・フォスター演じるエリーの恋人役になっていたマシュー・マコノヒー演じるキリスト経ファンダメンタリストのパーマー・ジョスは本書では全くそんな関係とは無縁ですが、本書の目的のひとつははるか昔から対立していた宗教と科学の和解と協力があります。
二人のやり取りとメッセージの送信者(はっきりと何者かは明かされてはいません)が語る、超越者と思われる何者かの残した暗号の話が意義深い。
たとえば円周率。
永遠に続く数列であるこのπもはるかかなたの桁数まで到達すると何らかのメッセージとしか思われない数列に行き当たると送信者は言います。
これはそこまでの桁数まで到達できるほどの科学技術に到達したものだけが触れる事が出来る、”神”から贈られたメッセージのよう。
さらに円周率だけではなく他の超越数にもそう言ったメッセージがこめられているかも知れない。
宇宙を統べるものがそこに何かの思いを込めたかのような。
今の所、円周率の計算桁数は兆の単位までですが、本書で語られた10の20乗桁まで計算できたらそこにはどんな数字が現れるのか。
単純にギネス記録程度の興味しかないのが一般的だと思いますが、本書を読むとこの挑戦には別の意味があるように思えて来ます。
これだけでも、セーガンが目指していた科学的思考の広がりの一端に触れられたのでは。

始めの方で物語性が希薄という意味の事を書いていましたが、エリーの家族関係についてのちょっとした仕掛けがラストに準備されており、これはいいスパイスになっています。
ちなみに映画の印象は、本書を読んだ後で観直したところ、全く違ったものになりました。
エイリアン物というとどうしても人類対異星人の印象が強いですが、この映画のようなものもありだなと思い直しました。

いつか本当に地球外知的生命体からのメッセージが届くのではないか?
そんな夢を持ってもいいじゃないか。
そう思わせるヒューマンSF小説でした。

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