1997年発表。
文庫2冊、654ページ
読んだ期間:4日
[あらすじ]
ジャーナリストのデッカー・ホーソーンはかつての恩師グッドマン教授から、あるプロジェクトへの協力を依頼される。
そのプロジェクトとは、イエス・キリストの遺骸を包んだとされる、トリノの聖骸布の詳細調査だった。
そこで発見されたのは人間の真皮細胞。
しかもそれはまだ生きていた。
その後、C14年代測定法により聖骸布の繊維が1260~1390年代のものと判明し、聖骸布は後世の何者かの創作と思われたが、グッドマン教授はひそかに真皮細胞を使った実験を行っていた。
12年後、グッドマン教授の元を訪れたデッカーは一人の少年と出会う。
クリストファーと名乗る11歳の少年は、聖骸布に残っていた真皮細胞から作られたクローンだった。
グッドマン教授を問い詰めるデッカーだったが、近く再会し相談する事にし、取材先のイスラエルに赴く。
テロが激化するイスラエルで、カメラマンのトム・ドナフィンと共にある家族の取材に向かったデッカーたちは何者かに拉致されてしまう。
そして3年後、夢の中に現れたクリストファーに導かれ、ついに脱出に成功したデッカーたちは、たまたま通りかかったイギリス国連大使ジョン・ハンセンに助けられる。
再会を喜ぶデッカーとその家族だったが、想像を絶する悲劇が彼らを襲う。
そのとき、突然、全世界の人々の10%ほどが突然死してしまうという<大惨事>が発生。
妻と娘達を失ったデッカーの元に、保護者であるグッドマン教授夫妻を喪ったクリストファーが訪れ、一緒に住むことになる。
世界的な大混乱の中、急激に発言力を増していく国連だったが、イスラエルとアラブ諸国の対立はさらに激化。
ついに戦争状態に突入する。
見事な協力体制をとるアラブ諸国に圧倒されるイスラエル。
その時、ロシアがイスラエルに侵入。
平和維持を名目にイスラエルを占領してしまう。
イスラエルのレジスタンスは、イスラエル軍の戦略システムをロシアから奪還し、ロシア駐留軍に対して中性子爆弾による核攻撃を実行。
反撃に出たロシアは自国から戦略核ミサイルを発射。
しかしそれは目的の場所では爆発せず、発射直後になぜか全てが爆発。
ロシアは事実上、崩壊してしまう。
世界的な責任の中心になった国連では、ジョン・ハンセンが事務総長に就任。
彼の広報担当に任命されたデッカーと共に国連を訪れたクリストファーを一人の老人が見つめる。
「彼だ。わたしにはわかる。」
混乱を極める世界情勢の中、キリストのクローンであるクリストファーに何が待っているのか…
本書は「キリストのクローン」3部作の第1部に当たる、ジェイムズ・ボーセニューのデビュー作になります。
著者のジェイムズ・ボーセニューは元・アメリカ合衆国国家安全保障局の情報分析官で1980年には共和党の下院議員候補として、アル・ゴアと議席を争ったという経歴の持ち主。
そういったわけで、この第1部「~/新生」の中心は世界中に巻き起こる混乱と政争と戦争。
立て続けに起こる動乱と変動激しい世界政治に対する権力闘争。
なのでSFよりもポリティカル・スリラー・テイストが強い。
この手の小説を読むのはかなり久しぶりなのでちょっと新鮮だった。
この第1部では30年ほど経過します。
終わりの方ではクリストファーは30歳となり、国連安全保障理事会のイタリア代表まで登りつめます。
キリストのクローンたる彼が権力の座を登りつめていく過程が描かれるわけですが、こう書くと映画「オーメン」のダミアンみたいですが、クリストファーは今のところまじめで誠実な性格。
自分が成さねば成らない事を自覚し、決然とそれに臨む姿勢を表したクリストファーがこの後どのような行動にでるのか。
そして、彼を取り巻く人々、特に実はユダを落としいれキリストを磔にかけた張本人として登場する、2000年もの間生き続けて来た使途ヨハネとその仲間たち、育ての親となったデッカーとの関係などを踏まえて、最終戦争へと移行する第2部以降の刊行が待たれます。
元々、1997年に第1部が刊行された後、翌年までに第2部、第3部が刊行されているので既に10年以上も前に完結しているシリーズですが、発行元の移管があって今年邦訳文庫版が刊行されたという経緯があり、近々続巻も刊行される予定だとか。
東京創元社にはなるべく早めに続きを出して欲しいものです。
と言うわけで、まだこの第1部では評価が出来ないですが、とりあえず、つかみはOKです。
(題材が題材だけに1ページ目には著者から「これはあくまで小説ですんで」という大切なお知らせが書いてあります。宗教に疎い日本人にはピンと来ませんが、本気で苦情や圧力がかかるんでしょうね)
