2009年発表。

文庫2冊、824ページ

読んだ期間:6日




[あらすじ]

かつてのベトナム戦争反戦のシンボルだった女優、ジョーン・フランダースが何者かに射殺された。

その後、同じようにベトナム戦争の反戦活動に関わっていた3人が同じように射殺される。

4人とも遠距離からのライフルによる狙撃。

捜査を担当するFBI特別捜査官ニック・メンフィスは一人の容疑者にたどり着く。

彼の名はカール・ヒッチコック。

ベトナム戦争でトップ・クラスのスナイパーとして、一時期その世界で大きな尊敬を集めた男。

しかし、彼の戦果、93人の狙撃は、その後発覚した記録96人狙撃に抜かれ、ナンバー1の地位から引きずり落とされた。

自身の病気と妻の死に打ちひしがれたカールは狙撃記録更新のため、4人の狙撃を実行し、記録を97人とした。

そう確信したニックはカールを追い、遂に彼を見つけたが、既に自殺した後だった。

これで事件は解決と誰もが思ったが、ニックは腑に落ちない。

あまりにも綺麗に揃いすぎた証拠と結末。

ニックは親友であり元海兵隊の超一流のスナイパーであるボブ・リー・スワガーに協力を求める。

スワガーは独自の調査の結果、2つの不振な点に行き当たる。

一つはあまりにも正確すぎる狙撃。

もう一つは警察の狙撃部隊なら必ず知っているはずのガラス越しの狙撃に対する配慮の無さ。

スワガーは犯人は別にいると結論を下す。

そんな時、最初の被害者ジョーンの夫でアメリカ有数の大富豪、トム・コンスタブルから早急な事件収束を求める圧力がニックに降りかかる。

ニックはスワガーを正式な捜査協力者として雇い、捜査を継続するが…




前作「黄昏の狙撃手」から1年、再び我らがボブ・リー・スワガーが帰って来ました。

タイトルからして「蘇えるスナイパー」。

原題も"I, Sniper"とちゃんとスナイパーと入ってます。

「黄昏の狙撃手」の原題は"Night of Thunder"なので、本書は正にボブ・ザ・ネイラーの正統的な作品とも言えます。




そもそもこのボブ・リー・スワガー・サーガは本書を入れて全6タイトルになります。

前半3タイトルは正に傑作でした。

非常に詳細なライフルの知識、緻密な伏線、凝りに凝った展開、あっと驚くどんでん返し、スカっとするラスト。

その全てが驚異的に高度なレベルでまとめられた最高の冒険小説でした。

3作目の「狩りのとき」で一旦シリーズは終了しますが、8年後の2007年、突然続編が発表されます。

それが「四十七人目の男」。

あの超一流スナイパーであるボブ・リーが日本を舞台にチャンバラするという驚愕の展開を引っさげて…

全てのファンの度肝を抜いたこの作品で、ほとんどの人はこのシリーズは終わったと思わせた…

そして翌2008年に「黄昏の狙撃手」を発表。

邦題こそ”狙撃手”と入ってますが、どちらかと言えばボブの父親、アールが得意の銃撃戦主体の内容で、しかも誤字脱字が酷く微妙な残念さ漂う作品でした(以前ブログで紹介していますが、誤字脱字は編集側のせいですけどね)。

このシリーズも黄昏を迎えたか、と思った時に本書が出版されました。

タイトルは原題にも邦題にも”スナイパー”の文字。

いやが上にも膨らむ期待。

結果はと言うと、うん、まぁ蘇えって来たかな、と言う感じです。




前三部作に共通して流れていたライフルの知識や巧妙な伏線やどんでん返しは本書にもしっかりと流れています。

ボブ・リーが本来の土俵に足を掛けた作品です。

面白いとは思います。

しかし、前三部作を知っているものとしては、まだ足りないというのが本音。

本書のベースは「極大射程」。

「極大射程」では罠にはまったボブ・リーが単独で巨悪に挑むというものでしたが、本書で罠にはまったカール・ヒッチコックは命を落とし、代わりにボブが巨悪に挑むという変化球になってます。

また、本書にはiSniperというマイクロ・コンピュータ内蔵の超高性能ハイテク・スコープが登場しますが、若干無理やりながら「ブラック・ライト」に登場した高性能暗視装置と対を成すとも言え、さらに「狩りのとき」でボブの敵であったボンスンの影も見えます。

いわゆる前三部作の良いところをまとめた作品とも言え、良いようにとればハンターが原典回帰を目指したとも言えるのではないか。

これを機に本当に蘇えって欲しい→ハンター。




話を本書の感想に戻すと、ラストに向けての盛り上がりはうまいです。

スナイパー同士の、500ヤード離れて行う決闘の後のカウボーイ同士の拳銃での近距離の決闘の対比や、「極大射程」での逆転の裁判シーンを彷彿とさせる、ニックのどん底からの復活などは見事です。

(スナイパー同士の決闘についてはダン・シモンズ「ダーウィンの剃刀」にも似たようなシーンがありますが、「ダーウィンの剃刀」の方が面白かったかも)

ちゃんと正義が勝ち悪が負ける勧善懲悪がはっきりしていてスッキリします。

ただ、本書はちょっと読みにくいです。

原書の通りなのかもしれませんが、改行が少なく文字の羅列がきつい。

意図があるのかどうかわかりませんが、改行を少なくする事に何の効果があるのかわかりません。

誤字脱字は改善されていましたので、今度はそのあたりも見直して欲しい。

あと、表現が回りくどく、繰り返し表現も多用されていて、ストレートに頭に入って来ません。

トム・クランシーも著作を重ねるたびにそういう傾向が強くなって行きましたが、この手のマニアックな著者が陥り易い病気なのかも。




何にしてもそれなりに楽しめた作品で、「四十七人目の男」以降の後三部作としては最高の出来です。

しかし、ボブ・リーはいつまで命を掛けた戦いをしなければならないのか。

もし次もあるとすると、ボブは60台後半から70歳?

さすがにちょっと無理があるのでは…

そろそろ別のキャラを創造した方がいいのではないか。

そんな気がします…




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