2008年発表。
文庫2冊、825ページ
読んだ期間:7日
[あらすじ]
1986年のロンドン。
裕福な家に生まれたアンドリューは失意のどん底にいた。
8年前の18歳の時に一目ぼれした娼婦、メアリーが切り裂きジャックに殺された事を未だに悔やんでおり、遂に今夜自殺しようと決心した。
その時、いとこのウィリアムがある提案をした事で自殺を思いとどまる。
その提案とは、西暦2000年への時間旅行を実現したというマリー時間旅行社に行けば、過去をやり直せるんじゃないかと言うものだった…(第1部)
21歳になるクレアは、今の時代の女性のあり方に幻滅していた。
結婚し、子供をもうけ、その子を育て、良縁に恵まれるよう奔走し、そして老いて死んでいく人生。
そんな人生を歩むくらいなら死んだほうがましだと考えていた。
そんな時、友人のルーシーから西暦2000年への時間旅行をしてみないかと誘われる。
西暦2000年の地球は自動人形のソロモンに支配されていたが、人類の救世主シャクルトン将軍によりソロモンは打ち倒される。
それが時間旅行のハイライトだと告げられる。
シャクルトン将軍に惹かれたクレアは旅行に行き、西暦2000年の世界で生きていこうと決心する…(第2部)
スコットランド・ヤードのギャレット警部補は、ある死体に遭遇する。
体の真ん中に30cmもの穴の開いたその死体を見た時、ギャレットは一人の容疑者に思い至る。
それは西暦2000年に人類を救う英雄、シャクルトン将軍。
将軍の持っていた熱線銃こそが今回の殺人事件の凶器だと。
ギャレットは西暦2000年の世界に赴くため、マリー時間旅行社に向かう…(第3部)
スペインの作家、フェリクス・J・パルマが書いた19世紀を舞台にした時間小説。
スペインの新人発掘コンクール、セビリア学芸協会文学賞を2008年に受賞したのが本作。
ただ、パルマは当時、新人ではなく数冊の著作は既に発表しており、ただ、それはイマイチ売れてないものだったそうです。
本作は3部構成でそれぞれに主人公がいます。
そしてその主人公全ての関わりを持つのが「タイム・マシン」出版後のH・G・ウエルズ。
そしてウエルズのライバルとして登場するのがマリー時間旅行社社長、ギリアム・マリーです。
さらに本作は”私”の視点から書かれたものという設定。
それぞれの話とウエルズとマリー、そして”私”という俯瞰からものを見る存在が入り組んだ個性的な作品。
色々なところに敷かれた伏線が意外なところで結び合う上に、時間旅行・タイムパラドックス・パラレルワールドを絡み合わせるという、ミステリーとSFが混在した小説になってます。
ただ、SF要素は全体の1/3くらいで、SF的な理由付けは大して深くありません。
どちらかというとミステリー小説と言った方がいいかも。
巻末の解説には3部それぞれが独立した読み物としても成り立つと書かれていますが、やはり全部通して読んだ方がしっくり来ます。
比較的読みやすい小説ではありますが、残念な箇所があります。
まずは、説明文の長さ。
著者のクセなのかも知れませんが、色々な箇所で出てくる場面説明などを、一気に長々としてしまい、スピード感がそがれます。
例えばウエルズの生い立ちに連続60ページ、マリーが時間旅行社を設立するまでの経緯に連続40ページ、ウエルズが謎の娘から受け取る手紙に書かれた事の顛末が連続40ペ-ジ…
正直言って退屈です。
(ウエルズの生い立ちに出てくるジョゼフ・”エレファント・マン”・メリックの人生については泣けてくるけど)
さらに”私”の存在。
特に第1部では文章中にいきなり主観を述べる箇所がかなり出てきて、これもスピードダウンに拍車を掛けます。
そしてその”私”とは誰か。
それは無いだろう、と思ってしまうのはわたしの勘違いなのか?
勘違いなら良いがなぁ…
これを読んで何かに似てるなぁと思い出したのが筒井康隆氏の「虚構船団」。
「虚構船団」も3章構成で第2章は、ある惑星の歴史を延々と説明するだけの章だったり、第3章では筒井氏自らが登場し執筆活動の内幕をさらしたりしてるんで。
まぁ、ちょっとクセのある小説なので、興味が沸いた人は読んでみてください。
ハードSFや時間SFを求める人には向かないと思いますが、ミステリー好きでSFっぽいものに手を出したい人には適しているかも知れません。
