2006年発表。
文庫2冊、715ページ
読んだ期間:7日
[あらすじ]
14世紀、ドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)の上ホッホバルトの小村で奇妙な事が起こった。
雲も出ていない夏の夜、突然の落雷により火事が発生、周囲は強烈な静電気に包まれた。
森を探索に行ったディートリヒ神父はそこで奇妙な生き物に出会う。
バッタのような姿をした異形の者たちがそこにいた。
悪魔を連想させるその者たちだったが、彼らは明らかに傷つき苦しんでいた。
ディートリヒ神父は彼らを助ける事にした。
進んだ科学を持った彼ら=クリンク人はディートリヒ神父たち人間と会話を可能とする翻訳機を使い交流をはじめた。
領主のマンフレートは彼ら=クリンク人の持つ科学技術が活用できると踏み、彼らの滞在を許可する。
当初、村人との確執から衝突していた両者だったが、徐々に打ち解け交流が進んで来た矢先、ヨーロッパ全土に暗雲が立ち込める。
ペストの大流行により次々と人が死んでいく…
一方、現代では、統計歴史学者のトムが一つの難題に取り組んでいた。
ドイツの一地方、アイフェルハイムが何故、700年もの間、人の住まない不毛の地になっているのか?
また、同居している宇宙物理学者のシャロンも同じように一つの難題に取り組んでいた。
光速度の減衰と時空間の関係、ジャナパー理論の解明…
一見何のつながりもなさそうなこれらの事象が人類史上初の異性人とのファースト・コンタクトへの道へのつながりとなる…
良く調べると、何と今年初めてのSF新刊本の読書完了です。
著者のマイクル・フリンは長短編合わせて10タイトルを発表していますが、本書と他にもう1タイトルしか邦訳してない(?)作家のようで、聞いた気がしながらもタイトルは思い出せない作家でした。
本書はヒューゴー賞候補までは行った作品で、中世ドイツの人間とクリンク人との交流を中心に、現代パートであるトムとシャノンの研究が挟み込まれる構成。
クリンク人はバッタから進化したと思われる容姿の異星人。
長い手足と黄色い大きな複眼を持ち、蟻のようにはっきりとした役割分担を持った性質と比較的気の短い性格の、結構人間に近い精神性の異星人と言う設定。
人間側の重要人物としては彼らとの交流を積極的に進めたディートリヒ神父。
隠遁博士のあだ名を持つ進歩的で科学的な目を持つ宗教家。
当時のドイツは神聖ローマ帝国が統治し、イングランドとフランスは百年戦争の真っ最中。
そしてヨーロッパ全土でペストが大流行しているという暗黒の時代。
宗教の力も強く、そんな時に人外のものが現れれば当然悪魔とみなされる。
そんな状況で、異星人と人類がどうやってコミュニケーションを取り、お互いの交流を深めて行ったのか。
その過程が細々と説明されています。
それと平行して描かれる現代パートでは統計歴史学者のトムがいかにしてこの村の謎を解明するのか、そして宇宙物理学者のシャノンの研究とどうつながっていくのかが、ラストまで引っ張られ、なるほどと思わせる終幕を迎えます。
ちなみに現代パートの宇宙物理学者シャノンの研究については、「時間は量子化しており膨張する宇宙では減衰した光速度から引き出される余剰エネルギーは宇宙の内部に滑り込む…」とか何とかの非常に難しい話なので、結構大変です。
(実際良く分かりません(^^;)
下巻では猛威を振るうペストにより毎日村人が悲惨な死を迎えます。
大人も子供も男も女も見境無く襲う死。
そして残された者は身内や顔見知りの者たちの埋葬に明け暮れる日々。
今、この時代を生きるものとしては想像を絶する地獄の日々だったんでしょう。
流す涙も枯れ果てる中、クレンク人たちの一部はキリスト教に改宗し人間たちと協力してこんな絶望に立ち向かって行く…
ラストの現代パートまでしっかり引っ張る吸引力。
実に泣かせる小説でした。
他にペスト大流行時のヨーロッパを舞台にした小説ではコニー・ウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」がありますが、こっちも非常に泣ける小説です。
この時代に興味の出た人は是非読んで見て頂きたい小説です。
(いつも以上にまとまりがないんで申し訳ありません(^^;)
