1992年発表

文庫1冊、622ページ

読んだ期間:5日




[あらすじ]

ヴァン・ヘルシング教授がドラキュラ退治に失敗し、ドラキュラはついにイギリスの王となる。

そんな吸血鬼と人間の立場が逆転しつつあるイギリスで、新たに吸血鬼となったばかりの娼婦が惨殺されるという、連続殺人事件が起こる。

警察の必死の捜査をあざ笑うかのように次々と起こる事件に、それぞれの思惑を持った勢力が解決にあたろうとする。

絶大な権力を持つ秘密組織ディオゲネス・クラブはチャールズ・ボウルガードと言う諜報員を差し向ける。

イギリス首相で吸血鬼のルスヴン卿は、自分の血族となったばかりでかつてはヘルシングと共にドラキュラ退治の一員だった、アーサー・ホルムウッド=ゴダルミング卿に調査を命じる。

そしてスコットランド・ヤードは、ドラキュラよりも長命な見かけは少女の吸血鬼、ジュヌヴィエーヴ・デュドネに協力を仰ぐ。

3者3様の思惑の中、「切り裂きジャック」と命名された連続殺人犯を捕まえる事が出来るのか?




キム・ニューマンのドラキュラシリーズの第1巻。

もし、ドラキュラが生き残ったらどうなるかというif物です。

著者のニューマンは本書を書き上げるにあたり、古今東西の吸血鬼に関する歴史書、小説、映画や19世紀のイギリスに関する書物を読み漁り、

そこで得た知識を抑える事無く、ガンガン登場させています。

そのおかげで、550ページの本文中に300名に及ぶ名前のある人物が登場。

単なる引用で終わる場合もあれば物語で重要な役割を与えられた者もあり、

とにかくその数には圧倒されると共に、誰が何なのか把握するのが大変になります。

そこを補うため、訳者の梶元靖子氏は巻末に60ページ近い人物辞典を載せてくれています。

これは大変ありがたい。

事前に読んで予備知識としておくも良し、その都度確認するも良し、後でまとめて読んで再確認するも良し。

本書とは別に吸血鬼ものの知識としても使えます。




肝心の本書の内容ですが、ドラキュラが世界を統べたら(実際は英国ですが)というのはかなり興味のある話ですし、

大量の登場人物の背景も面白い。

数が多い割にはキャラも立ってるんで、メインキャラは混乱する事もありません。

ドラキュラ自体はラストになるまで出てきませんが、想像異常の怪物ぶりは圧倒的です。

3部作の1作目なのでこれで終わり?という印象が強く、どうしても続きが読みたくなる。

しかし、既に廃刊なので古本でしか手に入りません。




いかに本書で使われる専門用語の簡単な説明と、記憶に残った登場人物一覧を挙げておきます。




<専門用語>

・不死者(アンデッド)=ヴァンパイア、吸血鬼

・長生者(エルダー)…太古の吸血鬼。ドラキュラ、ジュヌヴィエーヴなど

・新生者(ニューボーン)…比較的新しく吸血鬼の仲間入りをした者

・子(ゲット)…親となる吸血鬼から見た自分の牙にかけた新生者の事

・温血者(ウォーム)…普通の人間

・転化…吸血鬼になる事




<登場人物>




チャールズ・ボウルガード(温血者)

秘密組織ディオゲネス・クラブの諜報員。

クラブの命令により「切り裂きジャック」事件の調査を行う。

ジュヌヴィエーヴに惹かれる。




ジュヌヴィエーヴ・デュドネ(不死者・長生者)

ドラキュラとは別系統の吸血鬼(長生者)。

16歳の姿のまま450年以上行き続けている。

ドラキュラのやり方は好まない穏健派。

医者、カウンセリングに従事。

スコットランド・ヤードから「切り裂きジャック」事件解決のための協力を頼まれる。

中国人長生者から付けねらわれる。



ゴダルミング卿=アーサー・ホルムウッド(不死者・新生者)

かつてヘルシングと共にドラキュラ退治の先頭に立っていたが、ヘルシング敗北後、

ドラキュラとは別系統でイギリス首相の不死者、ルスヴン卿の子となり彼の側近として

「切り裂きジャック」事件解決に臨む。

ボウルガードとは知り合いだが、彼の婚約者ペネロピを、彼女の望みもあり自分の子としてしまう。




悪魔博士=ドクター・フーマンチュー…「切り裂きジャック」事件により縮小傾向に陥りつつある売春組織からの要請により、ボウルガードに対して事件解決のため、闇の世界からの協力を申し出る。




ヴァン・ヘルシング教授…ドラキュラとの戦いに敗れ処刑された。




ヴィクトリア女王…ドラキュラと結婚。これによりドラキュラが英国の王になる。新生者。




ヴラド・ツェペシュ…ドラキュラ。ヴィクトリア女王と結婚後はプリンス・コンソートと呼ばれる。




ブラム・ストーカー…小説「吸血鬼ドラキュラ」の著者。投獄中。




ジャック・セワード…「切り裂きジャック」本人。かつてヘルシングと共にドラキュラ退治に立っていたが、彼が愛していた、ドラキュラのロンドンでの最初の犠牲者ルーシー・ウェステンラを自身の手で止めを刺した事から精神に変調を来たしている。




ヘンリー・ジキル(エドワード・ハイド)…「ジキル博士とハイド氏」の本人。ジキル博士の時に「切り裂きジャック」の被害者の検死審問を行う。また、ハイド氏として殺人事件を冒す。




オスカー・ワイルド…「ドリアン・グレイの肖像」の著者で男色家。その嗜好からドラキュラの嫌悪を買っている。




モロー博士…小説「モロー博士の島」の主人公。ヴァンパイアの生体に興味を持ち、ジキル博士と共同研究を行う。




マイクロフト…「シャーロック・ホームズ」シリーズの登場人物でシャーロックの兄。ディオゲネス・クラブの中心人物の一人。




マンドヴィル・メサヴィ…「ジェイムズ・ボンド」シリーズの登場人物Mの祖先という設定。ディオゲネス・クラブの中心人物の一人。




マーティン・クーダ…映画「マーティン 呪われた吸血少年」の主人公。ドラキュラ直属の近衛隊将校。




セバスチャン・モラン大佐…「シャーロック・ホームズ」シリーズの登場人物でモリアーティ教授の右腕。




教授…「シャーロック・ホームズ」シリーズのモリアーティ教授。ジュヌヴィエーヴらに圧力をかける。




オルロック伯爵…マックス・シュレック主演の「吸血鬼ノスフェラトゥ」の主人公の怪物的吸血鬼。ヴァンパイア用監獄の看守長を勤める。




ジョン・メリック…「エレファント・マン」の主人公の奇形の青年。英国王室の召使をしている。






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