発表:1667年
文庫2冊、874ページ
読んだ期間:8日


ジョン・ミルトンは1608~1674に生きたイギリスの詩人。
本書執筆時は失明のため口述筆記で執筆。
彼の生きていた時代の主な出来事には清教徒革命(1641-49)や王政復古(1660)などがあります。
世界史の授業で習った有名事項ですねぇ。


本書は全12巻構成の叙事詩で、文庫版では第1~6巻が上巻、7~12巻が下巻という構成になってます。


では、それぞれの巻毎にあらすじと感想を。


<上巻>


第1巻:神への反乱に失敗し、地獄に堕ちた直後のサタン軍団の描写。
自らも精神的・肉体的に傷付きながらも自分に付き従った反乱天使たちを叱咤激励し立ち直らせるサタンのリーダーシップは感動的。
また、地獄の大地から、造られながらせり上がって来るサタンの神殿の描写が印象的。


第2巻:今後の方針を決めるための会議を行うサタンと有力反乱天使たちの描写。
神が創ると約束していた新たなる生命(人間「アダムとイヴ」)を堕落させる事を決定し、彼らの住む場所(地球のエデンの園)へ誰が向かうかを討議。
非常に困難な旅が予想され誰もが尻込みするなか、ここでもサタン自ら一人で旅立つ事を表明。
やはり優れたリーダーシップの持ち主だ。
ただ、やると決めた事は嫌がらせというか八つ当たりレベルの低い志のものだし、それまで失敗続きのサタンなので心意気は買うが実績が伴わない、ちょっと頼りないリーダーではある。
実際に上司でいると困った感じにはなるものの憎めない、助けてやりたくなる、そんなカリスマ性の持ち主と言ったところか。


第3巻:一方、神は、このあとサタンがエデンの園に到達し、アダムとイヴをたぶらかして禁断の実を食べさせてしまう事を予見している。
神は天使にしても人間にしても選択の自由を与えているので、サタンたちの反乱も予見していても止めないし、アダムとイヴが誤りを犯すと分かっていても積極的に対策をとろうとしない。
これは神を敬う心も必然ではなく主体的選択で無ければ意味が無いという理屈に沿っている。
ここで、アダムとイヴの犯す罪を贖う者は誰かいないかと問うと、傍らに控えていた御子(キリスト)が立候補する。
その頃、サタンは太陽圏を監督する天使ウリエルを見つけ、下級天使に成りすまし、すっかりだまされたウリエルはサタンにエデンの園までの道を教えてしまう。


第4巻:まんまとエデンの園までたどり着いたサタンはアダムとイヴを観察。
蝦蟇に変身して、眠っているイヴの夢の中で禁断の実を食べるようそそのかす。
一方、ウリエルはだまされた事に気づき、エデンの園の警護天使ガブリエルに事の次第を説明。
ガブリエルはサタンを発見、サタンは一旦姿を消す。
ここでちょっと面白い事が書いてある。
「神は『生めよ、繁殖(ふえ)よ』と仰ってるんだから、禁欲なんてありえん!そんな事言うやつは人類の破壊者であり神と人類の敵だ!!」
なんて言ってる。
字面だけ取り上げれば面白ネタくらいにしか聞こえないですが、実はこの裏側には中絶禁止につながる深~い問題が孕んでいたりします。


第5巻:神は天使ラファエルをアダムとイヴの元に送り、サタンの誘惑について警告させる。
その過程で、サタンがなぜ反乱に至ったのかの説明をラファエルが説く。
まぁ、急に現れた御子(キリスト)が神の後継者なんて許せん!という分かりやすい理由でサタンたちは反乱したと。


第6巻:ラファエルによる、神の天使対サタン軍団の対決についての説明。
天使の1/3を率いるサタン軍団は、1日目は神の天使軍に押し返されるが、2日目はサタン自ら考案した大砲により神の天使軍を大混乱に陥れる。
しかし、神の天使軍は天の国の山をつかんで投げつけるというデーダラボッチ的戦法で大砲を破壊。
この後、お互い山を投げあう乱打戦に陥る。
そして最後の3日目。
神の雷霆(いかづち)を手にしたキリストが参戦、たった一人で(神の雷霆のおかげで)サタン軍団を壊滅させる。
サタン軍団は9日もの間、墜落し続け遂に地獄に激突する。


<下巻>


第7巻:引き続きラファエルの語り。今回は神による天地創造について。
以下、簡単に説明。
1日目「光、夕べと朝の創造」
2日目「天の創造」
3日目「大地と植物の創造」
4日目「昼と夜、太陽・月・星々の創造」
5日目「鳥類と海生生物の創造(リヴァイアサンも生まれる)」
6日目「地上生物の創造(ベヒーモスも生まれる)。そしてアダムとイヴの誕生」
7日目「お休み」


第8巻:ここはどっちかと言うとラファエルとアダムの雑談的なもので、取り立てて面白いという事もなく。
地動説と天動説のどちらが正しいのかの揺れるミルトン心が表れてます。


第9巻:いよいよ本書のハイライト、禁断の実、実食の巻!
ガブリエルに睨まれて一旦姿を消し、楽園をブラブラ散策していたサタンは寝ていた蛇に乗り移ってアダムとイヴの隙をうかがってます。
その頃、アダムとイヴは仕事に出かけます。


以下、アダムとイヴの会話(東京の彼女を持った大阪芸人風で)


イヴ「同じところを二人で作業してるのって効率悪いから、わたしあっち行って良い?」
アダム「サタンとか言う変なのがうろついとる言われたやんか。あぶないから二人で一緒にいようや」
イヴ「なに?わたしが信用できないの!」
アダム「そんな事言うとらんけど、あぶないし…まぁ、そない言うなら行ってきてもええけど…気ぃつけや…」


というわけでイヴは一人で仕事に出かけます。
これはチャンスとばかりにサタンはイヴに語りかけます。


蛇(サタン)「イヴちゃん、あそこの木の実めっちゃうまいで!それにごっつ効能高いねん。なんせ、蛇のわしが人様みたいにものしゃべるし考える事が出来るようになってんねんで!自分試してみいや!自分なら神様みたいになれるで!」
イヴ「へぇ、ほんと?何かすごそう!ちょっとだけならいっかなぁ」
と言って遂に禁断の果実を食べてしまいます。


あまりにおいしいのでバクバクいってしまった後、アダムのところに果実を持ってやってきます。
それを見たアダムは愕然とします。


アダム「おまえなんちゅうことさらしてくれてんねん!考えられへんわ!どうすんねん!!」
イヴ「ごめん、あの蛇がうまいこと言うからつい…」
アダム「ついやないやろこのドアホ!とりかえしつかんっちゅうねん!!」
イヴ「ほんとにごめん、ごめん、うえーん(泣)」


で、結局アダムも死なばもろともと禁断の果実を食ってしまいます。


第10巻:アダムとイヴが罪を犯した事を知った天使たちは楽園を離れ天国に帰ります。
その頃サタンは意気揚々と地獄への岐路に向かいます。
途中でサタンの血縁者「罪」と「死」と出会い、彼らはサタンが通ってきた道を逆に地球へと降り立ちます。
遂に地球は「罪」と「死」に蝕まれる事になります。
また彼らは旅の過程で地獄と地球の間に橋を築いたため地獄の勢力が地球に訪れる事が可能となってしまいました。
地獄に帰って来たサタンは並み居る堕天使たちに「やったぜ、イエーイ!」的な大演説をブチかましますが、時を同じくして神の罰が彼らを襲い、全員が蛇の姿に変えられてしまいます(一時的に)。
蛇は蛇で本人は体を乗っ取られた、ある意味被害者でもあるはずですが、これも罰を受け、一生、地面を這って生きる事を余儀なくされます。
神の恩寵を失った楽園では過酷な変化が訪れます。
常春の国マリネラのようにいつもポカポカした気候に夏や冬が訪れ、灼熱の日、凍える雪、吹き荒れる風、叩きつける雨が楽園を襲います。
いつも仲良しだった生き物たちには弱肉強食のルールが適用され、ほかって置いても美味しい実を付ける植物もしっかり手入れしないと育たなくなります。
何の事はない、現代の地球の事ですね。
アダムとイヴは自らの過ちを悔やみ、イヴは死を望みますが、アダムに諭され二人で神様に謝ろうと決意します。


第11巻:アダムとイヴの懺悔は神に届きますが楽園からの追放からは逃れられません。
神は名代としてミカエルを遣わし、アダムに対して今後起こる事のイメージを見せます。
カインによるアダムの殺害、病気の蔓延、堕落と姦淫、戦争、そしてノアの箱舟。
アダムは自らの行為に恐怖した…


第12巻:アダムに対して彼の末裔の悲惨な未来の幻視を見せたミカエルが、その後に起こる未来の続きを語ります。
バベルの塔の崩壊と言語の混乱、最初の預言者アブラハムの登場、モーセのエジプト脱出、バビロン捕囚、ダビデの治世、聖職者の乱れ、マリアの処女懐胎、イエス・キリストの降誕、磔刑と復活、そして最後の審判を経ての楽園の再興と人類の救済までを語ります。
これを聴いたアダムは最終的に救われる事を確信、イヴと共にミカエルに伴われ楽園を離れます。
ただそこには絶望だけではなく新たなる地への旅に似た、わずかな希望も含まれていた…


と言った感じです。
ちょっと長くなりましたね(^^;
ちなみに本文庫ですが、訳注だけで226ページもあるので、全体の1/4が訳注って事になります。
全部巻末にまとめてあるのでページを行ったり来たりがめんどくさく、若干読みにくいです。
この時代は、まだ、女性の権利がそれほど重要視されていないためか、女性は男性の従属物だとか、男性を堕落させるもの的な書かれ方がされているので、そのあたりは時代性と割り切って読むべきだと思います。

 


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