2008年発表の同名の名作ゲームのノベライズ。
「愛国者達」による4つのAIとそれを統括する上位AI「JD」により情報統制が確率した世界。
そこでは兵士と彼らの扱う兵器全てがSOPシステムという、ナノマシンを使ったシステムにより制御され、さらにPMCと言われる民間傭兵会社が戦争を商業化していた。
そんな中、かつてリボルバー・オセロットだった男、現在はリキッドと呼ばれる男が、世界の戦争を手中に収めるため、大規模な行動を起こす。
それを阻止するために白羽の矢が立ったのは、リキッドと同じ遺伝子を持つ伝説の男、ソリッド・スネーク。
彼は、自身の亡霊とも言える存在に終止符を打つため最後の戦いに挑む…
本書は2009年に急逝した伊藤計劃の2作目の長編小説です。
「メタルギア」シリーズという超有名なゲームの信奉者だった著者は病床の中、嬉々として本書の執筆に勤しんだんでしょう。
本書の構成は、スネークの相棒であり親友でもあるハル・エメリッヒ(ニックネーム=オタコン) が、ある人物に残したスネークの回顧録という形を取っています。
「メタルギア」シリーズは1987年に第1作が発売され今現在も新作が発売されるほどのロングセラーシリーズですが、本書の題材になっている「ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」は2008年に発売されたものです。
と、いかにも知ったかぶりで書いてますが、わたしはこのゲームを一切やった事はなく、知識と言えばTVCMを見る程度。
当然、バックボーンがさっぱりわかりませんが、本書は「メタルギア」知識の無い人でも楽しめるように、「メタルギア」世界の重要事件の解説や関連人物の紹介も違和感ない形で著しながら、本編が読み進められるよう工夫がされています。
とは言え、20年に亘る「メタルギア」の歴史をわずか500ページ程の中に記すには密度が濃すぎ、少々とっつきにくいというか、「蚊帳の外」感が若干あります。
キーとなる過去の重要事件、アウターヘブン蜂起、ザンジバーランド騒乱、シャドー・モセス事件、ビッグ・シェル占拠事件などや、それに関わるスネークやオタコン以外の重要な登場人物である、雷電、ナオミ・ハンター、ヴァンプ、全ての現況であるビッグ・ボス、ソリダス・スネーク、ザ・ボス、ゼロなど、背景や因縁が複雑怪奇に絡まりあうキャラクターたちといったいかにもゲーム設定らしいちょっと奇をてらった感のある複雑で難解な設定を理解するのは中々難しいところもありますし、それはやりすぎだろうと思えるアニメ的な展開(例えば両手を失った雷電が刀を歯で咬みながら暴れまわるシーン)などハードルの高い箇所は幾つかあります。
一転二転どころか三転、四転、5転もする展開にクラクラもしますが、読み進んでいるうちに、いつしか「メタルギア」世界にどっぷり漬かっている自分に気づきます。
主人公のソリッド・スネークはビッグ・ボスのクローンとして生まれ、数々の伝説的な活躍をした戦士ですが、遺伝子操作により急速な老化を強いられ、40歳台でありながら70歳の老人ように老化し、マッスル・スーツによる補助により何とか作戦に従事するという状態。
しかもかつての作戦において投与された遺伝子指向性の致死性ウィルスFOXDIEが体内で変質し、全人類に対する脅威と化すまで残り3ヶ月。
3ヶ月の内にリキッド・オセロットを倒し、自身の命も無に帰さなければ成らないという過酷な状況を強いられます。
スネークは伝説の英雄ですが、痛みも感じれば死への恐怖もある普通の、しかし最強の男。
一方、相棒のオタコンはメタルギアの開発者で日本のアニメマニア(オタク・コンベンションの常連なのでオタコン)。
この二人の友情物語でもある本書はただのゲームのノベライズ作品にとどまらず、人間とは何か、戦争とは何かを考えさせるまでの昇華を見せていると言っても過言ではない(かも)。
本シリーズはゲームしかないのでしょうか?
アニメがあれば観てみたかったのですが…
(ゲームはちょっと大変そう(^^;)
